フォロー5,000名 エッセー「パンの耳をちょろまかす紳士たち(パンチョロ親父)」by転職定着マイスター川野智己
近所に人気のベーカリーがある。
来店者1家族に1個パンの耳を無料で配っている。山積みから自由に持っていけるのだ。
今朝、奥様であろう人物と連れ立って老紳士が来店していた。70歳近い血色の良い、いかにも成り上がって財を成したかのような風貌だ。
そんな彼が、パンの耳の袋を立て続けに2個持って行った。
ちょろまかしだ。
パンチョロ親父だ。
非常に手慣れた様子で、驚く私と目が合っても堂々としている。
昔の私なら大きな声で指摘したかもしれない。
でも、客同士の諍いと捉えられ、店側も朝から雰囲気が悪くなるのも嫌がるだろう。彼らも見逃しているのだ。多めに持ち帰る人物がいたとしてもコストとして折込済みなのかもしれない。
「いけない行為だと思います」と青臭いことを言うつもりは無い。
でも、彼のこれまでの職場での専横ぶりや家庭での傍若無人を勝手に想像してしまった。情けなさと悲しさが残った。
範を示してヒトに慈しみを与える、そんなお立場ではないのですか。
原爆投下後に、服も焼けただれ皮膚が垂れ落ちた姿でありながら、近所の婦人や子供らに対し安否を確認し自分の食べ物を分け与え息絶えた紳士の話を聞いたことがある。
現代は、自分さえよければいいのか。
数円のパンを得ることと引き換えに貴方の姿勢が問われているのですよ。
彼に言いたい。
「お兄さん、私もあなたと同様に、紳士へ至る修業の身。今からでも遅くはない。一緒に、若い人たちに対して胸を張れる生き方をしましょうよ。」