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全員が「正しい」からこそ、問題が大きくなる|映画『JAWS』
『JAWS』はPM(プロジェクトマネージャー)の悪夢そのものだった
『JAWS』を観ながら、これは炎上プロジェクトのメタファーなのではないかと思った。
もし主人公ブロディを**PM(プロジェクトマネージャー)**と捉えたら、
この映画はまさに「大規模プロジェクトが崩壊していく過程」そのものだ。
炎上プロジェクトには、常に「大きな嫌な予感」がつきまとう。
しかし、その正体が完全に見えない間は、関係者は動こうとしない。
そして、いざ問題の本質が明らかになったときには、
もう手遅れになっていることが多い。
まさに『JAWS』のサメのように。
サメ=未然に防げなかったリスク
物語の序盤、ビーチで若い女性がサメに襲われる。
ブロディはすぐにビーチの閉鎖を提案するが、
町の有力者たちはそれを拒否する。
「観光シーズンの最中に、ビーチを閉鎖するなんてありえない!」
「サメ? そんなのただの偶然だろう」
「大げさに騒ぐと、経済的損失が大きすぎる」
この状況、PM経験者なら胃が痛くなるほど共感できるのではないか。
「スケジュールが遅れるかもしれません」 → 「何とかならないの?」
「このリスクは事前に対策すべきです」 → 「まぁ大丈夫でしょ」
「品質が危険です」 → 「今さらそんなこと言われても困るよ」
炎上プロジェクトでは、リスクの兆候を見つけても、
ステークホルダーが動かなければ何も変えられない。
しかし、放置したリスクは確実に大きくなり、
最終的には手に負えなくなる。
そして案の定、ビーチで再び犠牲者が出る。
「問題を放置すれば、解決コストは跳ね上がる」
結局、町の人々は事態の深刻さを理解し、
サメを退治するために、ブロディは海へ出ることになる。
ここからが、本当の悪夢の始まりだ。
炎上プロジェクトも同じだ。
問題が明らかになったときには、
もう「オフィスで管理できるレベル」ではなくなっている。
「あの時、もう少し早く対応していれば…」
「初動対応を間違えたせいで、被害が拡大した」
「誰も責任を取りたがらず、結局現場がすべて背負う」
まさに『JAWS』の後半、
ブロディたちが海に出てからの状況そのものだ。
彼らは、もう「逃げられない場所」にいる。
そして、サメは確実に迫ってくる。
「Empathy」を持つことの難しさ
この映画が面白いのは、全員が「自分なりの正義」で動いていることだ。
町長たち → 観光業を守るため、経済的損失を避けたかった
漁師クイント → 俺のやり方でサメを倒すと豪語するが、計画性がない
科学者フーパー → 科学的知見を持つが、経験が足りず、漁師とは対立する
ブロディ → 本当は海が怖いが、責任感から逃げられない
炎上プロジェクトでも、これと同じ構図が生まれる。
経営層(町長) → 「予算と売上が最優先。プロジェクトは止められない」
現場のリーダー(ブロディ) → 「リスクを理解しながらも、従うしかない」
専門家(フーパー) → 「データと論理は正しいが、実行する権限がない」
現場の職人(クイント) → 「経験則でなんとかしようとするが、暴走しがち」
誰もが自分の視点では「正しい」。しかし、お互いを理解できない。
このEmpathyの欠如が、問題をより複雑にしてしまう。
炎上プロジェクトでは、
お互いの視点を理解し合えないまま、
問題が大きくなり、
最終的にプロジェクト全体が崩壊する。
『JAWS』もまた、「Empathyが欠如した組織が、リスク管理に失敗する物語」
と考えることができるのではないか。
最終的に、誰がリスクを引き受けるのか?
結局、サメ退治に成功するのは、
現場で戦っていたブロディだった。
だが、それは決して「英雄的な勝利」ではない。
彼は、ただ生き延びるために戦っただけだった。
炎上プロジェクトも、
最終的に解決するのは現場のリーダーだ。
経営層は逃げる。専門家は意見するだけ。
最後にすべての責任を背負うのは、実行部隊なのだ。
『JAWS』は、プロジェクトマネージャーの物語だった
この映画を観ながら、
もし自分がブロディだったら…と想像すると、
胃が痛くなってくる。
「最初の段階で、もっと強くリスクを訴えていれば…」
「町長を説得するためのデータを揃えていれば…」
「適切な対策を講じていれば、海に出る必要はなかったのでは…?」
炎上プロジェクトの本質は、
「問題が明確になる前に対処しなければ、
手遅れになってからでは解決コストが跳ね上がる」ことにある。
まさに『JAWS』のサメのように、
未然に防げなかったリスクは、
後から襲いかかってくるのだ。