小説『人間きょうふ症』④
学校に着く頃、K先生は前回と同様に校門前で待っていた。
「んじゃ、行きましょうか。」
先生はそう言って、以前と同じように準備室に行った。
「元気?」
「まあ、はい。」
「そう、。本読みたいとか言ってたけど、どんな本読んでるの?」
「、、哲学の評論、とかです。」
「哲学ね。好き?」
「好き、というか人間について理解したいから読んでいるだけです。」
「どういうこと?」
そのことについて、うまく説明ができなかったから何もいえなかった。
「んじゃ、質問を変えよっか。その本を読んで、何か学べましたか?」
「、、特に何も。読んでいても意味がわかりません。おそらく何年経っても全てを理解することは私には無理があります。でも、もしかしたら何かわかるかもしれない、そんな気持ちで読んでいます。」
先生は神経を慰撫するような声で言った。
「哲学はそういうものです。知っているかはわかりませんが、あなたのクラスで倫理を教えています。私は大学で哲学を研究する学科に在学していました。いろんな人の哲学書や思想についての知識を深く調べました。でも、完全に理解するところまでは辿り着くことはできませんでした。なので、佐藤さんの言っていることは普通なんです。逆に、そこでベラベラ話し始めていれば、確かにきちんと理解しているのかもしれないけれども、今の私のように、ほとんどの場合はそこに書かれていることを丸ごと引用しているに過ぎないものです。」
すると先生は立って、直ぐ隣の本棚を漁り始めた。数分すると、
「人の何かについて知りたいのであれば、それは時間をかけて学ばなければならない。哲学の理解を向上させたいのだったら、まずはこれを読んでみるといいかな。佐藤さんは何について知りたいのかはわからないけれど、言う気になったら教えて。その時は、お勧めできる本探すから。あと、それが読み終わった時は、学校に来て、それについて話しましょう。あ、あと、来る時は電話かけなくていいから。」
何が目的なのか。糸口が見えない。学校にいたとしても、この先生といると、なぜか心は落ち着いていた。