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ヘドロの創作 2024/11/24

 【猫の喫茶店】

 マスターは仕事が昼の仕事がひと段落して、昼ごはんを食べた後一休みしてマタタビキャンディをなめよう、とポケットに手を突っ込んだ。
 ……なにかがポケットでひっかかっている。なんだ? 飴玉なんか入れたから引っかかったのか? 引っかかっているものをマスターは無理やり引っ張り出した。
 引っかかっていたのはスマホであった。バッテリーのところがパンッパンに膨らんでいて、百均の手帳型ケースとの間に肉球を挟める隙間が思いっきり空いている。思わずしっぽを踏まれたみたいに、あるいはホラー漫画みたいに「ギャッ」と声が出た。
 まずい、これはまずい。物持ちのいいマスターとはいえさすがにスマホが膨らむのは想定外だ。何年使ってたんだ? マスターは思い出そうとしたが分からなかった。猫なので。
 そりゃ通販に失敗するよな、と思いつつも、そこは関係あるんだろうか、と考え込む。いや、考えている場合じゃない、機種変だ。

 マスターはスマホが爆発しないかビビりながら、近くのショップに予約の電話をかけた。若い店員は「明日ならいつでも空いてますよ」という。それはありがたい、さっそく朝1番で予約をとった。在庫の商品もわずかながらあるらしい。
 マスターはスマホが爆発しないか不安だったので、家に帰ってからスマホをベッドの遠くに置いて寝た。でも充電しないと機種変のときデータを引き継げないので、恐る恐る充電もした。
 起きたら朝のこっ早い時間だったので、日記帳を少し遡ってみた。なんといまのスマホは8年前から使っているものだった。さすがに無理がある、最近は電池もゴリゴリ減っていたし、やっぱり機種変が一番よかろう。
 その日の午前中は休業して、機種変に向かった。新しい料金プランやら電子決済のアカウント作成やらを勧められたがひたすら断った。とにかく新しいスマホにしなくては、の一点突破で乗り切った。

 在庫があったのは、超最先端の二つ折りスマホと、そこまで新しくない、いままで使っていたものと同じメーカーのものだ。超最先端のやつは恐ろしく高いので、そこまで新しくないやつにした。
 それでも去年発売された機種だ、カメラの性能が飛躍的に上がっているのは背面についたでかいカメラレンズ二つを見ればわかる。
 自分じゃぜったい空気の入ってしまうフィルムの貼り付けをお願いし、専用のケースをつけてもらって、代金を聞いて悶絶しかけ、それは毎月の料金に上乗せしてもらうことにした。

 さて。
 喫茶「灰猫」に戻ってきて、マスターは猫らしい好奇心でカメラの性能を試したいと思った。というわけでさっそくクリームソーダを作り、ピカピカのスマホで写真を撮ってみる。
 するととんでもなく「エモい」写真が撮れた。ソーダの泡まで写っている。マスターは目をぱちぱちした。
 その日の夜、「タージ・ミャハル」の大将がやってきて、スパゲッティナポリタンを食べながら、マスターのスマホが新しくなっていることに気づいた。

「それでこんどこそつーはんできるね」

 それはもうノーサンキューなのだった。

「かおを……もちもち……すな……」


 ◇◇◇◇
  おまけ

 おやつ制度を復活させてから聡太くんが楽しそうだ。おやつというのは希望になるのだなあ、と思う。
 おやつだよ、と声をかけると寝ていても起きてきて「おやつですか!? おやつですね!?」としっぽを立ててついてくる。嬉しそうで嬉しい。
 おやつ制度というのは聡太くんの大いなる喜びであったのではないかと思う。人間だって買い物にいけばマウントレーニアのコーヒーやらアイスクリームやらを買い食いして嬉しくなるのだ、いわんや猫をや、である。
 それにおやつ用に取っておいたササミの一部を残したカリカリの器に入れると「うまうま……うまうま……」とぜんぶ食べてくれるのだ。素晴らしい発見ではあるまいか。おやつの力は偉大である。

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