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【✏】えんぴつ堂 #85~#112

使用の手引き…https://note.com/souffle_lyric/n/n0ba1320f658a
ごゆっくりどうぞ!

【85】
【✏】梨を、誰もが食べる。犯罪者も、被害者も、関係者も、傍観者も。それぞれの食卓の上、満月が落ちて果実になった。ああリンゴよりも何だか落ち着く、夜は知恵の木の実なんて要らないもんなあ。水分を摂取する。喉が潤う。黙って梨を、誰もが食べる。

【86】
【✏】

『 ~♪』

近距離で生演奏されてもバイオリンの褒めどころなんて分からん。拍手すれば良いのか。

『……!♪、!♪!
!♪!♪!!!♪!♪!、
♪♪、♪♪!』

防音室のテンポが上がった。叫ぶ弦に負けないように、彼女が叫ぶ。

「キミにも手や足や喉があるだろう!さ、入っておいで!」

【87】
【✏】そりっどぱひゅーむ、なんて難しい呼び名だけ頑張って覚えて、そしたら本当の名まえは忘れちゃった。カンカンのふたを開ければお花の匂いがふわり。ゆび先にぬれば教室にちょっとだけ、わくわくの風がふく。
ありがとママ、これなら先生にばれません。帰ったらかた、たたいてあげるね。

【88】
【✏】“ ストロベリーガール“”になるの、そう言って僕の彼女は速やかに荷物をまとめ出した。隣にいるのが僕だけでは足りないらしい、たくさんの人から恋や愛をしてもらわないと、軒並みいる大粒イチゴ志望の女の子に勝てないらしい。
“ だって、イチゴが白くて許されるのは花まででしょう?”

【89】
【✏】「天使もストレスって羽に来るんだな。魔界のトレンド曲も告って振られて羽痛める曲多すぎなんだよ」「悪魔もそういう表現するんだね。天界の恋愛小説でも右飛翔筋だけ何度も痛んだりして…」「それなあ!」「…翼のない生き物はどこか傷つくのかな?」「さあ…なんも感じてないんじゃね?」

【90】
【✏】彼は他人の挨拶を宝石に変える。「これは“おはよう”、これは“またね”」宝石箱をコツコツと叩く。「真剣な言葉よりも上の空めの方が好きだな、絶妙な曇りや色が出る」日用品としての強度しかないから、燃やして処分できるらしい。「来てくれて“ありがとう”」色のない声で彼はマッチを擦った。

【91】
【✏】「あたし絵馬買っちゃおかな…恋愛成就」「…いーんじゃね?」「私も、やってみようかな…」「あー…、じゃ俺も」「じゃ、5つってことで…」皆で神社で絵馬なんて買う癖に、誰も、誰が、誰を、好きか、語らない。進みたい、壊せない。いつもこうして誰かがぎこちなく踏み出しては、止まるのだ。

【92】
【✏】華散り峠にゃ鬼が居る。華々と鬼は愛し合ったが子を成せぬから、峠に迷い込んだ子供に只管、片っ端から“しるし”を刻む。“しるし”を持った幼子共がいずれ熟し、成した赤子を掻っ攫い育てるのだ。男だろうか女がいいわ、褒めと躾の天秤や如何に、華散り峠は番いの峠、華散り峠は夢を見る。

【93】
【✏】きみは最近、追いかけてきてもらえた?……ぼくは一度だけ不満を叫んで、泣きながら皆の輪から駆け出したことがある。真っ直ぐ走って、曲がって走って、そして見つからないように待った。誰も追いかけてきてはくれなかったね、そんな風に夕陽のオレンジは言った。きみは最近、誰かを追いかけた?

【94】
【✏】「──さあ、季節を告げに行きなさい」少女の肩や指先から、無数の翅が空へと滑る。トンボだ。「蝶とか妖精の方が綺麗って思う?」「そんな…格好良いよ」「…何種類くらい知ってる?トンボ」「そ、それは…勉強する」「あはは、期待してる!」とんと地を蹴って、彼女も夕焼けへと飛び立った。

【95】
【✏】
“あなたは誰の人質なんですか?”
三年日記の、去年の今日にこう書かれていた。
“あなたの口には、布も、縄も、猿轡も、ギャグボールも入ってませんよね。私の口は、どうしていつもこんなに、重いんですか”
不安定な筆跡が、今年の自分を刺し貫く。来年の自分は、解放、されているのだろうか。

【96】
【✏】雑貨屋に並ぶシャンプーはまるでアイドルみたいだけど、家に連れて帰る間に魔法は解けてしまうようだ。これからは生活感溢れる浴室に置かれ、溶けてく入浴剤とかすっぴんとかシャワーに混じる涙に慣れてもらわなきゃいけないし、出が悪くなってきたらお湯を足されるのだ。諦めて覚悟して下さい。

【97】
【✏】コックピットで眠ると笑われる言うけれど、寄宿舎に戻ったってクラスメイトに嘲笑われるから良いや。僕を初めて空に導いてくれた機体なんだ、オンボロだろうと何だろうと、整備時刻まではついていてやりたい。
うとうとと睡魔が忍び寄る。人間と夢の引力関係はまだ、明かされないままでいい。

【98】
【✏】小さなドールの髪を撫でながら、願い事を唱える遊びが女の子の間で流行っているらしい。「…というわけで婚約者さん、わたしの髪もなでてください」「…それで一体どんな願いを叶えてくれるんですか、フィアンセさん」「なでなでしてほしいというわたしの願いが叶います」……御意。

【99】
【✏】「偏見ないし理解はしてるけど、関わりたくはないっていうか」浴びせられる言葉に、視界はぐにゃりとマーブル模様。「いや対応とかできないし、近寄られたら逃げ…っていうか距離置くっしょ」そう、そうなんだ…。淀む言葉がぐっしょりと体を濡らす。境界線って、どんな風に存在してるんだろう。

【100】
【✏】「ダッシュで間に合え速攻登校!GOしたいのに赤信号!矛盾するこの…えーッと」「ここでチャリ通俺が登場、気分も上々休みは屋上…ッてテッメ乗ってくンな!」「ニケツを即決!ニケツで解決ッ!!」「しねェよバーカ、地ベタでチャイム聞けライム下手!」【…… Verse 8:27】

【101】
【✏】片手で背中を優しく撫でて、もう片方で強く肩を抑える。差し出された華奢な首筋に、吸血の牙を立てた。「い゙ッ…!」涙に滲む赤が、とても、美味しい…。「ううっ…!」「…良かったよ…」散らばる絆創膏の中から、一番目立つ柄を貼ってあげる。渇きの夜に、またその首筋を見つけられるように。

【102】
【✏】最近は転じる事が少なくなったね、教授はそう言いながら、「起承□結」の□に“虚”とか“孤”とか“偽”などの字を書いては消す。うーんそぐわないなあ、ボードイレーザーを走らせ「起承 結」にした。うーんでもこんな続くのももう珍しいかもね、ボードマーカーのキャップを開けた。
「起消」

【103】
【✏】うちの猫のタマという名は多義語であり、いくつもの想いを込めて呼ばれている。弟は「白玉に似てる」妹は「卵に似てる」と主張する。祖母は「御魂祭りの日に来 子から」、父は「多摩川沿いで拾った猫だから」、祖父と母は単に「呼ぶのが楽だから」。…私?私のは願掛け、「叶え玉の輿」の略だ。

【104】
【✏】初めてそっと校則を破った日、それでも広い空の色は大して変わらなくて、がっかりした覚えがある。
だから、もしも好きな人ができたらそのパッチワークな空の一部になりたい。それでいちいち大袈裟なリアクションをしてやりたいなって、思ったのだ。

【105】
【✏】星には星座を以て、花には花言葉を以て、ぼくらの先祖は澄まし顔で踏み込んでしまった。だから、きっと、星座や花言葉はぼくらの気持ちをどこか回り道させるのだ。美辞麗句を連ねた便箋がまた一枚、ぼくの手によってゴミ箱に飛び込んだ。

【106】
【✏】上手く言えない気持ち達が、一つ一つ縫い目に変わる。布地に刻まれたしるしとなって、この現実に現れてくれるのだ。渡せ、渡せ、きっと上手くいく。良いものが縫い上がるから渡すんだ、この手で。
機械的だからこそ迷いがない。ミシンの音ほど暖かい、味方になってくれる音をわたしは知らない。

【107】
【✏】泊まりに来た俺を出迎えた彼女は、鶴嘴を抱えていた…。「これ防犯っ。グッズとか良いって連絡くれた時、丁度ホームセンターにいたから」バットより安全、ブザーより危険…。「これで掘ったりもできるよね!…とりあえず靴箱置いとこ」ガゴォン。明日の朝の俺、どうか靴べらと間違えるな。

【108】
【✏】今朝のゴミ捨て場、やけに栄養ドリンクの瓶が多い。最早この骸達で何か錬成できそうだ。その名も「疲労の塔…とか…」「えぇ?ヒーロー?」声の主は上階の親子だ。「こらっ…、ごめんなさいね。慰労、とかですよね?」「あ、まあ…」疲労、ヒーロー、そして慰労。きっとどれも間違っちゃいない。

【109】
【✏】ママはカーテンを開けないまま、リビングの机に突っ伏して震えている。ぼくは冷蔵庫のタマネギを両手に抱えた。人間っぽい肌色のものがこれしか思い浮かばなかったのだ。パパはたぶん、もう帰ってこない。「これパパ、ぼく、ジィジだよ…」そう言ってママのそばに、タマネギをいくつも並べた。

【110】
【✏】「サラダ食べに来なよ。ロマネスコ貰ったの。ドレッシングいくつか買ってきて」僕も姉も菓子が苦手だから、代わりに何となく野菜を摂る。小動物のようにもさもさと、縮こまって食む。「和風、シーザー、イタリアン」「わふー希望」ガラス皿の上に咲く菜っ葉と、コーン、プチトマト、ロマネスコ。

【111】
【✏】「ほっぺた染まった、赤すぐりみたいだね」「…赤すぐり?」「うん。知ってる?」頬を撫でられ、背中には無知ゆえの冷や汗。ぐ、グミの実みたいなやつだっけ…?「調べていいよ」無言でスマホを弄る私、にこにこと眺めてくる視線。ロマンティックを蛇行させるのがお好きなようだ、私の王子様は。

【112】
【✏】赤子だって大樹を切れる。大樹をブッシュドノエルに、チェーンソーをピックにして、心配なら親御さんが手に手を添えれば目的達成できるのだ。そんなのは違うと言われそうだけど、例えばぼくらの“夢”だって、色や形や道筋に拘るほど“悪夢”になる。選ばない方がいいのはきっと、手段よりも装飾だ。

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