癒しに心えぐられる瞬間
その時私は心身ともに限界一歩手前だった。
もう30年近くファンを続けている「生涯の伴侶」(勝手に)ともいえる大好きなアーティストの曲ですら受け付けないほどに。
幼少期から音楽はとても身近な存在で、音楽を耳にしない日なんてきっと1日たりともなかった。ラジオから流れる曲やカセットテープに自ら編集したマイベストソング、時は経てCD、今ではサブスクによる大量供給も最大限利用している。
その私が。
どちらかというと苦手に近い「無音」を求めるほどに。
疲弊していた。
好きなものすら受け入れられない?自分で自分を理解できない。
そんな“イレギュラーな日々”が続いたある日。
体に染みついたとでもいおうか、もうずっと前から、いやもはや前世から私の中にあったかのような馴染みのピアノの旋律が耳に入り込んできた。
ああ、懐かしい。
ああ、心地よい。
誰のなんて曲だったろう?頭が働かず、すぐさま答えが出ないのに体は確実に反応している。耳が喜び、胸が高鳴り、瞳からは無意識に涙があふれ出ていた。
ずっと前から、私を癒し続けてきた音楽であろう感触は確かにある。だけど胸に染み入るというよりぐりぐりと心臓をえぐらるかのような感覚。これはなんだ。サビの歌詞が聞こえてきて、カチッと何かの音がした。すべてが腑に落ちた。
伝えられないことばかりが 悲しみの顔で駆け抜けてく
心の鍵を壊されても 失くせないものがある―――――――
幾度となく私に寄り添い、私を励まし、癒してくれたこの曲。「それでも、前に進んでいこう」と小さな小さな一歩を踏み出すための背中を押してくれた曲。
癒しの曲に、初めて心えぐられた気がした。私の中にあまた芽生えてしまったささくれを優しくなでてくれるというより、根こそぎひっぺ返してくれたような。その後も数えきれないほど聴いたけれど、力強く心と体に印をつけたあの瞬間を今も忘れられない。
CHAGE&ASKA「PRIDE」。