小説『人間きょうふ症』28
先生の声が廊下で鳴り響いた。
「あら、K先生、いらっしゃったのですね。奇遇ですわ。」
「何をしているのですか?」
「K先生には関係のないことですわ。」
「いえ、それはないと思いますが。ハサミは振り回していたら危ないので私が預かりますね。そして、イエス・キリストみたいに佐藤さんを捕んでいるようですが、何かの儀式でしょうか?」
「K先生、ワタクシのパパのことご存知ですわよね?」
「ええ。勿論存じます。」
「パパに言えば、K先生の職場がなくなることは分かっていらっしゃる?」
「それも存じます。」
「仕事辞めたいのかしら?」
「百合園さんが知ることではないと思いますが。まず、佐藤さんを手放してから話し合いませんか?」
「お断りするわ。下手なことすれば、佐藤さんに痛い目を合わせるわよ。」
先生は、深く息を吸い言った。
「もしかして、そのハサミでですか?それだと、あまり切れないのでは?私が切れ味の良いもの渡しましょうか?」
「え…。」
先生の試行錯誤がよくわからなかった。A花さんの味方についていたの…?先生に見捨てられた…の…?でも、最初の手放すよう促したのはどういうことなの?頭の中が真っ白になってしまった。
「あら、考え直したのね。やっぱり職場は失うと困るからですわよね。そうと来れば、K先生の手に任せるとしましたわ。では、あの小汚いモップを切ってもらいますわ。」
「わかりました。んじゃ。」
先生の目は殺意が湧き出るような、そんな気がした。よっぽど私のことが嫌いだったのかな…。迷惑だったのかな…。
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