あ
二週間も前のことをまだ鮮明に覚えている
いとも簡単に鼓膜を通り抜けて頭の中を突いてきやがる嫌〜な金属音、どれだけ寝ても不快だ!
間に合う算段では到底考えられないような、かなり遅めの ス ヌーーーズでようやく体を起こした
小さく一言「大丈夫」なるべく焦らず悠長に、自分のペースを崩さないよう、だらりだらけて支度を済ませ、ようやく家を出たのは正午頃、今日の俺は大丈夫だ
駅までの短い道のり、砂利銭を投げ入れて切符を買う、大丈夫、何故かホームでの待ち時間にあの日からここまでを一生懸命思い出そうとしたが思い出せなかった、というよりは持っていなかった
忘れた・思い出せないの類ではなく、本当に根こそぎ持っていなかった
目的地までは電車を乗り継ぎおよそ一時間、いつも通りゲーム機が時間を潰してくれる、だから大丈夫、ぷりきゆあしいるの貼られたピンク色のデイエスライトにファイナルファンタジィ◯ックスで燃え上がる今日の俺はファイガである、うーむ、どうやら大丈夫じゃない
堺駅前のコンビニはもうセブンイレブンに変わっていた、でも大丈夫、桜を横目にいそいそと遅すぎる焦り、遅刻を含めてこれといった特別なことはなく無事に会場へ到着した、俺はもう大丈夫だった
外構えとでも言うのだろうか、建物の其れが仰々しく魔窟のような雰囲気を醸し出す
此処は堺FANDANGO、現存する中で間違いなく一番格好の良いライブハウスである
大遅刻の身分でまずは一息、俺のセッティングは鞄からマイクロフォンを取り出して尻にケーブルをぶっ込む、のみ、おおよそ十秒で済んでしまう
大きな声でリハーサルを終えて二息
各バンドのリハーサルを眺めながら三息
生田がせっせと物販の準備をしてくれている、ふう、五、六、七息
出演する友達と談笑しながら八息、それでも主催者として一応気を張ってはいるので、もう疲れた
店前でFANDANGO店長と簡単な会話をしながら各所に連絡を返している時点でおおよそ十二息、もう撫で下ろす胸も溜まった息も無くなってくる頃
マーシーと龍太郎が花を持って歩いてきた
サ・ポ・ー・ト・メ・ン・バ・ー・一同、、
ブワッ!!!いとも簡単に涙 と、同時にハッとした
「今日は俺がライブをする日だ!!!!!」
時計の針がギュルンギュルンと加速して回る様な感覚!気付かされた!なんてこった!無意識に俺の背筋まで伸ばしてくれる!どこまで優しく!どこまで気の利くサポートメンバーなのか!猫背の男は涙した!そしていつも通りのワクワクがやって来た「これだ!これだ!」急な脳内麻薬にガンギマリ、自然とエクスクラメエションマークが増えていく
高揚し浮き足立ったのも束の間、楽屋へ戻ると金庫を忘れて怒られるなど、そうして鬱病あがりの偉そうな顔合わせにて落ち着きを取り戻していった時刻は会場のオープン前
既にかなりの人がFANDANGO前で待ってくれていた
また涙、本当に嬉しかった
業業天国で風香爆轟・我鳴ル対談であなたとワライタイト
「よし、やるか」
体感で言うならばもう気が付いた時には終演後
擦りむいた小僧過ぎる両膝と、死に至る疲労感、バンドでしか埋まらない部分が二年ぶりに満たされた心、ハイライトとやらが浮かんではニヤついてしまいそうになる口角を何度も"へ"と結んだ
それから打ち上げ打ち上げ打ち上げ打ち上げ打ち上げ打ち上げ打ち上げ打ち上げ打ち上げ打ち上げ打ち上げ打ち上げ打ち上げ打ち上げ打ち上げ打ち上げ打ち上げ打ち上げ打ち上げ、ふう、打ち上げ打ち上げ打ち上げ打ち上げ打ち上げ打ち上げ打ち上げ打ち上げ、翌日、昼過ぎ、白目でようやく一本締めにて・完
これが俺たちの第二幕だ、べべん!!
怖かったのはみんなの目
怖かったのは離れていく背中
怖かったのは自分自身
不安という塊がまるで大津波の如く、ざっと見積もっても高さは10m、幅が50mにも及び、もちろん逃げ場は無く丸ごと飲み込まれてしまっていた
なんたる為体、情け無さもここまで来れば芸術である、などとちまちま考えていたのは昨日までのこと
「あらら?俺ってば実はかまってちゃんのふぁっしょんめんへらで、ちょっぴり(二年間)拗らせただけのろっくすたあなんじゃね?」
ヒョイとモニターの上に飛び乗ったならば、みんなの歓声に勘違いさせられて、あれよあれよと良いライブになりましたとさ
「歓声が聞きたいだけ」(歌詞:バーサーカーより抜粋)
なんちゃあない、少し空いても俺はちゃんとバンドマンやったわ
待たせたね、ありがとう
みんなに緊張してる?とか聞かれたけれど、そもそも緊張しないタイプというか、ワクワクが全部を上回るからあんまり緊張ってもんが分からんタイプ
ステージ上がったら一音目からボカーン!で、ちゃんと我を見失うタイプ
だからいっぱい怪我するタイプで、歌詞はよく間違えるタイプ(その時に俺の口から出た言葉が全部正しいと言い張るタイプ)
MCはあんまり考えていかないタイプ(予定調和の話に感情が乗らんタイプ)
ライブ前だけは酒を呑まないタイプ(素面でヤバい奴が一番ヤバいし、なんぼええこと言うてても所詮酔っ払いやからな!タイプ)
酒は呑みだすと長いタイプ(ちゃんと酔っ払うしどんどん記憶も失くすタイプ)
最近は普通のOLさんとかがタイプ
あんまりお金に頓着が無いタイプ
マイク以外は物持ちが良いタイプ
豊かすぎる感受性に振り回されるタイプ
とにかくアナログ・古のバンドマンタイプ
誰よりもそれ媚びの復活が嬉しいタイプ
iTuca LONE ガナリヤ、サイレントニクス ホロ FANDANGOがほんまに大好きなタイプ
ろく 生田 ココロ 龍太郎 マーシー 勇太にはほんまに感謝してるタイプ
そして何よりずっと待っててくれたみんなにこれからも直接気持ちを伝えられる幸せ噛み締めてるタイプ
ほんまにありがとね、みんなのおかげでバンドが超楽しい
生きて歌って出会い続ける、幸せな呪いだ!!
既存曲も増えるやろうし、新曲も演るよ
また一緒におもろいことしようぜ
4/30・5/6の「オイフェス2023」
5/14の「極東・渋谷座」
一緒に笑って、これからの話をしような
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