小説『人間きょうふ症』⑨
次の日、私は久々に勉強した。内容を理解していたとしても、その知識をどう使うのかを考える力を養わないといけないと思ったから。苦手な現代文は相変わらず手を出すことはなかった。
数時間経ち、倫理の問題集を十数ページ解いた時だった。ふと、K先生が涙を流していた場面を思い出した。あの時、どう声をかけたらよかったのか。そんな思考がやめられなくなり、勉強はやめた。
昼ごはんをサッと食べ、制服を着て、家から出た。自分から行くにはかなりの自信が必要だったと思う。でも、それより先生のあの表情がかなり気になり、行くという選択肢しかなかった。
学校に入り、先生と会わないかなと考えながら静かな廊下を歩き回った。すると、不図押し殺すような怒鳴り声が聞こえた。
「何ウロウロしているんだ!」
人が怒鳴るところを聞くのは久方ぶりで驚きのあまりに走ってしまった。
「止まりなさい!」
声を響かせ、足音も段々と大きくなってきた。私は恐怖心を抱え、必死に少人数用の教室に逃げ隠れた。しかし、事もなく、居場所がバレてしまい、腕をつかまれ、引き摺られた。私はあわてふためて逃げようとしたが、握る力が強すぎてできなかった。そして、男性の先生はドアをガラガラと開ける。
「Y先生、どうしたんですか?」
聞き覚えのある声が聞こえた気がした。
「こいつ授業中なのに廊下で散歩してたんで、声かけたら逃げたので追いかけて連れてきました。」
「あれ、佐藤さん?今日は自分の意思で来たのね」
やっぱりK先生だ。でも、私は男の先生が怖くて、声が出なかった。
「Y先生。連れてくるのであれば、腕を強く握らないでください。そして、追いかけるってどういう事ですか。このまま続くようだと、Y先生、あなた問題になりますよ。」
K先生は鋭く話した。全て察していたようだった。
「あ、。すみません。以後気をつけます。」
「その反省言葉だけでは信頼はなくなります。きちんと行動にも移せるようにしてください。今はこの子と話しますので、Y先生はもう大丈夫です。」
すると、Y先生という人はどこかに行った。
「佐藤さん。なぜ走ったのですか?もし、何かにぶつかったり滑ったりしたら、思わぬ事故に遭うことだって考えられたんですよ?」
「…ごめんなさい。」
「今回だけよ。まあそれはそうと、今日は勇気を出して学校きたのね。」
さっきの鋭い口調からいつもの優しい声に直して言った。
「…えっと、、。先生、元気かなって思って…。」
「私は見ての通り元気よ。でも、他に何かあるんじゃないの?」
先生には敵わないんだと感じ、私は半笑いしながら言う。
「…やっぱり先生はなんでもわかるんですね。なんか、読心術でもあるんですか」
「佐藤さんにとってそんなところなのかな?まあ、話をしたいのであれば、前に話していたあの少人数教室でちょっと待っててもらえないかな。あと少しで20分くらいの会議が始まるから。」
「わかりました。待っていますね」
私は微笑んで言った。