[ショートショート]ただ何となく。
『ねぇ…。また会えるかな?』
「絶対会えるよ!だから元気になれよ!」
『そうだね。早く元気にならなくちゃ。』
「そうだよ!元気になったら前みたいに遊ぼう!」
『ありがとう。頑張るからね。』
「…そうだ!次会えた時にお互いが分かるように合言葉決めておこう!」
『合言葉?もし大人になってたらお互いに分からなくない?』
「それは…そうだね…うーん。」
『あ、そうだ。お互いが分かるところに何か印を付けておこうよ。』
「印?」
『そう。印。君のここと、私のここ。私たちにしか分からない印。』
「いいねそれ!そうしよっか!」
『じゃあこれを渡しとくね。』
「おぉー…ピカピカだぁ…」
『これのサイズがピッタリになったらさっき言った君のここに付けるんだよ?』
「分かった!」
…………………。
ただ何となく。
言葉にしてみたけど心の中では何をどうしていいのか分からない。
何かがその場所を避けて渦巻くように穴を空けている。
負の気持ちが多くなって何をどうしたら上手くいくのか。何をどうしたら楽しくなるのか。
いつものように嫌だと思う仕事で一日を潰し、帰ってからはぼーっと動画を見て眠る。
何が楽しいのか、何をしたいのか。ただその1日を繰り返し同じように過ごしてこのままどうなるのか。
いつものようにそんな日常を繰り返していた中である日、1匹の猫に出会った。
「何をしてるんだ?」
そんな一言が自然と呟かれた。いつもならそんな事しない。何故かは分からない。ただ確かに自分の口から紡がれたのだ。
(…自分もヤキが回ったか。)
そんなふうに考えた直後。
「にゃあ」
(…返事をしたのか?…いやタイミングが良くて返事に聞こえるだけだろう。)
「にゃあぁ」
返事をしたのに何も無いのかと言わんばかりに続けて鳴いている。
「どうした?」
「にゃ」
こっちのセリフだと言わんばりに返答が早かった。
「俺の言葉が分かってるように鳴くなお前は。」
「にゃん」
(凄いだろ?とドヤ顔しているように見えるな。さすがに気のせいだろう。)
「人懐っこいがどこかの飼い猫かお前。」
「にゃーあ」
「すまん…どっちなのか俺には検討つかん」
「にゃぉぅ」
やれやれと言った具合にふいっと目を背ける。だが、どこかに行く様子もない。まるで話し相手にはなってやると言わんばかりだ。
「にゃーお」
「なんだ。話し相手になってくれるのか?」
「にゃぁにゃ」
「違ったとしても少し話を聞いてくれるか。」
「…」
聞いてやろう。とでも言わんばかりにちょこんと隣へ座る。
「ありがとう。実はな…」
今の心境をありのままに少したどたどしく言葉に出来ない部分もあったが全て吐き出したと思う。
辺りはもう灯りを付ける時間帯だ。猫はずっと隣に座り話を聞いているか分からないが留まり続けている。
「もうこんな時間か。すっかり遅くなってしまったな。」
「にゃーぁう」
(猫相手に愚痴を言っても仕方ないが何故か吐き出して少し気が晴れたな。)
「話を聞いてくれてありがとうな。不思議だな。何故こんなとこにお前はいるんだ?」
「にゃぁおぁぅ」
「聞いた俺が悪かった。聞いても俺には分からなかった。」
「ニャ」
おい。と怒られた気がした。
「俺はそろそろ帰るがお前はどうする?帰る場所があるのか?」
「ニャニャ」…グルグルグル
「おい。膝に乗るな。帰るって言ってるだろ。」
グルグルグル…。
「喉を鳴らすな。なんだ、一緒に帰りたいのか?」
「にゃあぉあぉう」…グルグルグル
「全く…。分かった。一緒に帰るなら着いてこい。」
「にゃあぁう」
(話を聞いてくれたお礼もしなきゃ…か。色々買わないといけないな…。)
「じゃあ帰ろうか。」
『(君は変わったと思ったけど、その笑顔は変わらないね。あの頃のままの君だった。変わったところも沢山あるけど変わらないところもいっぱいだ。…私は変わっちゃったんだ。ごめんね…。でも君への気持ちは変わらないんだ。君の気持ちは分からないけど、君も同じだと嬉しいな。私は君を見つけられたんだ。)』
『(その左手に付けられた私たちにしか分からない印。)』
「にゃあおぅん」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?