パンチライン・オブ・ザ・イヤー 2023
ナタリーの企画に今年は参加できなかったので、個人的に2023年のパンチライン大賞まとめました。
"まるで飛行機この街が 小さく見え出す本当の話だ" -Watson
(from Watson - ペンとノート)
あまりにも詩人。自分がビッグになることで相対的に街が小さく感じることを、飛び立つ飛行機からの視点で喩えている。飛行機で全国飛び回るくらいビッグになったって意味も含まれてるし。こういう表現をできるのがリリシストだと思ってる。
"古い知り合いもいい顔するために自慢してる俺の連れだと 才能あると気づいたんだこれにだけど見てないよプレバト" -Watson
(from Lunv Loyal - 高所恐怖症(Remix) feat. SEEDA & Watson)
このバースも完成度えげつない。"晴れてるのに雨が降ってるみたい狐の嫁入り"という綺麗な日本語から、俗っぽいテレビ番組の落差で笑わせ、全体的にはしっかり不良の歌詞になってるというWatsonならではのバランス感覚。半拍早く切り上げるライムの置き方も秀逸。他の客演だと、これまた完璧なDeechのMichelin Chef、かましすぎのSATORU - Drill Flow、R-指定に影響を与えた(?)MC TYSON - G's Up、一般受けトップのMakuhari("充電5パーセントのiPhone メモ取って見せつけたい才能")あたりが特別印象に残ってる。しかしこれだけ客演無双してたのになぜかナタリーにはひとつも入ってなかったな。
"今は口より行動 過去は未来でトントン 生まれた場所が貧乏 でも自分の子供はボンボン" -T-STONE
(from T-STONE - STAR feat. Watson)
BAD HOP - MukaijimaのT-Pablowのライン "子供達は回ってる寿司屋を知らねぇ 握るマイクでまた顎回しすぎたせい"はここからインスパイアされたと思ってる。人生変えたのはT-PablowのパンチラインのWatsonを象徴する「(回す大麻と)回らない寿司」が本人に還元。このような現象を繰り返しながら、日本ラップは進化していきます。
"乗ってるプリウス黒い 悪口聴こえたとき悲しい 暗い部屋から抜け出し この先の未来なら明るい" - Young zetton
(from Watson & Young zetton - 暗い部屋)
ヘイターを一蹴するんじゃなく、しっかり受け止めてピエンする正直なペインの吐露。これも18kの"人の目とか少しは気になる方"あたりから伝わったWatsonのイズムだろう。
"食べるシーフード 貧乏なら死ぬ 金欠な男、ゴルチエ シースルー" -Elle Teresa
(from KOWICHI - Money, Money, Money feat. eyden, Elle Teresa)
Elle Teresaがデトロイト系フロウで覚醒した伝説のバース。男が金出すのは当たり前とか、初デートでサイゼは嫌だとか言うと炎上する世の中だけど、エルテレサはナチュラルボーンギャルなのでそんなことは関係ない。エンパワーメントの逆とか言ってくるしゃばい奴もゴルチェシースルー。シースルーは最近流行りのセカンドスキン、こういうパワーネットのこと。
"自慢話可愛いけど寝そう 信じない男、占い、手相" -Elle Teresa
(from Deech - Yap Yap feat. Elle Teresa)
幼稚な男を慈しみで包み込む感じと、オカルトぶった斬りのスタンスは自分が想像してたElle Teresaと解釈一致した。ギャルのカリスマになるだけあるなという感想。あと単純にラップうますぎる。
"口だけでかい男 あそこまるでししゃも" -MaRI
(from Awich - Pussy feat. MaRI)
みんながししゃもの代わりに食べてるカペリン(カラフトシシャモ)の雌は最大25cmあるらしいよ。
"偏差値数えてもほぼみんな0 ベルサーチはそれでも手にするけど ギリ3p出来そうな広さのベットで 同じ夢を見てる地元のツレも" -JAKEN
(from JAKEN - HOOD PROJECT feat. ke1)
ファッションピーポーの「ギリハッピー」より「ギリ3P」を流行らせたい。JAKENは18stopとのchange lifeでも"ギリ3Pできそうな狭いベッドで 寝ずに見てた夢と成功"と歌っていたが、HOOD PROJECTの「同じベッドで同じ夢」という意味の方が綺麗にまとまってるかなと思う。偏差値ゼロとベットにはつっこむな。
"ライブに呼ばれる前は欲しいもの買えずに堪えて耐えた まるで街中がヨドバシカメラ ダサい音楽でも貰える金は" -韻マン
(from 百足 & 韻マン - オオカミ)
百足 & 韻マン(特に韻マン)はバトルラッパーの古臭いボキャブと今のストリートラップのボキャブの違いが分かってるし、セルアウトと非セルアウトの線引きもできている。"一生剥がしとけ 街中のポスター"(JAKEN & 18stop - White tee)を聴いて、お前も百足 & 韻マンみたいなポップラッパーとコラボしてんじゃねーかと批判した者は、違いの分からないトーシロ。同ビートの君のままの韻マンとじっくり聴き比べてみ。
"日本なのに巻いてる1本 Bad and Boujee like Migos " -MIKADO
(from MIKADO 18stop - HIKIYOSE freestyle)
いっぽんでもニンジンの逆バージョン。個人的に盲点だったから選んだけど、デーブ・スペクターあたりが言いそうな雰囲気もある。18stopの"洗っても肌は黄色 仕事を変える白も"好き。最近絶賛されている今年のTOFU & MIKADOのアルバムよりも18stopとのEPの方が聴いてる。
"将来乗る車と俺にない天井 ダルメシアンに着さすBALENCIAGA 稼ぐしかない バイトもしたくない 100caratのダイヤより光る俺とD-KARAT" -MIKADO
(from D-KARAT - OUT JAIL REMAKE ft. MIKADO)
USではよくあるNo Ceilingsだけど、ミュージックビデオの合唱でだいぶ加点されつつ2023ベストフック大賞。こんなにも歌いたくなる曲なのに再生数が少なすぎる不思議。バレンシアガも「着せる」じゃなくて「着さす」なのがまた良い。使役が強調されて金持ちの傲慢のニュアンスが強まってる。
"がっことちんこパンツん中に隠そう 湊囃子鳴る路上" -Lunv Loyal
(from Lunv Loyal - SHIBUKI BOY)
薬物を食べ物で例える本場の王道表現にプラスして地元要素を絡ませることができるLunv Loyalは一流のラッパー。Universalと契約したようなので売れて欲しいな。TOFU & MIKADO - Welcome 2 Wakayamaの"鼻からいく白浜"もこれに近いものがある。
"生まれた街 飲み込まれない俺たち" -PAZU
(from PAZU - ラップスタア誕生2023応募動画)
震災の津波で父親を亡くしてしまった人の深い悲しみに包まれたライン(インタビュー参照)と分かりつつも、かっこ良すぎて日常で使いたくなってしまう。PAZUも占い信じないし、Back to the hoodだし、なにかとElle Teresaと共通点があるようだ。
"誰がどうあれがこう自分の意思持てよボケ 持てないやつ檻の中へ 残ったやつで戻す流れ" -P-free
(from Wyatt - Don't Stop feat. P-free)
日本ラップの中で最も楽しいサブジャンルこと大阪バトンルージュから、捻りはないものの、パンク精神を感じるライン。そして圧倒的に声が良い(Kyle Richhに似てる?)。そりゃ海外でバズるわけだ。まだ未熟さが目立つ相方のWyattも、"お前らのストリート セカンドストリート"という今年のラップスタアで一番面白く、日常で使いたくなるラインを残している(→応募動画)。
"武器の持たない戦争中もう 変えちゃならない憲法9条 タイムラインじゃ垣間見える陰謀 誰かがこう言えばセキセイインコ" -EASTA
(from EASTA - RedBull 64Bars)
Cyber Ruiですでお馴染みのEASTAのポリティカルサイドに感銘を受けた。EASTA & NAOtheLAIZA - Do My Damn Thangの"横にダチがいる俺の仲間にいらないやりらふぃー 俺の知る限りはRapperってFakeが8割"とかもなかなか。トピックの幅が広く、基礎力と好感度が高いラッパー。
"土砂降りのようなYEN Won Dollar コンビニ行ってぱくんない傘" -kZm
(from kZm DOSHABURI feat. JUMADIBA)
おまけのtiktok部門。"餃子食べて立ち止まって考える"よりこっち。動画で見た中学生限定クラブでの大合唱は日本ラップの未来に希望を感じたシーンなので、チー牛の方たちは中学生を貶すの辞めていただきたい。