君の名前で僕を呼んで
ただただ全てが美しかった。柔らかい木漏れ日、水面に反射する陽の光、木々や草花は生い茂り、瑞々しい果実をもぎ取る綺麗な手、それらは純度の高い愛の芽生えを象徴しているかのようで気分を高揚させるが、終いには暖炉の灯の静けさが胸が張り裂けそうになるほど切なくさせ、背景描写までもがまるで1つの曲のよう。儚さの中に宿る美しさ、瞬きする瞬間ですら惜しいのです。
舞台は北イタリアのどこか。たった6週間のひと夏の恋。人が恋をする瞬間が繊細に丁寧に描かれていました。「どの彫像も曲線を描いてる。時には極端すぎるほど、しかも無頓着に。時を超えた曖昧さを持つ。欲望を挑発するように」時は1983年。時代と2人の関係を例えたようなこの表現が好きです。夜中のバルコニーの柵に手を置いたエリオの手の上に、タバコを挟んだオリヴァーの手を重ねるシーン、静かながらも秘めた熱い情熱をそっと伝えるその姿に胸が締め付けられた。
感じた喜びも、痛みも “なにひとつ忘れない” 恋は実らぬが故に美しいというけれど、この映画はまさにそのどこか不甲斐ない言葉を納得いくように描いている。鑑賞してから1週間、瞳を閉じてゆっくり深呼吸すると Mystery of Love をBGMに2人がセリオの滝を歩くシーンが未だ鮮明に蘇ります。
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好きになる感情を色褪せさせてはいけないとはっとさせられる。きっとこの映画をみたら各々の心に潜んでいる恋愛観が少しずつ形を表すはずです。