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中二に戻れる展覧会 国立新美術館CLAMP展感想

ネタバレあり

結論としては、意外にも素晴らしかった。

CLAMPとわたし


私が小学3年生の時、当時購読していたなかよしに魔法騎士レイアースの連載が始まった。
その後、カードキャプターさくら、CLOVER、Wish、エンジェリックレイヤー、ちょびっツ、ツバサ、xxxHOLiCと次々とハマり、まさにCLAMP作品と共に思春期を過ごしたドンピシャの世代だ。
とはいえ、CLAMPの作風といえば中二心(ちゅうにごころ)を鷲掴みにされる部分と、
中二心が掴まれすぎるあまりたまに恥ずかしくなる部分とがある。
長くオタクをやってる人ほど神聖視する時期を経て、
やがて適度な距離感の生まれる作家なのではないだろうか。
私も例に漏れず、友達と競ってコミックスを買い漁り夢中になった時期ののち、
またやってんな〜、みたいな一歩引いた目で眺める感じになっていた。
しかし今回はなんと「国立新美術館」で展覧会をやるという。
国立新美術館でやる漫画家単独の展覧会は荒木飛呂彦以降2人目ではないだろうか。(違ったら教えてください)
確かに、CLAMP作品が日本のオタク文化に与えた影響には計り知れないものがある。
とはいえやはり、私の中でCLAMP作品のカテゴリーは大まかに言って「サブカル」なのであって国立の美術館で展示をやるような芸術作品なのだろうか?というおもいが失礼ながら頭をよぎった。
そうした、ちょっとした好奇心もあって見に行ってみることにしたのだった。

芸術だったわ


過不足なく「芸術」だった。CLAMP作品は……

入場してすぐカラー原稿の展示がけっこう間を詰めてズラーッと並べられているエリアから始まる。
ドンピシャ世代にとっては、当時読んでいた月刊誌で見た扉絵のまさに原画が展示されており、フオオオ!とめちゃくちゃテンションが上がるエリアだった。
学芸員さんが「作品保護のため白線の内側からご覧ください!!」と何度注意しても、
そのあまりに細かい作業を間近で見たいあまり多くのオタクが直立不動で立ち止まり学芸員さんに怒られるまで顔を近づけて鑑賞していた。私も例に漏れず気付けばガン見していた。いや、本当にすごい。
博物館にある日本古来の「蒔絵」とか、高級食器でお馴染みのロイヤル・アルバートのティーカップの細工に繊細さの方向性が似ているのだ。
「イラスト」というよりも「手芸」に近い。
ホワイトの粒一つ一つが活きている……
これをデジタル彩色でなく手作業でやっているというのだから、そりゃまあ芸術だな、と。
いや、デジタルで彩色してたら芸術じゃないってわけじゃないんだけど。
個人的な感覚として、地方の博物館とかにあるような細かい細工の伝統芸術作品と似たものを感じ取ったので、ここでようやく「あぁCLAMP作品は芸術なんだ」と納得感が出た瞬間だったというわけだ。

また、「なんか物語を感じる一枚絵」「わくわくする絵」が描ける人たちなんだよなということも思い出した。
子供の頃に見た月刊誌の扉絵がまだ脳裏に焼き付いていたということもそうだ。
また、こういう美術館でよく展示されている格式高そうな油絵の中にも、何の説明もなくても思わず立ち止まってしまう絵というのがあるものだ。
その瞬間、まるで絵の世界観と自分の内面が呼応しているみたいに感じ、不思議な感覚がする。
でもCLAMPの描く絵ではもう、ほとんどでそれが起きる。
わたしがオタクだからかもしれないが……
なんかオタクをワクワクさせる絵がべらぼうに上手い。CLAMPって
結局そうやって見る者の情動に強い影響を与える作品を大量に生み出せる、といったらやはりそいつは「芸術家」なのだろう。
CLAMPは芸術家だったのだ。今更で失礼だが……

よみがえる中学の友達の面影


CLAMPがXやカードキャプターさくら、CLOVERをリアルタイムで連載していたころ本当に中学二年生だったオタク女子たちにとって、CLAMPとはどういう存在だったか想像してみてほしい。
今の若者にとってのNewJeansみたいな感じ?違うかww
狂おしいほど「美意識」に訴えかけられ、世界観を広げられ、絵を描くオタクにとっては目標地点であり、理想であり、憧れで、CLAMPをどれだけ好きか、CLAMP作品にどれだけ心酔しているかでマウントを取り合う有り様であった。
CLAMPが毎回出す扉絵の美しさ、楽しさ、ワクワク感、想像力をかきたてられる構図、というのは、中学二年という自我が目覚めたばかりのオタクたちにとって何もかもが「正解」であり「理想」だった。
そういう強烈なインパクトを与えられたCLAMPの絵には、なぜか当時の友人たちとのやりとりも一緒に焼き付いていて、今回の展示で見たことある原画を眺めながらコピックを机の上に放り出す当時の音までもがよみがえり甘苦い気分になった。
みんな元気でやっているだろうか……
俺みたいにこうして40になるまでオタク続けててCLAMP展まで来てるヤツ、他に、いますか?っていねーか、はは

偉大な芸術家には、しかるべき誉れを


例えば、ゴッホが死後に評価されたというエピソードをきくたび、私は一抹のモヤモヤを感じるのだ。
偉大な芸術作品であるなら存命中に評価してやれよという歯がゆさがあるし、
もうちょっと生きていたら報われたかもしれないのに……!という気の毒さもある。
逆に、若くして死んだというエピソードが本来の芸術性に加点されいるのだとしたら、なんか正当な評価じゃないような気がするからだ。
そういう、芸術家の評価と、そのタイミングについて考えると、
CLAMPの評価が遅れなくてよかった……と今回の展覧会で心底ホッとした。
というのも、逆に、私のようなオタクはCLAMP作品と共に育ってきたからこそ、自分が幼く痛々しい青春時代を送っていたことにCLAMP作品をリンクさせてしまって、CLAMP作品を過小評価してきたと思うのだ。
常人には再現の不可能なものすごく細かい細工を、
類稀なイマジネーションをもって具現化させてきた偉大な芸術家に対し、「国立新美術館」での単独展覧会を催すことで、存命中にしかるべき誉れを冠せられた。
これはとても大切なことだと思った。

また、1990年とかのものすごく古い原画が非常に綺麗に保存されていることにも感動した。
文化財は収集、展示だけでなく「保存」が非常に重要な仕事とされている。
その上つい最近まで「オタク」カルチャーに対する軽視・蔑視する姿勢があって、私を含め日本社会全体としてどこかで「マンガ・アニメ・ゲーム」を軽視してきたように思う。
そのような時代の中であっても、オタク文化の最先端を走り続けたCLAMPの描いた原画を「大切に保管した」人がいたこと。
それはCLAMP本人たちだったかもしれないが、
こうして数十年後にファンが見られるような状態で綺麗に残してくれていることは本当に有難く幸運なことだと思った。

またものすごく下世話な話だが、
例えば現代の芸術家として村上隆の作品についている値段のことも思い出し、
ちょっとCLAMPの原画も売ってみてもらいたいとかも思った。
この美麗なイラストたち、売ったとしたら1枚いくらくらいの値がつくのだろう。
美術品の値段とは、そのものの美しさ、というより、資産家の愛好家の人数で決まるらしい。
ということはCLAMPとはいえ、あまり高い値はつかないかな?
でもオタクであれば「CLAMPの生原画」の価値を低く見るヤツはいないという気もする。なんなら私だって欲しい。
1枚100万くらいなら買うかな……
あなたはどうでしょうか

音声ガイドは物語のあらすじを説明する感じなので必須ではない


音声ガイドは、割とマンガの名言を朗読してくれる感じで恥ずかしかった。
それと最近は歌舞伎でイヤホンガイドをよく利用していて、美術館の音声ガイドは久しぶりにレンタルしたのだが、電話機を耳に当てて音声をきくシステムで、子機でずっと電話を受けながら観覧するような感じになり、スマホ撮影OKのエリアと被ると両手が塞がって不便だなと思った。
mp3プレイヤー+イヤホンみたいな感じならもうちょっと便利なのにね。

それにしてもやはりプロの声優とはすごいものだという感動もあった。
言葉が意味をくっきりまとっており、なおかつクリアだ。
そういう技術的なものに加えてキャラクター的な特徴がそなわり、ただの音声なのにこっちの注意をぐいいっと引き寄せるパワーがある。
ちょっとカッコイイ声を出して声優を気取るいきった素人とはやはり一線を画しているなと思った。

歌舞伎の観劇ではガイドは必須だと思うが、
今回の展覧会ではガイドはあってもなくてもどちらでもいいなと思った。

お写真

エモいシーン
ザ90年代な美形
クレイジーサイコ野郎こと
奇妙な冒険過ぎる
ふうちゃんうみちゃん登場シーン

攻略法


かなりの混雑ぶりが話題になっている。
私は平日の10時10分に到着し待ち時間20分の案内で入場したが結局入場できたのは11時を過ぎていた。
中も相当混雑していたし、
原画は1枚、1枚が非常に細かく描き込まれているため一作品に対する客の滞在時間が長い。
が、民度はそんなに悪くないので、根気よく並べば目当ての作品を正面からじっくり見ることも可能だ。

入場すれば寒いくらい冷房がきいている。
特に足元から吹き上げるタイプの冷房がきいているので、足元が冷えやすい人は靴下+パンツ+靴で行くのが良いだろう。サンダル+スカートだと足が寒いと思う。

逆に、入場待機列は暑い。
人口密度も高く、湿度も高い。
暑くて倒れたというツイートもちらほら見受けられる。
待ち時間にもよるが、本格的な熱中症対策をしたほうが良いだろう。
凍らせたスポーツドリンク、うちわ・扇子・ハンディファン、凍らせた大きめの保冷剤などを持参する。
服も、あまり締め付けのない格好にするのがいいかもしれない。

内部は「スマホで撮影可能エリア」がある。
スマホ専用ストラップなどを活用して、スマホをパッと出せるようにしておくと便利だ。
また暑さ・寒さ対策でどうしても荷物が多くなりがちだが、ショルダーバックなど両手があくようにすると便利だ。
かなり混んでいるのでリュックにする場合は前にするなど後ろの人への配慮を忘れずに。
大きい荷物は列に並ぶ前にロッカーに入れよう。

トイレは展示室内5分の4くらい進んだ位置にある。
逆流することもできなくはないので(目立つが怒られることはない)、
急いでいる場合はどんどん先に進み、トイレを済ませてからまだ見てないエリアまで戻って見よう。

おすすめ


そんなこんなで思っていたよりずっと感動して帰ってきた。
途中でお腹が空いてきてしまいあ〜これ以上はもう無理やなとなって早々に切り上げたが、
もし人がおらず体調も万全だったら一晩でもいられたと思う。
こんな綺麗な絵が描ける人のこと好きだ……と感じた。
こんな作品を作れる人と、同じ時代に生きられているなんてラッキーとしか言いようがない。
オタク的感性という意味では母のような存在のCLAMP先生。
たぶん、わたしの母と同じくらいの年代だと思うが、
いつまでもお元気でいて、美しい世界をこれからもたくさん産みだして欲しい、と思った。

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