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第21話 新しい居場所への初日

部活時代の友人が、私が手持ち無沙汰にしているのを見かねて、活動場所を紹介してくれました。スポーツを楽しむサークルでした。

私は、あまり前向きな返事をしなかったのを記憶しています。
自分自身の心の浮き沈みが激しいので、多数の新しい人と出会って交友関係を築いていくことに自信がなかったのです。
でも、友人はそんなことお構いなしでした。
「まあ、いいから。とにかく行くぞ。明日も練習があるから、一緒に行こう」
そんな感じでした。強引にひきずられるような形で、私はサークルの練習に初めて参加しました。

そこにいたのは、温かな心を持つ人ばかりでした。
その日、アフターという言葉を初めて知りました。練習を終えた後に、近所のファミレスなどに集まって夕食を取りながら話をすることです。そこで、色々な人と話をすることができました。
サークルのメンバーは友人経由で私の話を少しは聞いていたのか、大学の単位をほとんど取れていないことまで知ってました。実家にこもりきりだったせいで、下宿の電話代すら払えず電話が止まってしまっていたことも知っていました。そんなバカなことばかりやっている自分のことを面白がってくれて、根ほり葉ほり色々なことを質問してくれ、それを笑いに変えてくれました。
最初の日から、とても楽しい時間を過ごすことができました。

家に帰ってから、一日を振り返ります。
自分は変な見た目をしているけど、他人にとってそれが気になるのは最初の1分だけなのかもしれないと感じたのです。
多くの人と初対面でした。彼らも、私の顔を見たときに脱毛が進んでいるという違和感は覚えたはずだけど、それは本当に最初の一瞬だけ。スポーツを一緒に楽しみ、いろいろと話をする中で、私の見た目のことなんて全く気にしていない。そういう風に感じることができたのです。

それはごく当たり前のことなのかもしれません。でも、それまでは肌感覚として信じられなかったのです。
こんな見た目の自分が、他人に受け入れられるはずがない。そういう恐怖心につきまとわれていたので、自分の見た目を抜きにして初対面の人々と談笑できるなんて思えなかったのです。
でも、実際にたくさんの人が自分を受け入れてくれ、自分の外見には何も言及せず、普通の大学生として会話を楽しむことができました。
サークルの人にとってはごく普通の1日だったと思いますが、私にとっては大きな手掛かりを得ることができた1日でした。

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