人生の輝きとは、勇気の向こうにあるもの<夫婦世界一周紀106日目>
合流したのはほんの二日前のこと。もう今日がタウンズビルで泊まる最後の日だなんて、なんか残酷だ。僕たちの滞在ペースも特急レベルと思っていたけれど、家族の滞在はさらに高速。それでもお母さんも妹も十分といえるくらい楽しんでいて、フウロも僕も一安心。
初めての体験で、その後の人生はまあまあ変わると思う。僕が旅好きになったのは、初めて自分で企画して行った沖縄旅の思い出がすこぶる良かったからだ。旅は素晴らしいし、いろんなことを学べる。裏切られない気持ちが自信を生み、自信が得るものをさらに強化する。
最初の出会いが最悪だった蜘蛛は20年たった今でもトラウマ。彼女たちにとって、タウンズビルで過ごす72時間は僕たちの感じるそれよりもずっと長く、濃密で、意味のあるものになるはず。人生をすっかり変えてくれる力を持っている。
少しでも吸収できるものを増やしたくて、最終日に車で宿の周辺をうろうろしていると、お祭りがやっていた。月に一度行われているマルシェのよう。ふたりは目を輝かせて走っていく。僕とフウロにはその市場の風景はどこか見慣れていて、世界旅行で得た財産がたんまり貯まっていることに気づかされたりする
果物・屋台・クラフトショップに大道芸。近所の人が集まって行うイベントらしく、適度に雑多でアットホームな雰囲気が流れている場所だった。
芝生が生い茂った会場の通りをあちこちよそ見しながら練り歩いていると、不意に女の子の大きな声が聞こえてきた。
声の行方に目をやると、そこには10歳くらいの女の子が楽譜を見ながら歌を歌っていた。
近くに両親はおらず、知り合いらしき人影も見当たらない。
明らかに緊張してるのに、その緊張を押し殺して彼女はステージに立っていた。テント脇の人があまり目をやらないところで、まるで野花のようにひっそりと、それでもひまわりのように凛とした花を咲かせていた。
僕はその姿を見て、とても熱いものを感じた。モロッコで小銭をせがんできた子供や、スリランカの売り子たちとは違うもの。この子がここにやってくるまでに準備してきた時間たち。歌の練習をしたこと、歌が印字されたコピー用紙、少しはみ出したアイラインや、決して前を見ない姿勢に。
世界一周を叶えることはとても大変なことで、同時に、ちっぽけで些細なことだ。
それはちょうど、この子の挑戦に似ていた。普段の生活の延長には決してない、川登りの第一歩を踏み出すこと。恐怖を越えたその一歩にこそ、自分のありたい人生が見つかると信じた行動たち。
僕は一度帰りかけて、その子の元に走り寄り、自分が持っていたオーストラリア通貨を全て置いてきた。
僕の旅は、これで終わりだ。
ここから先は
ものづくり夫婦世界一周紀
2018年8月19日から12月9日までの114日間。 5大陸11カ国を巡る夫婦世界一周旅行。 その日、何を思っていたかを一年後に毎日連載し…
Amazonギフトカード5,000円分が当たる
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?