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子どもの話を聴くことが当たり前になれば、独立アドボケイトがより力を発揮できる |  アドボカシーセンター福岡 理事長 安孫子健輔さん

「子どもの声を聴くってどんなこと?」

今回、SOS子どもの村JAPANが発行するNewsletter制作を行うにあたり、さまざまな方にお話しを伺いました。

福岡市にあるNPO法人「子どもアドボカシーセンター福岡」に伺い、理事長の安孫子さんにお話を聞かせていただきました。

「子どもアドボカシーセンター福岡」は、社会的養護に関わる子どもや、地域・学校で「子どもの声を聴く」活動を広げているNPO法人です。

安孫子さんがどの様な経緯でこの活動に関わることになったのか、どのような想いで活動を続けているのか、教えていただきました。


安孫子健輔さん(弁護士・社会福祉士)
子どもアドボカシーセンター福岡 理事長/センター長

私は弁護士業の傍ら、子どもに関わる活動を続けてきて、もともと「子どもNPOセンター福岡」で取り組んでいたアドボカシー事業を、分離独立させる形で3年前に立ち上げたのが、「子どもアドボカシーセンター福岡」です。

安孫子健輔さん(弁護士・社会福祉士)
子どもアドボカシーセンター福岡 理事長/センター長

アドボカシーセンター福岡では、大きく分けて2つの取り組みを行っています。一つは、社会的養護で暮らす子どもたちの声を聴くために、児童養護施設、里親家庭、一時保護所、障害児入所施設などにアドボケイトを派遣する事業です。児童相談所へは定期的に週1回、2名で訪問を行っています。

二つ目は「あらゆる子どもを対象としたアドボカシー事業」として、小中学校やフリースクール、公民館、子ども食堂などでアドボカシーを学べるように作成した専用のキットを使ってワークショップを行い、「子どもが意見を伝える権利」を知ってもらう体験活動を行っています。

地域・学校で活用している子どもの権利ワークショップ『きかせてジャーニー』

子どもアドボカシーセンター福岡では、アドボケイトの養成も行っており、アドボケイトとして活動するためには、講座を受講していただきます。

3日間の座学中心の基礎講座、7日間の養成講座があり、こちらはロールプレイングや、グループワークを多く行うことで、現場に出るための準備を講座で行っています。

養成講座を終了するとアドボケイトとして認定されますが、基準に達しない場合はお断りするケースもあります。アドボケイトとしての適性が備わっているかをしっかりと見て判断しています。

現在、登録者数は51名になりました。アドボケイトの方は他の仕事をしながら、この活動に取り組んでくださっています。

登録している方は福祉関係、医療関係、民間企業の会社員、NPO職員等…バックグラウンドはさまざまです。

活動をしていてやりがいを感じられる一番の瞬間は、子どもが「話していいって分かった」と言ってくれた時でしょうか。

社会的養護においては、これまでは何かの問題を解決すること(門限は何時にする…とか、家庭復帰をするかどうか…とか)に集中していましたが、「言って変わるかどうかは分からんけど、自分の意見や思っていることは言っていいんだ」と分かってもらえたら嬉しいです。定期的に訪問をしていくと、子どもとアドボケイトに信頼関係が出来てきて、子どもがたくさん喋ってくれる状態になることがあります。

それはこの事業の大きな成果なので、センター長として間接的にそういう成果を見ることも、嬉しいことのひとつです。

「言っても変わらない」と思っている子と、アドボケイトの壁

一方で、活動する中で難しさや気になることはたくさんあります。

事業開始当初から訪問している児童養護施設で、一度も話にこない子どもが一定数いることです。
その子が自身で問題を整理できている、とか、施設の先生に話を聴いてもらっているとか、他に話す相手がいるのであれば問題ないのですが、そうとは限らなくて、誰にも話せていないから、外部からやって来るアドボケイトには余計に話すことができない、ということもあると思います。利害関係のない第三者にすら話せない場合の意見表明支援をどうしたら良いのか。

そもそもアドボケイトって、親や先生、友達に話せないことでも「アドボケイトなら話せる」という前提で活動していますが、「距離が遠いから余計に話せない」ということもあります。

誰にも話をしない、アドボケイトにも姿が見えていないまま、児童養護施設を巣立ち大人になっていく子どもが一定数いる。一体誰がその子たちにアプローチをし、支援することができるのか。
難しさともどかしさを感じている所です。

あとは、「言っても変わらない」という問題をどうしたらよいか。

実際に変わるかどうか、子どもの意見を受け入れるかどうかは、児童養護施設や里親家庭側の判断になるため、アドボケイトからは意見やお願いをすることができないのです。

定期訪問をしていると、子どもが厳しい状況であることを教えてくれることもありますが、そうでなくても見えてしまうことがたくさんあります。
ずっと気になっていても僕たちは「子どもの代弁者」であるので、子どもたちの意見を代弁することしかできないんです。

例え話ですが、子どもと個室で話している時、別の部屋から職員の“怒鳴り声”が聞こえてきても、目の前の子どもが気にしていなければ私たちは何も言えません。
外からきたアドボケイトだから気づくことや気になることがあっても、子どもたちにとってそれが日常の光景で当たり前である場合、「これはおかしいことだよね」と誘導することはできない。

経験上、ケース判断にも関わることだと思うし施設側が把握して共有するべき内容なのに、あまりにも職員が忙しすぎて、子どもと対話をする時間が確保されていないがために、外部から来るアドボケイトに子どもの人生に関わる重要な情報が集中する。そんな状況が起きています。

子ども同士で話し合ったりすることで、みんなの利益になることを意見として表明する「クラスアドボカシー」のようなことができれば良いのですが、今の制度ではそこまで確立されていません。

決定的な「施設内虐待だ」ということで動くことができるけれどそれまでは動くことができない。

問題が度々起きている施設でも、社会的養護の受け皿が少ないから使わざるを得ない…。こういった壁に、思ったより早くぶつかってしまった様に思います。それだけ、アドボケイト事業を通じて顕在化されたのだと思います。

10年前よりも社会的養護の状況はよくなっているのだと思っていましたが、実際はそうじゃなかった。結局私は大人側の話しか聞けていなかったのかな、と反省しています。

大人側の余裕が、子どもとの対話を生む

弁護士になる前に、司法修習の研修先として児童相談所を選んだのですが、そこで子どもが大人に勝手にいろんなことを決められて振り回されているのを見て、子どもの権利が侵害されている、と感じたことが、今の活動につながっています。

ショックだったことの一つが、子ども自身に関するさまざまな会議に子どもを入れないことでした。

子どもと面接する場と、大人が何かを決める会議の場は別で、子どもを会議に入れないことに、ずっと違和感があります。アドボケイトを会議に入れることすら、抵抗が強いので、難しいのかもしれません。

子どもの話を聴くこと。一緒に遊ぶための時間と場所を確保すること。
その点をぜひ現場の職員の方には頑張って欲しいなと思っています。

現在、児童養護施設は小規模化や里親家庭委託推進の方向に向かっており、柔軟に時間を使える様になっています。

しかし必ずしも良いことばかりとも言い切れなくて、小規模施設では交代がなくて大変そうだし、里親家庭には実子もいるケースがある。

本当は何もしない余白のなかに、子どもとの対話があるはずなのに、会議や記録を書くなどのさまざまな業務に追われることで、余白が失われていく。

子どもは本当に大人のことをよく見ています。忙しそうにしていたら話しかけられないですよね(笑)。
暇そうにしているか、余裕がありそうか、どうか…。

だからこそ、児童養護施設や一時保護所のなかで職員が何もしない時間を保障して欲しいと思います。

社会的養護の通常のシステムのなかで子どもの話を聴くことが当たり前になれば、僕たちの様な独立アドボケイトがより力を発揮できる様になるのだと思っています。


関連情報

子どもアドボカシーセンター福岡

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地域・学校で活動している子どもの権利ワークショップ「きかせてジャーニー」

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今回、Newsletter vol.20を制作するにあたり、企業・個人の方々より協賛をいただいております。

一般社団法人ソーシャルビジネスバンク 様

こつぼ歯科 様

こつぼ歯科 様

オリエント・アセット・マネジメント株式会社 様


オリエント・アセット・マネジメント株式会社 様

萬年内科 様

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株式会社サエキジャパン 様

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【 Credit 】
・Photo by:Ryuto Sato( https://www.instagram.com/ryutosanto/


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