「ゴミを拾って生活していた少女時代」
靴磨き世界一周アジア編96日目
スモーキーマウンテンではみんなサンダルか
裸足なので、靴なんてほとんど履く機会がない。
そんな場所で靴磨きなんてできるのかよ。
でもそんな場所で靴磨きできたら、面白いやん。
私は見たわけではないけれど、絶対に
その場所にも靴は持ってると予想していた。
スモーキーマウンテンにあるアグネスさんの家に
一度訪れた時、「靴磨きしたい」と伝えたら、
「磨く靴ないからいいよ。ゆっくりしなよ」
と断られた。
私は世界中で1000足磨くことを目標にしているけど、
ただ1000という数を足し算するだけの靴磨きはやりたくない。
お互いが納得した上で1000足という数値
まで磨きたい。
だからその日はアグネスさんも靴磨きに
興味がなさそうだったので、靴磨きはしなかった。
そして2度目のスモーキーマウンテンの訪問時、
今度はアグネス家に宿泊させてもらうことになった。
同じ釜の飯を食べて、同じようにシャワーを浴び、
同じ小屋の中で眠った。
出発の日の朝に、アグネスさんにもう一度
お願いしてみた。
「私は世界一周靴磨きしながら旅をしていて、
縁あって出会った方の靴を磨きたいと思ってる。
アグネス家の善意に少しでも恩返ししたいから、
靴磨きさせてください」と。
そしたらアグネスさんは家の奥から
1足、2足、3足、、、、、7足!!
合計7足も靴を持ってきた。
子どもから大人の靴まで7足。
拾ってきた靴や他の人からのお下がりの靴だけど、
小学校の入学式の時などにその靴を履いていくそうだ。
靴を磨いてる間、アグネスさんはじっと
私の作業を見ていた。
何を考えてるんだろうか。
ふとした時に、過去のことを話してくれた。
「私はこの山で生まれたのよ。
かつてゴミ捨て場として機能されていた30年以上
前は「スカベンジャー」と言ってゴミの中からまだ
使えるものを探して町に売りに行っていた。
今よりももっと酷い状態で、匂いは凄まじかった。
ゴミが崩れ落ちて下敷きになって亡くなった人も
何人も見てきた。
あの頃は大人になるまで生きれるなんて
1ミリも思わなかった。
でも、今はおばちゃんになった。
子ども7人いて、孫だってこんなにいる。
もう私の人生充分やりきったよ。」
本当に生きる化石だな。
こんな経験を膝と膝を突き合わせて
聞けるこの時間がどれほど貴重なものか。
自分が経験したこともないとんでもない
経験を私一人に向かって話してくれた。
私が鼻くそほじりながら学校に行ってた年の頃、
アグネスさんはゴミの中から使えるものを探して
それを売りに行ってお金を稼いでた。
その日を生きるために、危険な場所で
働いていた。
全てこの話を聞くために、これまでの
時間があったんだなって思う。
磨き終わった靴を足に合わせてほほえむ
アグネスさんの横顔を見て、一度断られた
けどもう一度お願いして本当に良かったと思った。
磨いた靴を次はいつ履くかは分からないし、
その頃にはまた靴に埃がかぶってるかもしれない。
でもそのいつかの時が来た時に、
「そういや変なジャパニーズが家に泊まったな」と
この思い出を蘇る時が一瞬でもあれば嬉しいなって思う。
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