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ヘドロの創作 2024/10/20

 【猫の喫茶店】

 猫世界はずいぶんと寒くなった。マスターが朝「灰猫」の鍵を開けると、店内は冷え切っていて、おもわずくしゃみが出た。
 風邪をひかないように気をつけなきゃな……とマスターは自戒しつつ、営業の準備を始めた。天気予報によるときょうは一日冷えるらしい。きっとアツアツの紅茶がいっぱい出るだろう。常連なら裏メニューの「ホットのミルクセーキ」を注文するかもしれない。これはプリンになる寸前を飲むもので、この近辺では「灰猫」のマスターにしか作れない。

 エノコロ小路は相変わらず賑やかだ。年寄りは朝が早い。エノコロ小路は人間っぽく言えば「お年寄りのハラジュク」なので、歩いている猫は年配の猫ばかりだ。
 開店早々、「あー寒い寒い!」と言いながら年配の三毛猫の集団がどやどやと入ってきた。みなロイヤルミルクティーを注文する。マスターはでっかい鍋でロイヤルミルクティーを煮出して、アツアツをカップにそそいで提供した。
 まあ猫なのでしばらく冷めるのを待たないと飲めない。それでも「あちちち……」と言いながらみんな嬉しそうに飲んでいる。
 その日は「ホットのミルクセーキ」も珍しく出た。なかなか忙しい1日だった。猫世界ももうすぐ冬になるに違いない。マスターは紅茶の茶葉をよく吟味して仕入れなくちゃいけないな、と思った。
 夕方ずいぶん遅くなってから、インド料理店「タージ・ミャハル」の大将がやってきた。「コーチャとぱんけーきクダサイ」と発注されたので、紅茶をパンケーキを作って出す。

「ンー、灰猫のマスターのコーチャおいしーね」

 もちろん「タージ・ミャハル」の大将はニコニコだ。

「インドっていうのはさぞかしあったかいところなんでしょうねえ」

「インド? キタのほーにいくとサムイよ。やまいっぱいだからネ」

 そうなのか。てっきり南国だとばかり思っていた。

「ア。うち、アルバイトやとってていくあうと始めたから、いつでもオベントーかいにきて」

「分かりました。近いうちにお邪魔しますね」

 次の日、「灰猫」のマスターは隙間の時間で「タージ・ミャハル」に向かった。マスターと同じく濃い顔をした店員に、カレー弁当のテイクアウトをお願いすると、あっという間にカレーとビリヤニとサラダがセットになった弁当を渡された。
 マスターは「タージ・ミャハル」の大将に手をひらひらさせて、笑顔をいただいたところで「灰猫」に戻った。

 カレー弁当を昼に食べつつ、「灰猫」のマスターはぼーっと、どこか暖かいところに行きたいなあ、と思った。南の島とか温泉地とか。
 ファンヒーターの温風がぬくい。猫なので暖かくなりたいのは仕方がない。マスターは南の島で日光浴したり、温泉地の砂蒸し風呂に埋まったりするのを想像しながら、カレー弁当を平らげたのであった。

「ぼーる……きになる」


 ◇◇◇◇
  おまけ

 きのうは2匹アブを仕留めた。壁に止まっているのをズバァンと丸めた新聞でやっつけ、よしこれでオッケーと思ったらもう1匹ゴミ箱のフタの上にいて、ゴミ箱をそっと壁にぶつけてぷちっとやっつけた。
 アブが飛んでいると聡太くんが「なんだ? なんだ?」とやるので仕方がない。アブには申し訳ないが、だれかが刺されて流血するまえにやっつけねばならない。
 聡太くんはやはりどこか鈍臭いようで、たまちゃんのように一撃で仕留めることができない。ドタドタ追いかけたらアブは逃げるのだ。
 そういえば今年は蚊がすごかった。出かけるとき車に乗ると一緒にヤブ蚊まで入ってくるのだ。そいつらもけっこうな数仕留めた。運動音痴のわたしにしては今年はなかなか頑張ったと思う。ただ止まって動かなくなったところを潰していたので、味見されてしまうこともよくあったのだが。
 さすがにもう蚊は出ないだろうと思うが油断してはならない。来月ぶんまで聡太くんのフィラリアの予防薬がある。ところによってはまだ30度の真夏日だというではないか。北海道では雪が降ったというのに……。

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