【SH考察:070】森と井戸 死と衝動
Sound HorizonでMärchen以降しばしば登場するようになったイドという概念。
これとモリという概念について、それぞれが何を意味しているのかを理解したうえで改めて歌詞を見てみよう。
対象
7th Story Märchenより『宵闇の唄』など
考察
2種類の表記
歌詞中、「もり」と「いど」は2種類ずつ表記が入り混じっている箇所がある。
それぞれ森とモリ、井戸とイドの2種類だ。
例えばこの辺りなど、まさに入り混じっている。
森と井戸は表記そのまま、草木の生い茂るところと水をくむ場所という意味で受け取れるが、カタカナの場合はその意味が変わってくる。
「モリ」
モリとはラテン語のmoriのことと思われる。意味は「死」だ。
比較的有名どころで例を出すならば、「メメントモリ」という言葉を聞いたことはあるだろうか?
「memento mori」はラテン語で「人はいつか死ぬことを忘れるな」という意味だ。
「mori」が死、「memento」が記憶するとか覚えているみたいな意味。
「イド」
イドもまたラテン語のidのことで、意味は端的に表すならば「衝動」。
実際にはやや複雑な意味をしており、精神分析学の用語だ。
イドは人格を構成する要素の一つで、無意識下にあり、性や攻撃衝動、死への欲が生まれる部分だ。
森とモリと井戸とイドの使い分け
モリとイドの意味を理解したうえで、先ほど挙げた歌詞の意味を改めてみてみよう。
前提として、この歌詞を歌っているのはエリーゼだ。
1行目、メルヒェンの腕の中で目覚めた場所は井戸の中。メルヒェンもといメルツは井戸に落ちて死んだため、「モリ=死へ至る井戸の中で」という意味が通る。
2行目、殺意を表すというのは理性のない衝動的なものであり、「イド=衝動で突き動かされるに至る森の中で」という意味が通る。
3行目、もはや叫んでいるというか呻いているというか、何とも言えないが、1行目同様に「死へ至る井戸の中で」だ。
最後の行は深紅と漆黒がエリーゼとメルヒェンの容姿を指すのか、血と死体を指すかという点が定かではないが、ともかく「衝動で突き動かされるに至る森の中で」の解釈で問題ないだろう。
結論
「森」「モリ」と「井戸」「イド」は発音こそ同じだが意味が異なる。
改めて歌詞カードを読みながら聴いてみることで、新たな意味の気づきがあるかもしれない。
メルヒェンは『暁光の唄』で、以下のように呟く。
これは歌詞カードにない台詞だが、果たしてこの時の「もり」「いど」は何を意味していたのだろうか?
「この森/死が、この井戸/衝動が、僕の…」で、どちらとも受け取れる。
まさに解釈の自由だろう。
―――
よろしければスキボタン(♡)タップ・コメント・シェアしていただけますと幸いです。
他にもSound Horizonの楽曲考察記事を書いています。
更新履歴
2023/12/07
初稿
2024/04/24
一部歌詞引用について「※ルビは書き起こしのため誤差がある可能性あり」の注釈追記