小説『人間きょうふ症』⑧

 朝になった。私は早く学校へ行き、以前、課題を課されたあの教室で待った。のちに、K先生も入ってきた。
 「おはよう。ちゃんと寝れた?」
 「…まあまあ。…先生、少しだけ先生のこと信じますよ…?」
 「えぇ。ちゃんと話を聞いてできる限り助けるから安心して」
 俯いた顔で恐る恐る自分の身に起きた経緯について語り始めた。
 元々留学をしていて、高校一年生となって帰国し、初期は帰国子女だからと皆からの評判は良く、成績も優秀だったことから当てにされることは多かったこと。人に頼りにされることはとても嬉しく、そのためにもっと頑張ろうと思ったが、精神的に不安定になったこと。それが原因で勉強などを教えることができなくなり、クラスメイトに避けられるようになって、授業中とかに具合悪くなって助けを求めても無視されること。先生側からの軽蔑のことも全て話した。
 「だからこれはもう無理だと思い始めました。なので、1年生の間だけはなんとしてでも我慢してきた。でも、2年生になってからも同じようなことがあるって考えると、やっぱり自分の気持ちを落ち着かせて、自分のペースで勉強とかした方が良いと思いました。私の親には本当に申し訳ないとは思うんです。でも、精神状態が不安定になるよりは、こうやっていた方が気楽なんです。…先生、これって頑固でわがままなんでしょうか…。」
 先生はずっと無言だった。もしかしたら、私の相談に乗っていることを後悔している。きっとそう。私が我慢すれば良いだけなのにも関わらず、言ってしまった。自分は醜い人間だ。そんなことばかり頭の中で考えていたとき、泣き始める声がした。頭を少し上に傾けると、先生がハンカチを持ち、むせ返っていた。
 「…ごめんなさいね。泣き沈んでいるところを見せるのははしたないよね。ここまで色々考えていたね。頑張ったよね。本当に本当にえらい。」
 先生の慰めと涙につられたのか、目から大きい涙が何粒も零れ落ちた。
 「佐藤さん、本当にごめんね。優しくて努力家。そんな佐藤さんはもっと幸せを感じるべき。一旦、あなたのために何かできないか考えます。」
 涙を何度も何度も拭きながら、言っていた。

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夕渚
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