戦う「父親」たち −なぜ本気で育児をすると葛藤するのか−
今回の卒論は、共働きで日常的に育児する父親へのインタビューから、「男性育児の葛藤」を明らかにしました。
予測できない育児、妻の評価、お互いの仕事との兼ね合い…。いろんな悩みを抱えて、彼らは育児と向き合っています。
「イクメン」という言葉の盛り上がりとは裏腹に、なかなか進まないこの国の男性育児。「オヤジ社会」から見れば『異世界』に飛び込んでいる父親たちは、日々どのように戦っているのでしょうか?
どうも、タカシです。
今回の卒論紹介のテーマは、「イクメン」の「葛藤」。
そもそも「育児する父親」を「イクメン」として特別視するのは、それだけ男性育児が一般的でないということですよね。
「リケジョ」や「ワーママ」のように「男社会」に女性が飛び込んで葛藤しているように、男性育児を本気で行えば、そこにはたくさんの葛藤あるようです。
彼らはどのように日々を戦っているのか、男性がもっと育児しやすくするために何が必要なのか、明らかにしていきます。
まずは、卒論の内容をまとめたスライドをどうぞ。
なるほど。
主体的になればなるほど、葛藤が大きくなるという、男性育児の大変さが伝わってきます。
パートナーのキャリアをただ尊重して、父として「自然に」育児するということが、こんなに大変だとは…。
どうも、この卒論を書いた人です。
卒論のポイントを少しまとめますね。
・自称「イクメン」は別にして、主体的に育児に取り組む父親には、特有の葛藤があります。
・それは、共働きの中、育児・家事をいかに分担、マネジメントし、妥協点を見つけていくのかという葛藤であり、また夫には授乳や出産自体ができないことや、知識の量や負担感の差などの面により、育児において妻のほうが優位な立場であることからくる葛藤です。
・そしてその葛藤は、育児に主体的になればなるほど大きくなる。男性の育児がこれからさらに進んでいけば、葛藤を抱く父親は今後増えて行くでしょう。
男性育児が進み、葛藤が大きくなれば、「イクメン!」とちやほや言ってられなくなりそうですね。
今後男性が育児をより主体的に行えるために、何が必要だと思いますか?
育児の分担をめぐる負担を減らすためには、一般的な保育に加え、病児保育など便利なサービスや資源が近くにあること、「育児の社会化」が進む必要があります。
あとは、ママ同士のコミュニティだけでなく、「男性目線」で話し合えるパパ同士のつながりが大事ですね。
そして何と言っても、職場の理解は必要ですね。
待ったなしで求められる育児資源にしても、変わる必要のある職場に対しても、社会の声は大きくなっていますよね。
働き方や育児資源、いくつもある壁をどう超えていくのか?この卒論の関連記事として、こちらにまとめてあります。↓
こんな記事を紹介しています。
さて、この卒論の担当教員は、なんと育児に悩む父親本人でもあるそうです。日々、研究室で先生が育児の愚痴をこぼすのを聞いていたことが、著者がこのテーマを選ぶことにつながったそうです。
葛藤を抱える本人でもある先生、この卒論についてどのように思われますか?
この論文は、決して父親たちの個人的な愚痴の集積ではありません。
男女雇用機会均等法(1985年)施行後に理念先行で職場に総合職として参入した女性たちの経験と同じように、『異世界』に飛び込み、傷つき、踏みとどまろうとする先駆者たちの葛藤の結晶なんです。
この父親たちの中から、『男性版』東電OLや村木厚子が生まれ、きっとここがターニング・ポイントだったとあとから思う論文なのではないでしょうか!
(男社会の中で葛藤した女性たち、東電OLや村木厚子については、こちらを参照
厚労省でお茶汲みからキャリアをスタートした村木厚子事務次官が語る、女性たちの“ゆるく働く”思想に潜むリスク)
女性が「自然に」働くために戦ってきたように、男性も「自然に」育児できるようなるためには、今はまだ、日々の葛藤を経験しなければいけない。女性も男性も、昔むかしに規定された役割を超えて、葛藤しながら生きているんですね。
思えば、待機児童の問題にしても(保育園落ちた!日本死ね!)、働き方改革にしても、戦っているのはいつも女性でした。
本気で育児に取り組む男性が増えることで、やっと女性と男性が足並みをそろえて、育児や働き方を取り巻く環境を変えていくことができるかもしれません。
夜泣きや突然の病気、日々の分担に苦しむだろうし、妻になかなか認めてもらえないかもしれない。やればやるほど悩みの尽きない育児に取り組む人たちを応援します!
「関連記事」では、働き方や育児のあり方を問う記事や、現状を動かそうと行動する人たちの記事を紹介しています。
この卒論の本文は、ただいま掲載準備中です。掲載日時は未定です。
卒論紹介note「タカシとソツロン」では、内容をまとめたスライドや著者の言葉と共に、卒論の中身を届けます。次回も、家族の形やケアに関するテーマを取り上げます。
構成:林昌之(京都府立大学福祉社会学科)
論文:京都府立大学福祉社会学科2016年度卒業論文「共働き夫婦における育児・家事分担をめぐる男性の葛藤から見た「イクメン」の再検討」−石上尚枝
担当教員:中根成寿(京都府立大学公共政策学部准教授:家族社会学・社会福祉学)