小説『人間きょうふ症』27
「佐藤さん。ここで何をなさっているのですか?」
「…べ、別に、何もしてないよ。ただ単に涼もうかなって」
「あら、そう。てっきりクラスメイトから逃げていたのかと思っていましたわ。」
この状況は何か見覚えがあった。高校一年生だった頃のアレ。記憶が薄々と蘇ってくる。
「最近の生活はどうですか?」
「ま、まぁ、慣れつつはいるよね。」
多少の焦りを感じながら答えた。
「そうねー。では、もっと慣れるために私からのアドバイスあげるわ。」
A花さんは、指をパチンと鳴らした。何だか騒がしい音がし始めた。そこには複数の女子が現れる。
「彼女を飛びっきり可愛くしてあげて頂戴!」
私は一人のハサミを近づけてくる子を見て、放心状態になりかけた。この状況から逃げ出さなければ。そう思い、逃げた瞬間、他の女子たちが私を追いかけに来て、腕を引っ張ってきた。力づくで逃げようにも、数の多い相手には敵わなかった。ハサミの子がだんだんと近づいてくる。コトン、コトン。悪魔の歌の伴奏のように聞こえるローファとハサミのチョキチョキ音は次第に大きくなっていく。
私の目の前でハサミを大きく開いた瞬間、ある声が聞こえた。
「何をしているのですか?騒がしいですよ。」
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