【SH考察:115】アルベルジュとアーベルジュの綴りは同じなはず
Sound HorizonのChronicle 2ndで主要なキャラクターであるアルベール・アルヴァレス。彼には「アルベルジュ」と「アーベルジュ」という2つの異名がある。
後者のみ綴りが判明しているが、前者の綴りは明かされていない。
ただ、私はどちらも同じ綴りで読み方のみ変えているように思う。今回はそう思う理由をまとめた。
対象
1st Renewal Story Chronicle 2ndより『アーベルジュの戦い』『約束の丘』『聖戦と死神 第3部「薔薇と死神」~歴史を紡ぐ者~』『聖戦と死神 第4部「黒色の死神」~英雄の帰郷~』
考察
アルヴァレスの異名
Albers Alvarez。ベルガ出身で、フランドルの将軍として名を馳せた後ブリタニアに亡命した男だ。
彼には2種類の異名がある。アルベルジュとアーベルジュだ。
前者が先に使われており、彼自身が自称したこともある。後者はブリタニアの女王ローザと初めて会ったときに、彼女によって新たにつけられた異名だ。
どちらもベルガ人という意味のBelgeから派生して生まれたものだろう。アルベルジュと読む表記4つのうち3つ、アーベルジュと読む表記2つのどちらも<Belgaの〇〇>となっていることから、アルまたはアーと読む綴り+belgeであることが推測できる。
異名の綴り
2つの異名のうち綴りが確定しているのはアーベルジュのみだ。
この曲はインストゥルメンタルで歌がないが、歌詞(というか詩?)は存在する。
そこで「Arbelge」という綴りがはっきりと書かれている。
この曲のタイトルが『アーベルジュの戦い』なのだから、Arbelgeでアーベルジュと読むのが正解なのだろう。
一方でアルベルジュの方は一度も綴りが登場しない。<Belga人の将軍><Belgaの亡霊><Belgaの死神><異邦人>と、アルベルジュと読ませる表現は4種類も登場するものの、アルベルジュと読む単語の綴りそのものは登場しない。
綴りは異なるのか?
そもそもアルベルジュとアーベルジュで綴りは異なるのだろうか?
私は両者が同じ綴りで、ローザが読み方のみブリタニア風に改めたのではないかと考えている。
というのも、前述の『アーベルジュの戦い』が"アルベルジュの"ではなく"アーベルジュの"となっている時点で違和感がある。
彼はずっとアルベルジュと呼ばれており、彼自身もそのように自称したことがある。ローザが呼ぶまでアーベルジュと呼ばれたことはなかったはずだ。
そしてこの会話が行われた『聖戦と死神』は黒の予言書の第九巻。
一方で『アーベルジュの戦い』は第八巻。年代記である黒の予言書は時系列に沿っているはずだが、彼がアーベルジュと呼ばれるより前に『アーベルジュの戦い』があるのはおかしい。
この違和感を無理なく解消しようとするならば、同じ綴りで読み方を改めて、後の世で改めたほうの読みが浸透していると考える方が都合が良い。
つまりもともと彼はArbelgeと綴ってアルベルジュと呼ばれていたのではないか?という仮説を立てている。
ブリタニアに亡命後はアーベルジュと改めて呼ばれるようになった。これにより後世ではアルベルジュよりもアーベルジュという読みの方が浸透し、年代記として黒の予言書を読む後世の人間が読む『アーベルジュの戦い』という発音が正とされているという仮説だ。
また、彼の墓標は夕陽に染まる丘、明らかに故郷ベルガの約束の丘に建てられている。
そこに刻まれた墓碑銘をアーベルジュと読んでいる。もしアルベルジュとアーベルジュの綴りが違ったとして、さすがに故郷に外国語の綴りをそのまま刻まないだろう。
故郷に刻んだ綴りでもなおアーベルジュと読めている点からも、両者の綴りは同じであると考えられる。
読み方の違い
同じ綴りで発音が異なる理由は何か。それは彼らの使う言語の違いだろう。
彼はもともとベルガ出身で、後にフランドルで将軍になった。
現実に置き換えるとベルガはベルギー、フランドルはフランス。
ベルギーは南北で主に使われる言語が異なる。南がオランダ語共同体、来たがフランス語共同体に南北で分かれている。
(厳密に言うと一部ドイツ語を使う地域もあるが)
おそらく彼と恋人シャルロットはフランス語を主に使っていたはずだ。彼らが約束を交わしたウェルケンラートはフランス語共同体にある。
つまりベルガからフランドルにいた間、アルベール・アルヴァレスがアーベルジュと呼ばれていた間はずっとフランス語圏にいたことになる。
一方でローザはブリタニアの女王。ブリタニアは現実に置き換えるとイギリスだ。
(設定上ケルトの影響を強く受けている可能性が高いが)
耳で聞こえる外国語の発音を的確かつ一意に認識できるようなカタカナ表記にはし難いが、少なくとも英語で「ar」の綴りは、直後に母音が来ない限りはカタカナで「アー」と表記されることが多い。car, art, starなど例はいくらでも挙げられる。
フランス語の場合は英語と比べると日本人に馴染みのある例を出しにくいのだが、Jeanne d'Arcはカタカナではジャンヌ・ダルク。
またブランド名「COMME DES GARÇONS」はカタカナでコムデギャルソン。どちらもarをアルと読んでいる。
このことから、「Arbelge」もベルガとフランドルではアルベルジュと発音し、ブリタニアではアーベルジュと発音が変わったとしてもおかしくないだろう。
余談:「アルベール」「シャルロッテ」という名
最後に、これは異名ではなく本名について少し気になったため書き残しておく。
アルベール・アルヴァレスの名「Albers」は名として不自然に見える。
「アルベール」と読ませる名前ならば「Albert」とする方が一般的だ。Albersでは読みが「アルバース」になってしまうし、そもそもこれは名ではなく姓だ。
それから彼の姓「Alvarez」もフランス語らしくなく、スペイン語系の姓だ。彼の先祖にカスティーリャ人がいたのだろうか?
彼の恋人の名は「Charlotte」でシャルロッテと読んでいる。これはドイツ語かオランダ語っぽい読み方だ。フランス語ではシャルロットになる。
アルベールと異なり、シャルロッテはベルガの中でも北側のオランダ語共同体出身なのかもしれない。
結論
アルベール・アルヴァレスの異名「アルベルジュ」と「アーベルジュ」はおそらくどちらも同じ綴り「Arbelge」だ。発音が異なるのは、前者をフランス語、後者を英語で読んでいるからだろう。
彼は最終的にブリタニアで死に、後世の人々にはアーベルジュとして浸透した。そのため本来アルベルジュと呼ばれていた頃の詩もアーベルジュという読みで定着しているのだろう。
なお、この内容で説明が不足している自覚はある。
ローザが発音をブリタニア風にすることで、意味が<Belgaの死神>から<Belgaの暴れん坊>に変わると思ったのかが説明できていない。
しかもブリタニア風では<Belgaの同胞>という良い意味でも通るらしい。両者の意味が違い過ぎて、なぜそう解釈できるのか推定が難しい。
そのため今回はあくまで綴りと発音のみを考えて考察を進めてみた。もし意味の違いも説明できる考察ができたらまた共有しようと思う。
―――
よろしければスキボタン(♡)タップ・コメント・シェアしていただけますと幸いです。
他にもSound Horizonの楽曲考察記事を書いています。
𝕏(旧twitter):@lizrhythmliz
更新履歴
2024/11/02 初稿