各楽器ごとの演奏感まとめ①ドラムセット
いろんな楽器に手を出している。力量は微妙。
楽器によって演奏感覚があまりにも異なり、愕然とする日々である。まぁそれは面白味と言ってもよいのだが、これほどまでに体感が異なるのだとすると、アンサンブルにおける各楽器担当者間でコミュニケーションの難しさが発生することは避けられないだろうなと痛感する。
ので、一個人から演奏感覚の違いをできるだけ言語化してみる記事を書いておこうと思った。
何度も言うが力量は微妙。かつ学術性信憑性ゼロ。主観盛々。
あくまで一意見としてご覧ください。
最初はひとつの記事に全ての楽器をまとめようと思っていたんですが、あまりにも長くなりすぎるため、個別で出していくことにしました(いつもこれ言ってるな)
考え方の変遷により、随時更新する可能性も多々。
<ドラムセット>
・セットの中(演奏者が座ってるあたり)と外(他の人が聞いているあたり)で、自分自身の音がぜんっぜん違う。びっくりするくらい。単純に全体としての音量差もあるけど、なによりセット内の各楽器の音量バランスと打点の強さが全く異なるのが厄介。
・具体的には、中にいるとスネアの音の特に打点の部分がかなり強まる。よほど前方へ傾けたセッティングでない限りスネアの打面は概ね演奏者の耳の方向を向いているので、アタックがダイレクトに聞こえてしまう。相対的にスナッピーのサステイン側が弱まって聞こえるので、音価の感覚もやや外側とズレる。またフィルインなどでスネアを多数連打している際、モニタ環境によってはほぼ他の人の音が聞こえなくなる。
・タムなどもアタックは強く出るが、これはスネアほど顕著ではないイメージが筆者としてはある。セッティングにもよるかもしれない(位置次第でスネアよりは回避しやすい)。低音もわりかし聞こえる。実体がそこそこ自分に聞こえやすいので、外側で必要とされる音量よりも控えめに叩いてしまうことがあるかもしれない(特にマイキングをしない場合)。低音感が外側でどの程度機能しているかの逆算が難しく、タムを主体とするフレーズがバランスよく外側に聞こえているかの判断が難しい(ハットの8分刻みをフロアタムで代用するフレーズとかが顕著、うまくいってるのかわからない)。
・一方でバスドラ音が全体的に遠くなり、特に低音感がかなり薄まる。トンバクやフレームドラムなどでもそうなのだが、打面に対して水平(打面をそのまま横に延ばした延長線上)あたりで聞くと低音がかなり薄まる現象がある、たぶん表面と裏面から発生した音波の位相がちょうど打ち消し合うあたりなのではないかと察するが、詳細は知らない。高音側はそれなりには聞こえるのだけれどとはいえ指向性からは外れているので大きくはなく、スネアの余韻などに掻き消されてしまうことも多い。
そのくせPAの外音では爆音で再生されていることが多いので、その音量差がフレーズ与える影響を逆算しなければならないのがとても難しい。なんなら演奏中「自分がバスドラを踏んでいるかんじがしない」ことが多々ある。特にダブルキックなどを踏む際には足から帰ってくる打感も弱くなりがちなので、自分の点が自分で把握できないことも多い。
またこれは筆者の感覚だが、スネアやタムなどの太鼓類とバスドラとで打面の向いている方向がまったく異なるため、立体空間で音が飛んでいく方向が違い過ぎて、それぞれの楽器がバラバラに演奏されているような感覚になることがある。その結果、複数の太鼓で音符を数珠繋ぎにしていくようなフレーズに違和感が出て演奏しづらいことが多々ある。PAはそれを拾ったうえでメインスピーカーで同じ方向に飛ばすのでフレーズがひとつながりに聞こえるのだが、演奏者の位置で聞くとバラバラに解体されて聞こえてしまうのだ。これは個人差ある話と思われるが、「楽器の寄せ集め」感は中にいるときの方が顕著に感じるように思う。
そういった観点や、あと単純に物の配置によるマスキングの関係などから、椅子の位置や高さなどによっても聞こえがけっこう変わるイメージ。
・ハイハットの音は実体感がかなり強まる。繊細なハイハットワークなどをしたいなと思っても、打点がいちいち爆音で自分に返ってくるので制御が難しくなる(まぁ単に筆者の技量の部分が大きいのは間違いないが)。
一方で、体感音量そのものは内外でそれほど変化しないイメージがある。もちろん中の方がでかいんだけど、外側でも「認識しやすさ」がそれほど変わらないような感覚。どちらにせようるさいので気は遣うが、気を遣う際にそれほど逆算を必要としない印象がある。太鼓類の方が音量差の逆算が必要なイメージ(一方で太鼓類の方が個別マイキングをしてくれているケースが多いので、ある程度PA任せにすることができるという部分はある)。
やや逆算が難しいのは、オープンハイハットとクローズハイハットを行き来する際の音色変化の曲線感、みたいなものは内外でややイメージがズレる印象がある。概ね外側で聞いたときの方が雑さが目立つ印象があって、これはどういう理由なんだろう?もしかするとハットそのものの聞こえというより、そこに合わせている他の太鼓類の聞こえが干渉しているかもしれない。あとは仮説として、ハットをクローズで演奏しているときとオープンで演奏しているときとで音の飛んでいく方向が若干異なるのではないかという説もある。近接で聞いている人間の方が音の飛ぶ方向差の影響を大きく受けるので、ハットを頻繁に開け閉めしている際の音の拡散方向の違いで演奏者は音を捉えきれなくなるのかもしれない。仮説。
またハイハットに限らないことではあるが、近接で聞いているとあらゆるメカニックノイズが気になりやすい。ハットペダル機構部のわずかな軋みだったり、取り付けたタンバリンの共振だったりが演奏者には強く感じられる。外側だと意外なほど気にならないことが多い。
・シンバル類はセッティングにもよるが、演奏者本人には実はそれほどうるさく聴こえないことが多い。他の太鼓の打点にマスキングされたり、運動体感として気合をいれた瞬間に発音するので大音量に対してびっくりしない(自分が力を込めた瞬間に音が鳴るので大音量に対して用意ができている)のかもしれない。またこれもバスドラと同じく、真横は位相のキャンセルが起こってるのかちょっと大人しく聴こえる印象がある。ちなみにシンバルの真下に顔を突っ込んで聞くと予想の数倍低音が鳴っている。
高音成分が主体のため空気や遮蔽物による抵抗の大きさや指向性の強さが関係するのか、セットの外側でも聞く位置で音量感がだいぶ変わるイメージ。
PAの外音としては、他の太鼓類をしっかりマイキングする場合、シンバル類は相対的に外音のボリュームが落とされ、自分で思っているよりもやかましさが軽減されているケースも多々。また環境の反響具合でやかましさがかなり変わるので、もろもろの都合で中音と外音の逆算が難しい(状況によってズレがだいぶ異なる)楽器であるという印象。うるさくしすぎることも多いが、控えめにしすぎることも多い、難しい楽器。ちなみにマイキングは真上から行うことが大半なので、収音具合を確かめるためには一度真上から聞いてみるのは手かもしれない。
・ちなみにこの辺りのバランスは演奏時の音量によってもかなり変わる。やはり小さな音量で叩いているときの方が識別性が高い。また各楽器にミュートを強く施して倍音やサステインを抑制しているときの方が識別性が高い。この辺りはセットの外側でも起きる現象だが、中の方がより顕著かと思う。ドラムセットに大音量を求めることは、単に身体操作の観点のみならず出音のモニタリングの観点においても判断難易度が上がることは意識しておきたい(これは仮説なのだが、音量を効率よく引き出す様々な演奏技術のうちの一部は、単にエネルギーの操作として有利ということのみならず、中音におけるモニタリング精度を失いづらい操作という観点も含まれているケースがあるのではないかと予想している。まぁよしあしはあると思う)
・ただ、このあたりの感覚は個人差がそうとう大きいように思う。筆者はハイハットをひたすら爆音が出過ぎて扱いづらい楽器だと認識しているが、「ハイハットはそんなに音量が出ない」という意見を耳にしたことも何度かあって、その主張も実のところ納得できるものではあった。個人差…という言い方をして終わらせてもいいのだが、それで言うとドラムセットはおそらく「聞こえ方や考え方の個人差が大きい」楽器であるのではないかという予測もある。
個人差がどこから発生するのかということを考えると、まぁ順当には各要素ごとの捉え方の違い、という言い方はすることはできると思う。帯域ごとの捉え方の違い、ダイナミクスの捉え方の違い、アタックディケイサステインリリースの捉え方の違い、などなど。その点で言うと、例えばギターアンプで歪んだエレキギターの音などは、ダイナミクスはかなり抑制されているし、アタックの成分もかなり弱まるので、そういった要素における個人の判断差が発生しづらいのではないかと思う。その点で、ドラムセットは個人差が生まれ得る各要素が豊富に含まれている(全体的に抑制されていない)楽器ではないかと思うのだ。
例えばアタックの倍音の細かいブレにいちいち気を取られる人と、それをスルーできる人。どちらの方がよいのかはわからないが、両者で判断に差があるのは間違いなく、前者はアタック時の音色が安定しづらい楽器を「うるさい」と思いがちになる可能性が高い。また、リリースの消え切りのタイム感をいちいち気にする人とそうでない人。前者はやはり、モニターからどの程度各楽器のリリース成分が聞こえてきているかでプレイに影響が出てしまう。もちろんそれは繊細な制御を可能とする優れたセンサーという言い方もできる。そういった、個人ごとの判断の違いが発生しやすい楽器なのではないかと筆者は考えている。
・全体として、演奏者の運動の体感が演奏実態の把握において肝になる楽器かと思う(他の楽器でもその傾向はあるが、特にドラムセットはそれが顕著であるように思う)。たとえばバスドラなどはどうしても音が遠いので、モニタ環境をうまく整えることももちろんだが、足先から伝わってくるヒットの感触を打点把握の頼りにすることも重要となる。一方で、そういった運動の感覚が演奏実態をごまかしてしまう部分もあって、オープンハイハットの音を切る時には「踏み込み音」が同時に鳴るので実際に音が切れるのは足を下した少し後になるはずだが、演奏体感としては足を下した瞬間に足にその感触が伝わってくるので、その体感を「音が切れた瞬間」だと誤解してしまったりする。ダブルストロークやダブルキックで演奏する二打は外側で聞こえる音が完全に均一になっていたとしても、演奏者の体感としては最初の一打と次の一打の演奏の仕組みがまったく異なるので、その体感が影響して二打が同じ音に聞こえなかったりする。やや「ぼーっと」聞くようにすると運動の体感をほどよくスルーできて同じ音に聞こえるようになったりもするけど、運動の体感を残した方が熱のこもった演奏になったりすることも多々。運動としての特性と実際の出音の関係、またそこにどうしても発生してしまう心情の部分との折り合いと意志、そういった問題とどう向き合うかがドラマーの永遠の課題のひとつなのだと思う。
・自分以外の楽器の音は驚くほど聞こえない、これは演奏者のスタイルなどにもよるとは思うが、単なる音量差以上に聞こえない。距離による音量の大きさもさることながら、音の到達速度差による部分も大きいものと思われる。ただでさえドラムセットはアンサンブル中で最高クラスに打点が強くレンジも広い楽器なので、それが最大かつ最速で届く演奏者の位置は、ドラムの打点と帯域が他の楽器すべてを潰してしまうのである。大音量でパカスカ叩きまくる音楽では自分の周りにドラムの音の壁があるような感覚で、それ以外の楽器全てが外側の遠くの方でうっすらあるようなないようなという印象である。
これはモニタ環境や空間の広さ、密閉具合などにもよるとは思う。一般向けの安い貸しスタジオでモニタ無しで演奏している状態からライブハウスの広い空間でモニタありにグレードアップすると、あまりの音像のクリアさにちょっと戸惑う。広さと密閉具合が特に影響するのがシンバル類で、やかましさの大部分が壁からの反響であったことが理解される。
・速度差は当然ながらグルーヴに影響するので、ここのところをいかに逆算して、その逆算を自分にとって都合のよい認識へと塗り替えられるかが鍵となるように思われる。自己暗示系楽器。たとえばバックビートのスネアは他の人の打点を待ってから叩くと外側では遅く聴こえたりする(音楽性や他の人のタイム感にもよるので一概に言えないが)。たとえばそういったとき、演奏者の体感としてはスネアの音で他の人の点をむしろ掻き消すように出さなくてはならないという場合もあるかもしれない。ただ演奏者の心情としては、掻き消す精神性でそれを演奏したくない。そのとき、そこにどういった他の言葉と体感を当てはめられるか、みたいなことが重要になると思う。たとえば「決めてあげる」「杭を打ってあげる」と言い換えたり、あるいはアンサンブルの「合っている」という感覚を少しずらして、「他の人が打つバックビートは自分がスネアを叩いた直後の腕の振り上げ辺りに発生する」と認識するようにして、自分の腕の振り上げと他の人の演奏とを合わせることに意識を置くようにしてみたり、そういった認識の作り替えでどうにかしていく、というのが筆者の個人的な考え方である。大変興味深い楽器である。
・チューニングで出音の端整さのみならず演奏のしやすさがめっちゃ変わる。なんか今日うまくいかないな~と思っていたところでチューニングをやり直すと解決したりすること多々。ちゃんとチューニングを検討する時間を設けること、またドラマー以外の人はドラマーのチューニングはちゃんと待ってあげることをおすすめします。
・セット内の空間はとりあえず人が座れればそれでいいという考え方がある一方、あんまり狭いと無意識に身体の動きが縮こまるので、できれば少し余裕があった方がいい。人間は無意識に周辺物体への身体の衝突を避けているのだと実感させられる。ストロークが控えめになったり、それと意識しなくても普段と異なる軌道を通してしまったりするので、全体的にクオリティが落ちがち。同様の理由で、あんまりいろんな楽器を立てまくると、楽器が少ないときに比べてクオリティが落ちる。意外といろんな場所にスティックの軌道を逃がしてたんだなと実感する。多点セットを見事に叩きこなす人は、自分の動きがうまく成り立つセッティングを長い時間をかけて作り上げていったんだろうと思います。そんなかんじで、他人のセッティングにいきなり座るとクオリティがめっちゃ落ちる。これも熟練すればある程度即座に対応できるのかもしれないが、道は険しい。