山の話2 初めての正月合宿
冬山への出発、高まる期待と不安
いよいよ待ちに待った山岳会の正月合宿が始まる。荷揚げ山行から始まり、雪上訓練合宿まで、幾度となく重ねてきた準備が、いよいよ実を結ぶ時が来た。
年末の喧騒の中、上野駅に集合した。
同じような目的を持つ山男山女たちが、ザックを背負い、わいわいと談笑している。
その中に紛れていても、どこか浮いたような自分を感じてしまう。
初めての冬山、初めての剣岳。期待と不安が入り混じり、心臓がバクバクと鳴っている。
夜行列車に乗り込むと、車窓から見える街の光が次第に遠ざかり、代わりに静寂が訪れる。
外の景色が変わるにつれて、私の心も変化していく。
高揚感と同時に、一抹の不安が頭をよぎる。
果たして、私はこの過酷な冬山を無事に乗り越えられるだろうか。
そんなことを考えながら、眠りについた。
富山駅に到着すると、車窓に広がるのは、朝日を浴びてキラキラと輝く雪景色だった。
深い吸息とともに、冷たい空気が肺いっぱいに広がる。
緊張と期待が入り混じり、心臓がドキドキと鳴っているのが分かる。
いよいよ、私の冬山デビューの始まりだ。
富山駅からは富山地鉄に乗り換え、上市駅へ向かう。
車窓から見える雪景色に、ますます高揚感が高まる。
上市駅に到着し、改札を出ると、そこには私たちを乗せるトラックが待っていた。
荷台にザックを積み込み、自分たちも飛び乗る。
トラックは雪道を力強く進んでいく。
窓から吹き込む冷たい風と、エンジン音が、冒険心を掻き立てる。
荷台は揺れ、体は軋む。
キスリングの重みと相まって、体中に疲労感が広がる。
それでも、周りの仲間たちの笑顔を見て、私も頑張らなければと気持ちを奮い立たせる。
トラックは、雪深い山道をぐんぐん登っていく。
窓の外には、木々が雪化粧をした冬景色が広がり、道の両脇はまるで雪の壁のよう。
轟轟と響くエンジンの音と、タイヤが雪を踏みしめる音が、この旅の始まりを告げる。
やがて、小さな集落、伊折に着いた。
そこから馬場島までの林道は、隊列を組んで2時間ほど歩いた。
雪に覆われた林道は静寂に包まれ、時折、木々の枝から雪が落ちる音が響く。
雪に覆われた山々は、まるで別の惑星に来たような錯覚を与えてくれた。
木々の枝には霜が降りて、キラキラと輝いていた。雪に覆われた林道は、まるで銀世界が広がっているかのようだった。
先輩たちの背中を追って、早月尾根へ
馬場島に着き、いよいよ北アルプスの雄大な山々が現れた。
その中でも、早月尾根は際立って険しく、まるで鋭い牙をむいているようだった。
まだ、その厳しさを理解していなかった私は、ただ先輩たちの後をついていくことしかできなかった。
新雪が降っておらず、昨日先輩方がつけたトレースがくっきりと残っていたため、ラッセルすることなく、比較的スムーズに進むことができた。
しかし、早月尾根は予想をはるかに超える長さで、次第に足が重くなり、呼吸が苦しくなった。
特に新人メンバーは苦しそうな様子で、隊列は次第に長くなっていった。
私は、これまでの荷揚げや訓練山行で培った体力と経験があったおかげで、先輩方についていくことができた。
夕暮れが迫り、周囲は薄暗くなってきた。
そんな時、先発隊の先輩たちが駆けつけてくれた。
荷物を分担し、励ましの言葉を掛けてくれる。彼らの姿に、私は勇気をもらった。
暗闇の中、ヘッドライトの光を頼りに、ヘロヘロになりながらも、今日の寝床となる雪洞へとたどり着いた。
雪洞の中は、外とは比べ物にならないほど温かく、ほっと一息ついた。
ほっと一息ついたのもつかの間、食当の仕事が待っていた。
新人は必ず食当が割り振られていますが、今日は先発のメンバーと今日の新人メンバーで担当だったので、少しだけ楽をすることができた。