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夏の思い出とdaylight
夏は何かと人生の転機になる季節だった。
高校生の夏に初めてホームステイで行ったアメリカ。今思えば短いが出発前の高校生には3週間はとても長く感じた。
しかし行ってみると3週間は一瞬で、終盤には帰りたくないと泣きそうになる始末だった。英語もまだまだなレベルだったが同い年の子と毎日のように遊び、ドライブした。車中でかかる音楽を一緒に聞くたび好きな洋楽が増えていった。
今でもその曲を聴くと当時の楽しい記憶が蘇ってくる。
音楽には記憶を呼び起こす効果があると思う。
それからいくつかの夏が過ぎた。
大学生の夏。約9ヶ月過ごした派遣留学先から帰る頃だった。高校生の頃は大学生になったら留学してまたアメリカに戻るんだと決めていたがなぜだかアメリカとは全く違う英語圏ですらないヨーロッパの国に留学していた。人生ってわからないなと思う。今でもどうして自分がこの国に留学することにしたのかはっきりと分からない。言うなれば直感だった。
高校生の頃と変わらず、留学が終盤に差し掛かった頃、私は毎日のように帰りたくないと友達に漏らしていた。日本は生まれた国で大好きな国だし日本食も大好きだ。でもそれとこれはやっぱり別で。9ヶ月も留学していると非日常はだんだんと日常になっていくがそれでもやはり非日常なのだ。小さなことに感動して、新鮮で、毎日がとても楽しかった。留学先では携帯の通信量が無制限なのでよく音楽のストリーミングサービスを使っていた。プレイリストにお気に入りの曲を入れそれをシャッフル。部屋でもシャワーを浴びる時もいつも音楽を聴いていた。そしてある時、既存のプレイリストの曲に少し飽きて新しい曲をいくつか追加した。そこには高校生の時アメリカでよく聴いていたMaroon5のdaylightも入っていた。高校生の私はこの曲のメロディーが好きでよく聴いていた。
派遣留学先からの帰国前日の日。私はいつものように部屋で音楽を流しながら、荷物のパッキングをしていた。明日の朝には飛行機に乗らなければならない。生活の一部となっていたこの土地を離れるのが信じられなかった。その時にちょうどMaroon5のdaylightが流れてきた。今まで何度も聞いてきたがこの曲がここまで心に入ってきたのは初めてだった。メロディーと歌詞が自然と体に入ってきた感じがした。
The sky is getting bright, the stars are burning out
Somebody slow it down
このフレーズを聞いた時思わず泣きそうになった。こんなにも今の私の心情に近い曲があるだろうか。
朝になったら行かなきゃいけないの、ああもう空が明るくなってきた。誰かお願い、時間の流れをゆっくりにして
アメリカでなんとなく聞いていたこの曲は今回の留学を持ってして決定的な別れの曲になった。でも歌詞とは少し違いそれはどちらの場合もただ悲しい別れではなくどちらかと言えば未来への希望を含んだ別れだった。
いつか絶対戻ってくるから。
また会おうね。出会えてよかった。
別れるのは悲しいけどいつかはこんな時がくるんだから。出会えてよかったよ。
聴くとアメリカの思い出が蘇っていたあの曲は今ではその思い出に加えて大学生の留学の思い出も蘇るようになった。
晴れた夏の日。明日が帰国日と知りながらみんなで一緒にフリスビーゴルフをして遊んでいた。あの別れを前にした無邪気な楽しさが音楽を聞くたびに蘇る。
最後に交わしたハグ。またねの言葉。次に会う時にはもっと成長した自分でいたいと強く思った。
音楽と思い出はリンクしていると思う。けれどそれは不変ではないのだ。