年末特番 音楽バラエティー
[特]年越し者!あったかホリデー
時計の針が日曜日の午後六時三〇分を回る。
◯オープニング
ステージセット中央に北風小僧の寒太郎が立っている。スポットライトに照らされた寒太郎、白いスーツにサドルシューズ、それに三度笠という格好で、ギターを高く構えている。
北風小僧の寒太郎「いっちょパーッとのん気に行っか!それーっ!」
北風小僧の寒太郎、はずかしファイブと共に『すっ飛び野郎』を演奏。
スタッフ、観客、拍手喝采。
VTR①オープニング・タイトル
数秒ずつ映像を切り替えながら、今年一年の色々なニュースを陰気なのや愚劣なのも含めて全部流す。しかしようく見ると、ズームアップすると、或いは、人物がパッと振り返ると、またその顔の前にある物をどけると、渦中の人物は皆どれも番組の出演者達が扮している。
それぞれ紛争のままタイトルコール。
しあわせトリオ「夢を抱えて膝も抱えろ!」
尾千葉文子「頭を抱えて腹も抱える!」
北風小僧の寒太郎「年越し者ッ♡」
エキストラ含む全員「あったかホリデー!!」
VTR終わり。スタッフ、観客、拍手喝采。
スタジオに北風小僧の寒太郎、尾千葉文子、平日安美の3人。挨拶~軽くやりとり。
演芸 しあわせトリオのコント『旅館』
平日安美「生放送で歌やコントをお届けする年末特番『年越し者!あったかホリデー』まずはコントでお楽しみ下さい。それでは尾千葉さん、ご紹介をお願いいたします」
尾千葉文子「私の古くからのお友達です。ご存知、しあわせトリオの3人です。どうぞ」
出囃子が鳴り、しあわせトリオの3人がステージ中央に踊り出る。ネタ披露。
浴衣に半纏を着た、しあわせトリオの三人が登場。
三人、楽しそうに話しながら登場し、向かって左から、田中ぼた餅、南しん平、烏山四郎の順にあぐらをかいて座る。
◯寿司
南 しかし、いい湯だったな
烏山 そして夕飯は寿司!見てよ、もう支度が出来てる!嬉しくなっちゃうな
南 早速乾杯しよう……温泉旅行一日目、お疲れ様でした!乾杯!
烏山・田中 乾杯!
烏山 よし食うぞ
田中 こんなに贅沢しちゃっていいのかな
南 いいんだ、いいんだ。こういうときはパーッと行くんだよ
烏山 田中、お前うに食べれる?
田中 俺うに大好きだよ
烏山 俺駄目なんだよ。あげる(中央にいる南の前でうにを渡す)
田中 マジで?じゃあ代わりに俺のいかあげるよ(中央にいる南の前でうにを受け取る)
烏山 サム&デイブだな
南 ギブ&テイクだろ
烏山 ……俺はいかが大好きなんだよな。ここにのっけて(中央にいる南の前に皿を差し出す。南、迷惑そうな顔をする)
田中 うん。ちょっと待ってね
南 サム&デイブってよく考えたら昔のソウルシンガーじゃねえか
田中 はい(南の前でいかを渡そうとする。南、迷惑そうな顔)
烏山 サンキュー(田中からいかを受け取ろうとしながら、中央の南に向かって)……スティーブが邪魔だなあ
南 スティーブって誰だよ!さっきから邪魔なのはお前らだよ!鬱陶しい
◯酒
烏山 そう怒らないの。だけど、こういう宴会ってのはやっぱしいいもんだね
南 たしかにそうだな
田中 俺さあ、最近なんか疲れてたんだよ
烏山 あらそうなの?
田中 だけどね、今日はもう最高だよ(グッと飲み干す)
南 おい、お前そんなに飲んで大丈夫か?
田中 大丈夫だって(またグッと飲み干す)
南 ……そうか?
透明な女将さんが酒を持ってくる。
烏山 あ、お酒を持ってきてくれた。ありがとうございます
南 ありがとうございます
田中 おめでとうございます
南 何を言ってるんだよお前は
烏山 もう酔っぱらったのか?
田中 (酔っぱらった声で)酔っぱらってない
南 水飲めよ
田中 女将さん、このお寿司美味しいよ。ねえ、女将さん、このマグロは女将さんが釣り上げたの?
南 違うだろ
田中 ……「そうです」?「そうです」だってよ!アッハッハ!「そうです」ッ!ヒーッ!……嘘つけ、この野郎!このヤロウ!…………それッ!……それッ!
南 お前に合わせてんだよ…………お寿司を投げるんじゃない!
田中 (透明な女将さんのお酌を制しながら)いいですよ手酌でやるから。おせっかい
南 絡むなよ
田中 ……困るよ女将さん
南 今度は何だ
田中 そりゃ困りますよ。俺だって女将さんのことは好きだよ。だけどそんな目で見られちゃ。この部屋は俺たち三人で泊まる部屋なんだからね。そこんとこきちッと分かっといてもらわないと……後で来て、夜這いしようったってそうはいかねえぞ、この色気狂い!
南 お前だよ!
◯ボーリング
烏山 なあ、せっかく来たんだからさ、旅館の中をぐるり回ってみようよ
南 それもそうだ。そういえば、さっき風呂へ行く途中に色々見かけたよ
三人立ち上がる。
烏山 あ、見てよ。ボーリング場があるよ
南 よし。いっちょやってみっか(南、ボールを投げる)
ボールが舞台袖まで転がるとピンが倒れる音がして、それとともに、どういう訳か、後ろで見ていた烏山と田中がその場で倒れる。
烏山・田中 (起き上がりながら)上手いなあ
南 ……。(首を傾げつつ、もう一度投げる)
どういう訳かまた後ろの二人が倒れる。
烏山・田中 上手い上手い。
烏山 次は俺が投げるよ(烏山、ボールを投げる)
南、ピンが倒れる音と共にわざとらしく倒れる。しかし今度は田中と烏山は倒れない。南、恥ずかしそうに起き上がる。
烏山 ガーターだ
南、ひっくり返る。
◯クレーンゲーム
南 いいよもう、次はゲームセンターに行こう
田中 色んな昔のゲームがあるけど……
南 ここはやっぱりクレーンゲームだろうな
烏山 よし。やってみようか
三人の頭上に大きなたらいが降りてくる。南がクレーンゲームを操作すると、吊るされたたらいが連動して前後左右に動くしくみ。
南 まずは俺からだ。よーし(クレーンを操作する)
烏山 もうちょっと右だろ
南 そうか?
田中 そうそう、バカ!もう少し左だよ
南 ……ここか?
烏山 いいぞ!
田中 そこだ!
南 よし、ここだ!(ボタンを押すと南の頭にたらいが落ちてくる)……アイテッ!!何だこのゲームはッ!ばかばかしい!
烏山・田中がゲラゲラ笑っていると、たらいが更に二つ降りてくる。南がボタンを押すと二人の頭にもそれぞれたらいが落ちる。
烏山・田中 あイテッ!
◯カラオケスナック
烏山 何だかなあ……あ、今度はスナックがあるよ
南 スナックか。ちょっと入ってみようか
田中 誰かがカラオケで何か歌ってるよ
三人、店内を覗き込んでピタッと止まる。
南・烏山・田中 あ!
烏山 サム&デイブがいる(三人ひっくり帰っておしまい)
スタッフ、観客、拍手喝采。
尾千葉文子、はずかしファイブの演奏で『君のことを』を歌う。
スタッフ、観客、拍手喝采。
唐突にマジシャンのミスター・プラクティスが現れ、マジックを披露。
スタッフ、観客、拍手喝采。
CM①(ご飯のお供にピリ辛きゅうり)
お悩みジェスチャー
拍手喝采。
横一列にずらりと並んだゲストたち。その中央に司会者たちがいる。
北風小僧の寒太郎「お悩みジェスチャ~ッ☆」
尾千葉文子「まずはゲストの皆様をご紹介致します」
ゲスト紹介~軽くやりとり。
平日安美「コーナー説明をいたします。ゲストの皆様には、視聴者の皆様から頂戴したお悩みに、ジェスチャーでお答え頂きたいと思います」
平日安美アナウンサー、手持ちのカードに書かれたお悩みを読み上げる。
平日安美「ペンネーム無頼派貧乏さんからのお悩みです。せっかくの休みなのに朝起きてうどんを食べただけで疲れてしまいます。どうしたらいいでしょうか?思いついた方は挙手をして下さい。吉田さん早かった」
モテモテ原人の吉田、片足を上げながら、両腕を羽ばたかせて、タコのような口をする。
大盛り上がり。やんややんや。
コーナーの途中で裏番組『ぐうたら現代人』に出演していた漫才コンビ、ザ・ぎんざの二人が到着。少しやりとりがあった後、『お悩みジェスチャー』に二人も加わる。
CM②(クリスマスプレゼントには、蚊取り線香)(ご飯のお供にピリ辛きゅうり)
『お悩みジェスチャー』の続き。
CM③(つらい低気圧に、蚊取り線香)(ご飯のお供にピリ辛きゅうり)
ザ・ぎんざ、はずかしファイブの演奏で『銀座の雀』を歌う。
しあわせトリオ、同じくはずかしファイブの演奏で 『図々しい奴』を歌う。
スタッフ、観客、拍手喝采。
侃侃諤諤!種々雑多!年忘れ持続可能放談
ザ・ぎんざ「侃侃諤々!種々雑多!年忘れ!!持続可能放談!!」
ザ・ぎんざ西「このコーナーでは、各界からゲストをお呼びして今年一年を振り返るとともに来年の展望を占う熱い討論をお送りします。それではゲストの皆様をご紹介します」
野球選手、横綱、グラビアアイドル、大工の頭領、政治家、怪獣、ボリショイサーカスなどのゲストが登場し、ここはもう台本なしで諸問題について討論。最後はプロレスラーのエスプレッソ茶畑と横綱堀之内がローション相撲で決着をつける。
平日安美「ゲストの皆様ありがとうございましたザ・ぎんざのお二人、実際に討論をしてみていかがでしたでしょうか」
軽くやりとり。
CM④(やけにCMが多い)
VTR②新春映画ご案内
新春公開の北風小僧の寒太郎と尾千葉文子が主演を務める映画『軽くて明るい』シリーズ第二三作『軽くて明るいよ~寒太郎の資産運用篇~』の予告編と冒頭映像。ロケ地の人々から北風小僧の寒太郎、尾千葉文子らへのビデオレター。また遊びにいらしてくださいね。映画、それから生ドラマも楽しみにしてまーす。体に気をつけて頑張ってください等々。
観客、拍手喝采。
平日安美「この後はいよいよお待ちかねの生ドラマです」
CM⑤(何も台本にCMの内容まで書く必要はない)
町娘おしるこの正月漫遊記
生ドラマ『町娘おしるこの正月漫遊記』
作・演出 桃栗三年柿八秒
『町娘おしるこの正月漫遊記』放送中止について(代筆:町娘おしるこ)
新年、明けましておめでとうございます。
私、町娘おしること申します。ついさっきまでウチにいて、雪降ってるし、手習いも踊りの稽古も三味線の稽古も全部休みだしってんで、茶の間であぐらかいてみかん食べてぼんやりしてたら、急に番組プロデューサーに呼び出されて、今、このステージにいます。……何、これ読めばいいの?…………えー、ホントはここで生ドラマをやる筈だったんですが、中止になりました。なんで私がこんなこと言わなきゃなんないの……。
えー、中止の理由は、作家の桃栗三年柿八秒ってのが「やっぱり書けない」とか抜かしたからで、そんなら仕方ないってんで、それでそのまま中止になりました。そんなバカな話ってあるのかなあ。
バカ作家の頭が、書き始めてから「やっぱり書けない」に行き着くまでの経過を順に行くと「今回もからっとした喜劇で行こう」→「しかし、ステージセット組んで客入れてやってるっていうのに、途中で生ドラマなんかやったらその間客はどうしてるんだ?」→「テレビみせとくか」→「そうもいかないか」→「それなら生ドラマもステージ使って客前でやるかな」→「だけどそれじゃただの芝居だ」→「せっかくドタバタしながら生放送のドラマを撮るっていうのをやりたかったのに……」→「しかし残念ながら、そんな面倒なもんを正月にテレビみながら書ける俺じゃない」→「正月つっても今日もう六日か……あ、雪降ってる」→「…………………」→「やっぱり書けない」
呆れたことにこれが
→「いいや。全部主人公に喋らせちゃおう」で大団円……ってこんなバカな話があっていいの?なさけないよ。
それで、一応ここに、書きかけの台本って物がありまして、それを読むと……えー、要するに、私、町娘おしるこが、笑いあり涙あり人情たっぷりの江戸の庶民たちの暮らしぶりをけちょんけちょんに腐して回る…………何これ?……そう書いてあるんだからそうなんだろうなあ……だから、私が江戸時代で目に入るものを片っ端から悪口言ってくっていうごくごく単純明快なおかつ不快な内容なので、要はそれなら私一人でも再現出来るだろうってんで、ドラマが中止になって余った時間を埋めるためにも、作家は雲隠れした中、主人公の私一人だけが呼び出されたと、雪の中、そういう状況です。どうなってんだろう。
たしかにイライラしてるから今悪口言うくらいどうってことないけどさ。アーア、こうなりゃしょうがねーや。とっと終わらせちゃおう。
じゃあまずは、ええじゃないかの連中からね。ええじゃないかをやってる奴らはあれはバカです。ああいうのをバカっていいます。……これでいいのかな……だけど今年から私はバカにはバカ!って面と向かって言うことにしたんでね、バカ!言います。私は私で既にちゃんとバカなんだけど、多少よそのバカうつされてでも、私のバカのためにもバカにはバカって言うことにします。バカ!
それで、なんでええじゃないかやってる連中がバカかっていうと、あいつら捨て鉢になってるでしょう?そういうの嫌い。嬉しそうに絶望してるの見ると虫唾が走る。
はいじゃあ次。次は江戸時代の不幸なオバサン……やけに抽象的だけど……バカ!バカです。若い男が聞いて安心してるか知らないけど、若い男だって何だって不幸なオバサンは誰でもなるんだから、今や世の中どこもかしこも不幸なオバサンだらけなんだから。物欲しそうな顔して足引っ張りあっちゃってさあ、そんなビンボったらしく生きて恥ずかしくないのかって聞いてみたいんだけど私ももう自信なくてさあ。なんか恥ずかしいっていう感覚が私だけ反対なのかと思い始めてんのね。だってたまにSNSなんか覗くとさ、みんなして股間だけ穴空いた服着て歩いてるようにしか見えないし。股間出すなら出すでいいけど他も出しゃいいのに、股間だけなんだから……あ、えー、SNSとか言うと時代設定がワケ分かんなくなるんでした。私は町娘おしるこで、今ここは江戸時代。明日あたりペリーが来航しそうな気がする今日この頃…………バカらしい。
あと鼻持ちならないのがやたらと偉そうなこと言う文化人気取りの連中ね。名著、名作、名人、名画に、名盤、名店、名医、名湯って、そんなに自分の頭の中身よそと揃えて楽しいのって聞きたいし。いっぺん教養って言葉の意味辞書引いて調べ直したほうがいいんじゃないって……なんかこうもさっきからミョーなこと問題にして怒ってるとこみると私もだいぶ不幸なオバサンになってきたな……ついにきたか。だけどしょうがないよ。バカにはバカって言うようにしたんだし。バカ!学問でござい、芸術でございって顔するのは勝手だけど、あんまり偉そうなこと抜かしてあんまし世の中を陰気にするない。
ひょっとして学問でございと不幸なオバサンがのさばるせいで捨て鉢が増えてるんじゃないの。それで捨て鉢が疲れてくると、今度はそいつらがいつの間にか学問でございか不幸なオバサンに成り果てるんだ。そういうことか。アーア、疲れたら休めよ。新年早々、嫌ーな発見しちゃったよ。嫌だなそういうの私は。一人ですくすく伸びたいよ。
ここまで手前勝手に東西南北、周り全部の悪口言っといてなんだけど、自分と違うものを全部切って捨ててっちゃうのもバカ。バカ!バカです。自分の物差しはチャチかもしれなくて、それでは測れないような面白さってものがまだまだあるのかもしれないって、希望ってそういう風に持つものなんじゃないの?……アーア、希望とか言い出したらもう終わりだ。ご苦労様でした。ウチ帰ってしるこ食って風呂入って寝ちゃお。私は幸せになるんだ。
観客、大盛り上がり。
CM⑥(ご飯のお供に、蚊取り線香)
エンディング
月夜の街路を模したステージセットではずかしファイブが『楽しい夜更かし』を演奏している。
北風小僧の寒太郎「お名残惜しいですが『あったか者!年越しホリデー』もそろそろお別れのお時間です。お楽しみ頂けましたでしょうか。番組の最後はやはり音楽でお楽しみください」
尾千葉文子『カチューシャの唄』を歌う。
スタッフ、観客、拍手喝采。
北風小僧の寒太郎『北風小僧の寒太郎』を歌う。紙吹雪が舞い、他の出演者も歌って踊る。
北風小僧の寒太郎「よいお年を!」
ミスター・プラクティスの帽子から鳩が一羽飛び出て大団円。
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