【SH考察:056】『呪われし宝石』の現実的価値とミシェルとの関連性
Sound Horizonの『呪われし宝石』、赤色で、かつ『殺戮の女王』という不穏な名を持つダイヤモンドだ。
このダイヤモンドが現実でどれくらいの価値がありそうか、そしてその所有者の一人がミシェルである可能性があるかを検討してみた。
対象
5th Story Romanより『呪われし宝石』
考察
『殺戮の女王』
見た目の特徴
30ctという非常に大きな赤色のダイヤモンドだ。
金剛石とはダイヤモンドのこと。
ダイヤモンドといえば無色透明なものが一般的によく流通しており、目にすることも多いが、色がついているものもある。
後ほど述べる通りかなり珍しいが、赤色もその一種だ。
名称
見た目の特徴とは別に、その経歴から不穏な別称を付けられている。
まるで鬼籍(死者の名簿みたいなもの)に予約を入れているかのよう、つまり所有するとまもなく死んでしまうから所有者が変わっていっているということがわかる。
そして、それによって『殺戮の女王』という名前がついている。
なおこの名前、日本語では「殺戮の女王」だが、フランス語はその直訳になっていない。
reine duは「~の女王」でそのままだが、「殺戮」のところで明らかにMichèleと言っている。
直訳するならmassacre、meurtre、abattageなどになると思うが、明らかにそう言っていない。
reine du Michèleということは、おそらくミシェル(のような殺戮を行った者)の女王(と言えるほど美しい血のように赤いダイヤモンド)といった意味合いだろうか。
所有者の変遷
「所有者を変え渡り歩いた」宝石であるため、数人の所有者がいたようだ。
そして、そのうちの一人がLoraine de Saint‐Laurentの継母の可能性が高い。
この時宝石はネックレスに付けられていたのだろう。
ただ、これの呪いが発動していたら、この継母は間もなく死んだだろう。
現実の赤色ダイヤモンド
赤色のダイヤモンドはほとんど発見されていないため、世界で最も稀少で高価な宝石のひとつになっている。
2015年の記事だが、Forbesの「12 Most Expensive Gemstones In The World(世界で最も高価な宝石12選)」では赤色のダイヤモンドが1位に選ばれた。
※Forbesとはアメリカの経済雑誌。長者番付など様々なランキングを掲載していることで有名。
アメリカの記事では12選だが、日本語版ではなぜか5選になっていた。英語版、日本語版のリンクをそれぞれ貼っておく。
その理由は、発見されている赤色のダイヤモンドが30個未満で、かつほとんどが0.5ct未満で小さいこと。
現実の世界最大の赤色ダイヤモンドは5.11ctのMoussaieff Red Diamond。
著作権的にOKな画像が見つからなかったが、三角形にカットされた宝石だった。
色味がより濃い赤色で『殺戮の女王』っぽいのはDeYoung Red Diamondかなと思う。
ムサイエフレッドダイヤモンドより若干小さく5.03ct。それでも世界で3番目に大きい赤色ダイヤモンドだ。
赤いダイヤモンドは1ctあたり100万ドル。
2023/09/07時点のレートで、日本円にすると1ctあたり約1億5000万円。
つまり30ctの『殺戮の女王』が実在したら、最低でも約44億円の価値があることになる。
実際にはそこに加工により付加された美しさや、逸話の興味深さといった価値が付随し、さらに高価になるだろう。
現実の呪われしダイヤモンド
現実にも呪われているのではないかと言われているダイヤモンドがある。
最も有名で、サイズが大きなものといえばホープダイヤモンドだろう。
やや暗いグレイッシュな青色で、45.52ctある大きなダイヤモンドだ。
フランス語ではLe Bijou du Roi(王の宝石)と呼ばれている。
インドの農夫によって発見された後、フランス人に購入され、国王ルイ14世に渡り、ペンダントに付けられ、窃盗団に盗まれ、以降持ち主を転々とすることになる。
このように色やサイズは違えど、経歴が『殺戮の女王』に似ている。
(Wikipediaのホープダイヤの記事の「ホープ・ダイヤモンドを扱った(または類似した物が出てくる)作品」に、『呪われし宝石』が挙げられていた。
気持ちはわかる)
『殺戮の女王』の採掘場所
ここまで見てきてわかったとおり、『殺戮の女王』はホープダイヤとの共通点や類似性が多い。
明らかにホープダイヤモンドをモデルにして想像・創造されたものだろう。
どこまで類似した設定と受け取るかにもよるが、『殺戮の女王』もインドで採掘されたのだろうか?
フランスとフランドルが同じ地質なのであれば、ダイヤモンドはほぼ採れないはず。他の地域から買い付けたはずだ。
となると、イヴェールは出稼ぎにインドまで行ったのだろうか……。
ミシェルは娼婦なのか?
『殺戮の女王』の所有者のうち一人は娼婦と表現されている。
このcourtisaneは、娼婦の中でも高級娼婦という意味の単語だ。王侯貴族を相手にする娼婦のこと。
場合によっては王の公式の愛人として権力を持つ場合もあった。
こうしてみると、王様から見た正妻(王妃)と愛人の首を同じ首飾りが彩った可能性があり、個人的にはそこをケチって使いまわすなよという気持ちになってしまう。
まぁそれは置いておいて、気になるのはこの娼婦がミシェルか否かだ。
娼婦が登場する歌詞は、これと『西洋骨董屋根裏堂』にも1か所ある。
『呪われし宝石』の場合は、上記で引用した部分の、少女と老婆の対比がいかにもミシェルを連想させる。
そして『西洋骨董屋根裏堂』もまた、娼婦が出てくるところの直後の歌詞がミシェルを連想させる。
ミシェルは少女のときに父親殺し疑惑で、そして老婆の姿で13人の少年の上で死んだときにもまた犯罪史に名を残した。
明らかにミシェルを意識させる言葉の並びがあり、その直前直後にどちらも娼婦がある。
これはミシェルが娼婦だったことを表しているのだろうか?
もしそうなら、彼女は王侯貴族に取り入り、その首を『殺戮の女王』で飾り、そして犯罪史名を残して死んだことになる。
ミシェルは実父が死に養父も獄中で、母親の描写が一切ないことから、自力で何らかの収入を得ないと生活できなかったはず。
そして性的な印象を受ける描写も確かにある。娼婦だった可能性は否定できない。
結論
『殺戮の女王』は現実におけるホープダイヤモンドをモデルにしているだろう。経歴や逸話に類似点が多い。
ホープダイヤモンドとは色が異なり赤色だが、現実における赤色のダイヤモンドは現在最も価値が高い宝石で、設定としてより稀少性が強調されているように感じる。
そのかつての所有者のうち一人が娼婦、それも王侯貴族を相手にする高級娼婦だ。彼女はミシェルだったのだろうか?
確証はないが、可能性はありそうだ。最初の持ち主の不穏な死に様から『殺戮の女王』と名付けるのもあり得そうに感じる。
ちなみに、今回紹介した実在の宝石のうち、デヤングレッドダイヤモンド、ホープダイヤモンドはスミソニアン博物館の中の国立自然史博物館で実物を見ることが出来る。
英語のサイトだが、以下のページで写真を見ることも出来る。
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他にもSound Horizonの楽曲考察記事を書いています。
更新履歴
2023/09/08
初稿
2024/04/24
一部歌詞引用について「※ルビは書き起こしのため誤差がある可能性あり」の注釈追記
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