実話。その転職、成功ですか。大手企業の子会社の社員として働き続けること。by転職定着マイスター川野智己
「俺はお前の“噛ませ犬”じゃないぞ!」
39年前に、かの後楽園ホールのリング上で長州力が放った叫びである。
それまで、プロレス会社が引き上げようとしていた他のプロレスラーの、その負け役ばかり押し付けられていた彼が反逆の狼煙をあげた瞬間だった。その後、彼は責任を取らされることはなく、逆に反逆のスターレスラーとしてのし上がっていった。観客は、彼の姿を自分の境遇と照らし合わせ、共感を持ったからである。
しかしながら、それはあくまでもエンターテイメントの世界である。体調不良で仕事に穴をあけても逆に同情されるのは、深田恭子だからだ。試合後のインタビューを拒否しても賛同者が絶えないのは、大阪なおみだからだ。現実はそうではない。だからこそ、有名人に対して、自分の深層心理を投影して留飲を下げる。これは、我々一般ビジネスマンのさがである。
組織は異端児を絶対に許さない。私は、人事マンとして企業の冷淡さを嫌というほど感じてきた。 大手企業の子会社社員の立場は砂上の楼閣である。お気の毒としか言いようがない事例を数多く見聞きしてきた。
良くも悪くも浪花節が通じるオーナー企業と違って、コンプライアンスの名のもとに、株主に対する責任を果たすために効率化を推進せざるを得ない。など、処分する理由は何でもつけられる。これが、大手企業のやり方である。
元谷裕也(仮名)は、ある大手精密機器会社の子会社に転職した。親会社の機械の納入先の保守を担う会社であった。親会社の企業名を冠した先の転職で、親戚一同「堅い会社に転職できた。」と喜んでいた。
しかし、所詮親会社から出向してきた上司から顎でこき使われ、理不尽なノルマを課せられて疲弊する毎日であった。元谷はじめプロパー社員の残業をしり目に、出向社員同士で毎晩のように会社経費で飲み歩き、プロパー社員の無能さを肴に宴(うたげ)を繰り返している。彼ら上司の飲み代は、プロパーが働いて稼いできた金である。
子会社に社員を送り出す人事の立場から、若干、裏話に触れたい。
子会社に出向させる親会社社員は、大きく分けて2種類に分かれる。一つは、親会社期待の若手社員である「嘱望組」だ。親会社の将来を担う人材であり、若くして経営者としての経験を積ませるために、帰り道のチケット付きで教育出向させるのだ。もう一方は、「困った組」である。能力的、もしくは人格的に親会社に置いていられない人材の人たちである。当然、片道切符である。親会社に戻る道は無い。
面白いことに、この違いが子会社でも容易にわかる。彼らの人件費の配賦割合がそれを如実に表しているのだ。「嘱望組」は全額子会社が彼の給与を負担している。「有能な人材だから、あんたら子会社の実績にも貢献しているだろう。だから満額払えよ。」というわけである。一方、逆に「困った組」は一定額を親会社が彼の給与を負担している。「迷惑かけて悪いね。受け取ってくれたお礼でこちらが半額を負担するよ」というわけである。子会社に転職した方は、こっそり人事部の社員に聞いてみるとよい。
なぜ、こんな暴露話をしたかというと、子会社で自身がキャリアアップできるヒントがそこに隠されているからである。
端的に言うと 「嘱望組」にうまく取り入り、逆に「困った組」には近づくな。ということである。特に、「困った組」は、その低い能力により彼らから仕事を押し付けられるか、理不尽な指示を受けて悩み苦しむだけである。また、彼らのその偏狭な人格により、自分のメンタルをやられてしまうことになりかねない。
前述の元谷も、師事した上司が「困った組」であったがゆえに、散々苦労かけられたあげくに、その上司とともに冷遇され退職を余儀なくされた。会社は「困った組」社員の失点を、平素より鵜の目鷹の目で探し続けているのであり、元谷もその同類として一蓮托生と扱われてしまったのである。それこそ、「かませ犬じゃない」と叫んでも無駄であったそうだ。
子会社で評価されるか否かは、良くも悪くも親会社からの社員、彼らとの付き合い方次第なのである。その立ち居ふるまいの極意については、当コラムでおって徐々にお話をしてまいりたい。
以 上
※毎回、ご一読いただきまして誠にありがとうございます。具体的な企業名や個人名が判明しないように、一部表現を変えてお伝えしております。
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