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「インプリント」と「レーベル」の違い

「マイク・オールウェイの「イフ(If...)」について」でも触れましたが、noteで翻訳シリーズをやっていて意識しはじめたのが「インプリント(imprint)」という言葉です。「レーベル」にかなり近い言葉だと思われるのですが、使われ方に微妙な違いがあるようにも思えて扱いが気になる。いろいろ調べていたら長くなってしまい、かつ違いに確信が持てたわけでもないのですが、今回は途中経過を書きます。コメントなどで情報提供いただけるとありがたいです。

「『Big Gold Dreams』ブックレット序文」を訳したときに、こういう箇所が出てきたのが、そもそもこの言葉を気にし始めた発端です。

彼〔ブルース・フィンドレー〕はまた、インディペンデント・レコード・レーベルというものが、バズコックスの「Spiral Scratch」よりもずっと古く、イミディエイト、トラック、そしてとりわけアイランドといった1960年代のインプリント〔商号〕に遡るということを理解しており、これらのレーベルのパイオニアたちがパンクの感性の多くを共有している可能性を理解していた。
(原文)
He also understood that independent record labels went much further back than the Buzzcocks' Spiral Scratch to 1960s imprints such as Immediate, Track and most especially Island, understanding that the pioneers behind these labels possibly shared many of the same sensibilities of punk.

要するにインディー・レーベルというのはパンクの時期に発明されたものではなく、似たような仕組みは60年代からあったものなんだ、という趣旨の段落です。しかしここで例にあげられているイミディエイトとかアイランドは、一般に「レーベル」なり「レコード会社」と考えられている気がするし、どういう意味でパンク期につながるのかいまいちわからなかったんですね。ザ・フーのマネージャーが設立したトラックは「英国初のインディー・レーベルの一つ」と呼ばれることもあったりして、たしかに性質的にもパンクの時代とつながるものがある気がするのですが。レーベルと言ってもいいところを単純に言い方を変えただけなのか、それとも「インプリント」という概念をあえて強調しているのかわからなくて、耳慣れない表現をあえて残しました。

ちなみに「チェリー・レッド物語」を訳しているときにも、チェリー・レッド傘下にあるたくさんの「レーベル」をimprintと呼んでいるところがいくつかあった(全部ではない)んですが、こっちは概念的に際立たせたいわけではなかったので、基本的には耳なじみのよい表現をとって、すべて「レーベル」と訳しました。

先の翻訳では「インプリント〔商号〕」という書き方をしています。亀甲括弧内は訳者の補足です。日本語で以下のような説明が見つかったからです。

インプリント(英: imprint)とは、出版業界においては、出版社が用いる商号(出版する際に用いるブランド)である。大手出版社が中小規模の出版社を買収して傘下に収めつつ企業グループを形成し、合併や買収された出版社は名前をインプリントとして維持しつつ出版活動を続ける。
物流や決済システムといったインフラストラクチャーの効率は共同で利用するほど高まる。日本のような取次システムを持たない欧米の出版業界では、商品の物流や代金の決済および取引先の与信管理などを出版社が行うため、中小の出版社が大手のそれの仕組みを共用するインプリント化が進行した。大きな出版社は出版物の内容によって複数のインプリントを使い分けている。

インプリント - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/インプリント

これは出版業界の話ですけど、なるほどな、という感じですよね。物流やお金の管理を大手出版社にまかせて、中小の特色あるコンテンツを制作する出版社が「インプリント」として所属する、というのは音楽でもありえます。でもそういう、出版社やレコード会社に所属する一部門やブランドのことも、日本では「レーベル」と言っているような気もします。

英語の説明だとこういうのがありました。

レコード・レーベルとインプリントの違いは何でしょうか? レコード・レーベルは、音楽の録音物や音楽ビデオに関して、出版、製造、流通、マーケティング、プロモーション、その他多くのことを担当するブランドであり商標です。デフ・ジャム、キャピトル・レコーズ、アトランティック・レコーズなどはレコード・レーベルの一例です。インプリントは、レコード・レーベルの傘下にあるものです。レコード・レーベルの単なる一部門であり、通常、配給、マーケティング、著作権などの業務はレーベルに任されています。バッド・ボーイ(Bad Boy)、キャッシュ・マネー(Cash Money)、ヒットボイ(Hit-Boi)のHS87はインプリントの例です。

Record Labels and Imprints-What’s the difference?
https://blog.a3cfestival.com/record-labels-and-imprints-whats-the-difference

ここでは「レコード・レーベル」が、さっきの例でいう、本の大手出版社ですね。日本語だと「レコード会社」と言った方がこの意味にぴったりくるかもしれません。そのレコード・レーベルの「単なる一部門」がインプリントであるという説明になっています。つまり特に日本では、傘下に入るインプリントのほうも「レーベル」と呼んだりするから、混乱するということのようです。

ただ英語圏でも配給網を持つ方が「レコード・レーベル」でその傘下に入るほうが「インプリント」、とはっきり分かれているわけでもなさそうなので、扱いが難しいなと思いました。最初に引用した例だと、アイランドみたいな大きい会社がそうした意味で「インプリント」だとは思えないし、成長して何かを傘下に擁するようになるってこともありますし。

ポリスターというレコード会社の傘下にあるトラットリアは、日本ではほぼ「レーベル」と呼びますが、位置づけとしては「インプリント」と呼ぶべきなのか? トラットリアのさらに傘下にイフがあるのに?

そういう意味では、マイク・オールウェイがやっていたイフの活動は、まさしく「インプリント」なのかもしれません。ポリスター、シエスタ、ジェットセット・レコーズ、といったレコード会社(レコード・レーベル)に配給をまかせて、マイク・オールウェイが手がけた作品をリリースする、といったような。

以上「インプリント」と「レーベル」の違い、わかったようなわからないような感じなので、引き続き気にして調べていきたいと思います。

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