第1話 はじめに
今から数十年前の話です。
私が20歳の頃、重度の脱毛症が始まりました。
ただのハゲというよりも、もっとひどい状況です。なぜか、片方の眉毛が全てなくなるところから脱毛症が始まりました。そして、前頭部、後頭部にも虫食い状に脱毛症が広がり、明らかに病的な見た目になってしまいました。
原因は不明でした。強度のストレスだったのか、食べ物による強いアレルギー反応だったのか、何かの原因はあったのでしょうが今になってもその理由は分からないままです。
そして、数十年が経過した今も、状況は全く改善していません。今でもまだら状に髪の毛が生える部分と生えない部分がありますが、見苦しくないようにスキンヘッドにしています。眉毛も両方ともなくなった状態です。
多感な青年時代を迎えていた当時の自分にとって、この病気は人生の全てを否定されたかのような大衝撃でした。洗髪の度にどんどん抜けていく髪の毛を見ながら、病院へ行ったり育毛剤を試したり試行錯誤を繰り返しましたが、状況は悪くなる一方でした。
半年間、ほとんど自宅に引きこもっていました。入学したばかりの大学にも全く行かなくなり、一年生だというのにほとんど全ての単位を落とす結果になりました。
自分の全てに対して自信を喪失し、も抜けの殻のような状態になってしまいました。完全な鬱状態です。
当時、どうすればよかったのか。
今でも良い答えはありません。外見に対する自信を失ってしまった人に対して、有益なアドバイスなどないのです。
でも、私は今もこうして無事に生きていて、比較的平穏な毎日を過ごすことができています。
当時の私と同じように、自分の外見に自信が持てずに悩んでいる方がいらっしゃると思います。その悩みは根源的であり解決不可能であり、とても重いものになっているでしょう。
そのような方々に向けて自分の体験をお話ししたいと思い、この文章を執筆しました。
この文章を読んでも、あなたの悩みを解決することはできないと思います。でも、あなたの悩みに寄り添うことはできます。
私が体験したこと、私が考えたこと、私が実践してきたことなど、同じ悩みを持った人がその後にどうやって生きていったのかをお話しすることで、悩みに対してどうつきあっていくべきなのか、そのバランス感を探ることができるかもしれません。
暗いトンネルの中に入ると、全く光が見えなくなります。
進めば進むほど、漆黒の闇が広がり恐ろしくなります。
でも、それでも歩き続けると、実は色々なところから小さな光が差し込んでいたことに気付きます。その光を目指して歩くと、だんだん光の束が大きくなり周りが見えるようになってきます。
長い時間がかかるかもしれませんが、ふと見まわすと、トンネルをとっくに超えていたことに気づくのです。