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『連載 椅子のない部屋』vol.4 話したくない
ひょんなことから彼氏でもなんでもない人と一緒に住むことになった。
1週間くらいの期間限定。今日決まったことなのに、何故こうなったかは思い出せない。
今日の夜、ワタナベくんはセミナーに。
私は仕事終わりスタバで原稿を書く。
その後合流し、彼おすすめの蕎麦屋でご飯を食べてきた。
電車での帰り道、彼はスマートフォンで読書をしていた。私はそれをぼんやり眺めていた。
「スマホ触ってばっかなの嫌?」と彼は聞いてきた。
私も読書しようかなと考えていたので、嫌ではなかった。が、
「別になんとも思ってないよ。あなたが何しようと別に関係ないし、今話したくないから大丈夫」と私は答えた。
可愛げのな言い方。
私はこんな答えしか出来ないくらい、昔から超がつくほど、ひねくれ者だ。
彼はその言い方にひっかかり、
「冷たいね」とだけ答えた。
夜道も私の数歩前を黙って歩いて行く彼。
家に帰っても何となくぎこちない。
話しかけても、「話したくないんでしょ」と言われてしまう。
ワタナベくんも少し面倒なやつなのかもしれないが、何となく「そんなことないよ、話そう」の一言が言えない。
『すれ違い』ってやつは、突然やってくる。
特に私は『意地っ張りバリア』で人を寄せつけなくなる。
ずいぶんと不貞腐れる。
怒ってんの?と聞かれると、怒ってないと言い、
何に怒ってんの?と言われても、何も怒ってないと答える。
内心何も怒ってないようで、怒ってるんだけど、
小さなことに腹を立てたから、今更?というのもあるし、少し膨れたくなる。
なんだか言い出せないし、言えば言うだけ、
茶化される気がする。
だから、言えない。言いたくない。
でも言いたい。普通に話したい。
…と、今日の反省を書いていたら、
ワタナベくんからさっきの一言は悲しかったと言われた。
お互いの気持ちを明かすことは時には必要。
寛大な気持ちでその人の負の感情を包み込みたい。
一緒に住んでいるからこそ安心させたい。
私のことで不安にさせたくない。
そう、布団の中で誓って、ワタナベくんにごめんねと謝った。
かなも。