小説『人間きょうふ症』22
2年生となって初めての授業。薫風に吹かれる季節は何か新しい知らせを告げているような気がした。先生が助けに来てくれるという安心感が頭の片隅で理解していたからかもしれない。
でも、またあの雰囲気になるのかもしれない。イスに書かれたあの言葉、ロッカーの鍵がかけ、中に何も入れられないようにされたあの行為…。他にもあるけれど、それらを思い出すだけで何か不吉な感覚でしかないので、深く考えるのをやめた。
朝は早く行き、一番乗りで教室の中で授業が始まるのを待った。その間にクラスメイトは次々と現れる。中には初めてみる生徒も一人いた。おそらく転入生かなんかだと思う。去年までは皆と話したり、時間を過ごしたりすることは多かったので、名前も顔も全員のを覚えている。
朝のホームルームで担任の先生の顔を久しぶりに見る。初登校ぶりだったかな。でも、実質今年初めてかもしれない。
「それでは出席を取ります。」
担任は次々と名前を呼んでいく。
「…えっとー。いないと思うけど…佐藤さん。」
「はい。」
「え、あ。いた。去年ぶりだねー。よろしくねー。」
「あ、はい」
私って存在薄いの?教卓だからといって、見えにくいとは思わないんだけど…。逆に目立っているはず…。
「はい、全員揃っていますね。今の時点では連絡は特にありませんので、ホームルームはここで終わりにしたいと思います。号令。」
「起立。気をつけ、礼。」
号令も終わり、一時限目が始まる。最初は…。得意である世界史だった。準備も終え、椅子にずっと腰をかけていたら、クラスメイトのA花さんが目の前に立った。去年と同じように髪はお嬢様のようにくるくるとしていて、姿勢も綺麗だ。
「佐藤様。お久しぶりですね。最近はどうお過ごしでいたのですか?」
相変わらずの口調。多少の皮肉さを感じる。それでも、気にしていないふりをして、話してみる。
「そうね、まずは受験勉強ってところかな。」
「そうなのですね!授業以外でもお勉強なさるのね。意外ですわ。」
「A花さんはどう?」
「わたくしですか?わたくしは、毎帰宅、≪マリアージュ・フレールのマルコ・ポーロ≫を淹れて、フランス語会話のレッスンをしていますわ。」
「マリアージュ・フレールはミント風味がマッチしているから、味わい深いもんね。」
「あら、佐藤さんってティーについて詳しかったのですか?」
またまた。皮肉さが懲りない。以前は彼女が悪いように言っている感覚を感じなかったが、今の自分はあの術を持っている。去年は、おフランス製がどーのこーのだとか言っていて、感嘆していたけれど、今は嫌味を言っているようにしか感じられない。ここで一つ掛けてみようかな。
「まぁ、ティーに関しては、フランスと日本のものであれば、多少ならわかるよ。」
この一言でA花さんの表情は少し変わった。
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