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コップ一杯分の怒り<夫婦世界一周紀71日目>
マラケシュ随一の観光地。コブラも革製品もタジン鍋も手に入るフナ広場に着いた時には、フウロはすでにぐったりしていた。
午前中はサハラ砂漠へのチケットを確保するためにバスターミナルへ。ネットでは予約できないなんて、まるでスリランカみたいだねと笑いながら行ったのだが、窓口が閉まっている。それに、部屋が真っ暗ってどういうことだ…
モロッコ旅の目的はサハラ砂漠でベルベルピザを食べること。もしここで砂漠行きのバスチケットが買えないとなると予定の大幅修正を余儀無くされる。
不穏な空気を察したのか、真っ暗な窓口に座るお姉さんがぶっきらぼうに、
「Electric not use」
みたいなことを言い、ブラックアウトしているパソコンの前でキーボードを二、三回タイプした。ほらね、と言わんばかりだ。
ターミナルから外を見渡すと、バスはブーブー通っているし、外の人たちはなんの問題もなく生活している。スリランカの大規模停電とは違い、どうやら電気が止まっているのはこの施設だけだ。
いつ電気が通るの?と聞くも「さあね」とつれない返事。午前中には復活するんじゃない?と。まるで他人事だけど、日常茶飯事の光景なのだろう。
なんとかチケットを買いフナ広場に行くためにバスに乗ったが、また一悶着。
とんっでもない混みようだ。それにみんなこんなに荷物いる?と思うようなスーツケースやら頭陀袋を持っている。
動物的な勘がこのバスを降りろと叫んでいた。人の波を押し分けて出発ギリギリのところで脱出すると、そのバスは行き先の反対方向に曲がっていった。
絵に描いたような蛇使いがラッパを吹く。その先にはコブラだ。威嚇して蛇使いに襲いかかり、慌てて蛇使いが後ずさる。蛇使いの蛇とは思えないほどの背信だ。
目に見えるものは新鮮だったけれど、体が重力に負けるかのように地面にめり込むような感覚があった。その感覚はまるで池袋のよう。フウロは池袋のサンシャインの近くにいくと決まって体調が悪くなるという。巣鴨プリズンがあったのが影響しているのか定かではないが、どこかマイナスの空気が漂っていて、人のギスギスイライラが募っているように思えるのだ。フナ広場は昔公開処刑場だったという。そんなことも影響しているのかもしれなかった。
気を取り直してモロッコ名物という生搾りオレンジジュースを飲もうとすると、先客の欧米人の親子と店員が大げんかしていた。コップにオレンジジュースが注がれ店員が砂糖を降り注いだのを見て、「砂糖は入れないで欲しい」と言ったのだ。気持ちはわかる。砂糖入れちゃったら100%オレンジジュースの看板に偽りありだ。でも経験上、旅先で重箱の隅をほじくることを言うことはいい結果にならないことはよく知っている。案の定店員はつむじを曲げたが、曲げ方がえげつなかった。
「go out」
一言吐き捨てると、次に待っていた僕たちのオレンジジュースを作り始めたのだ。欧米人のお父さんが何かを言いかけるもシャラップと一喝し、無視を決めこむ。その態度の感じにほとほと疲れ果ててしまった。怒りをオレンジにぶつけて力一杯絞って、なみなみ注がれたオレンジジュース。コップ一杯分の怒りを飲み干したら、もうフナ広場はいいかなという気持ちになった。
同時に、マラケシュもだ。
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ものづくり夫婦世界一周紀
2018年8月19日から12月9日までの114日間。 5大陸11カ国を巡る夫婦世界一周旅行。 その日、何を思っていたかを一年後に毎日連載し…
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