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「一軍の試合で打席に立った」
靴磨き世界一周アジア編123日目
いよいよMason & Smithでの武者修行
3週目に入った。
この武者修行もいよいよ最後のクールだ。
お客さんが来ても大した接客ができない、
レジも打てない、宅配もできない、
私の役割は変わらず「靴を磨くこと」と
「ランチを買いに行く」ことだ。
#チャーシュー丼事件以来ランチの買い出し順調です 。
日本のスタイルでは事前に予約をして、時間になれば
お店に行って目の前でプロの職人に磨いてもらうのが
主流でもあり、それが靴磨き専門店の醍醐味でもある。
シンガポールではほとんどのお客さんが靴を
預けて数日後に取りに来るのが主流なのだが、
たまに「今すぐ磨いてほしい」という方もいる。
これまではそういうお客さんが来た時は
アシュさんかニコさんが磨いていた。
預かってる靴なら時間がかかっても、磨きが甘い所
があっても、後からカバーすることができる。
たまに来る「その場磨き」は1発で完璧に仕上げない
といけないし、何より20分以内に磨かないといけない。
#鏡面はそんなに強くなくて良いメニュー
今日は私にとって、ラッキーなことが起きた。
お昼頃、任された靴が全て磨き終わったタイミングで、
1人の男性が来店してきた。
新人のハビスが接客をした。
「この後大事な商談があって、そのために
今すぐ靴磨きお願いしたいんですがいけますか?」
とその男性のお客さんは言った。
その時のスタッフの状況。
ジョンさんは別件でお休み。
アシュさんは別の部屋で靴修理中。
ニコさんは別のお客さんを接客中。
接客をしたハビスは新人。
もう1人のスタッフは食事中。
、、、
え、これ、俺やん!!
俺のその場磨きターンやん!!
ニコさんはピッチャーで一塁ランナーを牽制する
かのような目で私を見てきた。
もう2週間一緒に働いてるからわかる。
あのニコさんの目は、
「Soshoいけるか?」という目をしていた。
私はアイコンタクトで
「任せろ」と言った。
「大丈夫です。私が磨かせてもらうので、
あちらのソファで座ってお待ちください」
と私は言った。
ハビスはまだ新人なので、私とニコさんの
アイコンタクトの会話が読み取れなかったのだろう。
「お前がやるんかい!!」みたいな顔してた。
いつも通りやれば大丈夫だ。
今から20分以内。
Mason & Smithがどのラインまで
完成度を持って受け渡すのかは理解している。
この2週間で100足以上磨いて、その度にチェックされ、
ダメ出しを受けて、やり直して、レベルを1づつ上げてきた。
ブラシをかける音がいつもより響いてる。
靴クリームのオイルのような香りが鼻に染み渡る。
この匂い嫌いな人もいるけど私はわりとすきだ。
靴はCrockett & Jonesという高級靴。
やっぱり革質がいい。
Waxは薄くムラの無いように数回塗り重ねる。
お〜靴が喜んでるぜ。
だいたい15分くらいで磨き終わり、
最後に靴紐を入れる。
完成だ!!
ニコさんのお客様対応も終わり、私のところに
きて靴を持ってチェックをした。
靴を一周させて甘い所がないか見ている。
、、、
「Nice」と言って靴を返した。
お前がお客さんに持ってけという合図でもある。
何か資料を読み直していたお客さんに、
「Thank you kept waiting」〔お待たせしました〕
と言って靴を見せた。
お客さんは仕上がった靴を見て、
「Oh〜 Great. Thank you」と言った。
お客さんはその後お会計を済ませ、店を出て行った。
そして何事もなく、それぞれのスタッフが
自分の持ち場に戻った。
ただ一足磨いただけ。
でも私の中では、かなり大きな一足だった。
初めて一軍の試合の打席に立ったような感覚。
これまでは思いっきりやって、失敗しても
なんとかなる二軍の試合で打席に立っていた。
あの時に別の部屋で靴修理をしている
アシュさんを呼ぶのが一番安全策だった。
けど、あの時自分から手を上げなければ
終わるまで失敗してもなんとかしてくれる
2軍戦の試合でしか打席に立てなかった。
私は一番手っ取り早く成長するのは、
「緊張する場面で打席に立つこと」だと思ってる。
どれだけPKの練習では上手くても、
「これが決まればワールドカップ出場確定」という
場面でPKを蹴る人が一番成長すると思う。
#最後まで野球で例えろよ
残り4日間、明日から全部その場磨きは
私が手を上げようと思う。