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山の話 7 下山の日



1月4日 

早朝、テントの外は、昨日の猛吹雪が嘘のように静まりかえっていた。

空には、まだ雲が厚く垂れ込めていたが、風はやみ、わずかに明るさが感じられた。

今日は、頂上へ向かうサポート隊と、2600mで雪上訓練を行う隊に分かれる。

八ッ峰隊は、撤退を決めて下山を開始したとの連絡が入った。

頂上隊は、食料が底をつきかけており、昨日は予備食のラーメンを1個を4人で分け合って過ごしたという。

女性隊下山する。


正午頃、サポート隊は無事に頂上に到着。

頂上には彼女たちの雪洞しかなく、直ぐに頂上隊と合流し、食料を届けた。

3日間分の食料を一気に詰め込み、空腹を満たす彼女らの表情は、子供のように輝いていた。

下山は、サポート隊が事前にルートを開拓したおかげで、スムーズに進んだ。

2300mのベースキャンプに戻ると、温かいラーメンの香りが辺りに漂っていた。疲労困憊したサポート隊の面々は、熱々のラーメンをすすりながら、今日一日の出来事を語り合った。

しばらくすると、見上げる斜面から、女性隊たちがぞろぞろと下りてくるのが見えた。

リーダーは、しんがりを務め、最後尾を歩いていた。

日焼けした顔には、疲労困憊しながらも達成感に満ちた笑顔が浮かんでいた。

下山


午後になり、ようやく雪が止み、雲間から青空が覗き始めた。

全員が揃ったところで、撤収作業を開始。

テントをたたんだり、残置物を回収したりと、皆で協力して作業を進めた。

夕暮れ時、私たちは、暮れから正月まで暮らした岳人の館を惜しみながら、下山を開始した。

14名のメンバーが重いキスリングを背負い、隊列組んで下山する光景は圧巻に見えた。

我々の向かっている先に、日本海が輝いている。

何か誇らしかった。

早月尾根は、他の山岳会の下山跡で、トレールがしっかり付いていた。

私は、濡れたテントを背負い、キスリングが重い鉛のように感じられ、段々と隊列から遅れてしまった。

薄暗くなった頃、早月尾根の取りつきまで下りてきた。その近くにある朽ちかけた作業小屋の中に入り、今晩の宿とした。

正月合宿の最後の夜、私たちは、それぞれが満ち足りた気持ちで、酒を飲みながら山の話を語り合った。

リーダーを中心に、笑い声や冗談が飛び交い、深夜まで宴は続いた。

18歳の冬、私は、人生で初めて本格的な冬山登山に挑戦した。吹雪に見舞われ、凍てつく寒さに震えながらも、仲間と力を合わせ、仲間との絆を深めた忘れられない経験となった。

おわり





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