旅の終わり方<夫婦世界一周紀99日目>
ニワトリは日の出とともにけたたましい鳴き声を上げる。それが5時だろうと、3時であろうと、明るくなれば彼らの朝は始まるのだ。いや、正確に言えば明るくなる「気配」を感じただけでも彼らの朝は始まる。だからこの上なく厄介だ。
ニウエのニワトリは早起きだった。3時になればもう彼らの時間だ。人間よりも多いのではないかと思うくらいのニワトリで埋め尽くされた島で、3時から一斉にニワトリが鳴き出すのだから、もはや緊急地震速報並みのアラームである。鳥は好きだったはずなのに、この数日ですっかり憎たらしくなった。熱帯夜と相まってすっかり寝不足だ。
ようやくニウエでの滞在が終わる。体感的にはスリランカに匹敵するほど長かった。毎日バラエティに富んでいて、危険に溢れていた。ウミヘビに噛まれなかったのも、犬に襲われなかったのも、運が良かったとしか言いようがない。
「いつしか子供を連れていきたいね」とフウロと話してはいたものの、こんなところに子供を連れて行くのは自殺行為かもしれない。楽園と引き換えに大切なものを失う可能性だってある。
そういえば、今までの旅にもそれは当てはまるのではなかったか。旅は危険で犠牲を伴うものなのだ。
たった1ミリズレていたら大怪我だったかもしれないような危機が、この100日あまりの中で幾度となく訪れていたのは確かだし、僕たちが感知出来ない場所でそれが起こっていたことだってあった。
そういえばサハラ砂漠のキャンプ地でカサブランカの男たちが「サソリだサソリだ!」と叫び、日本人がドン引きしたのを見て慌てて冗談だと笑っていたが、あれだって本当にいなかったとどうして言えるだろう。あとテントの上に乗っていた真緑のクモ。毒々しい色をして、体長が小さい生き物には要注意だとどの図鑑にも書いてある。
危険だけではない。犠牲だって伴う。うーちゃんのことは少しでも思い出すと胸がえぐれるようにいたくなり、ニウエに来てからもそこそこ泣いた。少しずつ癒えてはいるけれど、帰国してうーちゃんの亡骸と再会することを思い出すと心が沈む。
僕たちだけが特別だろうか。いや、そんなことはあり得ない。むしろ僕たちは人よりも安全に、楽しく旅を続けていられているのではないか。
うーちゃんを犠牲にすることは僕たちにとってけっして軽くはない出来事だったけれど、それだけで済むのであれば感謝すべきことなのかもしれない。
旅も終盤に差し掛かり、僕は旅の楽しみを貪欲に享受するよりも、安全に平穏に旅を終えることの大切さに気付き始めていた。
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ものづくり夫婦世界一周紀
2018年8月19日から12月9日までの114日間。 5大陸11カ国を巡る夫婦世界一周旅行。 その日、何を思っていたかを一年後に毎日連載し…
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