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【SH考察:068】ミシェルの人物像を表すための12の要素
Sound Horizonの中でたびたび登場し、妖艶さと不穏さを漂わせてくる女性、Michèle Malebranche。
彼女について複数の曲に情報がちりばめられているため、改めて全体を俯瞰し、ミシェルの人物像を俯瞰的にとらえてみた。
対象
ミシェルが関連すると思われる曲(「ミシェルの関連曲の時系列」の章参照)
考察
ミシェルの関連曲の時系列
私の認識では、ミシェルの関連曲は「対象」で羅列した通り、現時点で10曲もある。
それを彼女の人生の時系列順に並べると、概ねこのようになる。
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『タナトスの幻想』及び『タナトスの幻想は終わらない・・・』は時期不明だが、彼女がずっと苛まれていた恐怖について述べたものと考えられるため、詳細な時期感に固執しなくても良いだろう。
これらの曲から垣間見える、ミシェル・マールブランシェという一人の女の人物像を掘り下げていく。
以前にも一度ミシェルに関して記事を書いたが、今回はさらに情報を足した大幅ボリュームアップバージョンだ。
01. ミシェルは死を恐れている
より正確な表現をすると、何のために生きるか、その存在意義がわからないまま死ぬことを恐れている。
冷たい月に導かれるように眠れない夜が訪れる
そんな時はいくつかの死を幻想して過ごす
私は死ぬのが恐ろしいのだ…何故私は生きている?
明日突然私がいなくなったとしても
何事も無かったかのように機能してゆく
私はこの世界が恐ろしいのだ…何故私はここにいる?
彼女は多くの家庭で得られるような親からの愛情を受けずに少女時代を過ごした。
他者から愛されない・認められないという点からして、自己の存在意義や価値を見出しにくい状況にいたのではないかと推測はできる。
それが存在意義がわからない恐怖、そしてそのまま死んでしまうことへの恐怖に結び付いたのではないだろうか。
そして、ならば何らかの存在意義を模索する方向に行動するのではないか?という予測を立てることも出来る。
02. ミシェルは現実と幻想を混同している
これは少女と呼べるほど幼い頃から見られた特徴で、第三者からも認識できるほどあからさまな状態だった。
(初舞台「パパの幸せを描いてあげる。」 en 21 novembre 1887)
実父「Joseph Malebranche」の凄惨な変死事件
証拠不十分及び、年齢に対する
殺害遂行能力に疑問の声が上がる。
現実と幻想の境界を認識出来ていない
類いの言動を繰り返し、
行動にも尋常ならざる点が多々見受けられた・・・。
※「novermbre」は11月
『檻の中の花』は作中最も網羅的にミシェルの生涯をまとめており、犯罪史という観点からミシェルに関する事象を3つに分けて描いている。
これはそのうち1回目、正確な年齢は不明なものの、ミシェルがまだ殺害など行えないだろうと思われるほど幼かったときの記述だ。
そして、これと同様の表現があることから、『タナトスの幻想』及びその続きの『タナトスの幻想は終わらない・・・』もまたミシェルに関する曲であると推定できる。
不完全なる願望 恣意に傾く天秤
現実と幻想に揺れる 少女の境界
現実と幻想(=妄想?)の区別がつかないというのは、精神的に何らかの疾患を抱えているのか、脳機能に何らか支障があるのか、ともかく心身が正常ではないように感じられる。
精神面に大きく影響しそうな事象として、実父Joseph Malebrancheによる生育環境には問題がありそうだ。
薄暗い部屋で 鎖に繋がれた屋根裏の少女
窓から見える世界は蒼く歪んだ幻想・・・
薄暗い部屋で 狂人に飼われた屋根裏の少女
差し込む月明かりが細い指先を導く・・・
(中略)
少女に与えられたのは
躰を屋根裏に繋ぎ止める為の 最低限の食事
彼女を埃っぽい屋根裏に閉じ込めて鎖で繋いでいたり、与えている食事量が意図的に不十分である点からして、明らかに虐待だ。
(貧困で与えたくても与えられないという可能性もなくはないが、描写からして意図的に最低限の食事しか与えていないように見える)
実父の育成観に大きな問題があり、育成過程でミシェルの精神が歪んだということはあり得そうだ。
(そもそも実父についてははっきり「狂人」と表現されている)
だがそれ以外にも、母親の情報が一切ないことも気になる。
例えば母親から重大な因子を遺伝で受け継いだ結果、精神疾患を引き起こしたのであれば、先にミシェルの発症があり、それに振り回された父親の”狂人化”が後から起こったのかもしれない。
ともかく、はっきりした要因は断定できないものの、ミシェルは現実と幻想の境界が、少女の頃から既に曖昧であったことは確かだ。
03. ミシェルは両手に特殊能力を宿した
柱時計は 午前零時を告げ
閉ざされた少女の世界はやがて
右手に神を...左手に悪魔を宿した・・・
どのような能力か詳細が明瞭ではないが、この力が影響して実父は死亡した。
しかも大出血をともなう死に方だったようだ。
薄暗い部屋で 埃をかぶった屋根裏の・・・
...赤いキャンバスと空になった絵の具・・・。
キャンパスを赤く染めたのはおそらく血だろう。
赤色は原色で、他の色の絵の具を混ぜて作れる色ではない。つまり、絵の具が空になった理由はキャンバスを赤くしたからではない。
もともと持っていた3色の絵の具で、「パパの幸せ」を描いてあげた結果、何が起こったかわからないが実父は出血して死んだのだ。
なお、ミシェルが絵を描く描写は他にどこにも見られない。
そのためこの力の発動条件が「絵を描くこと」に限定されているかも怪しい。
04. ミシェルは複数の年代の人格を持つ
全ては少女の幻想 眠れぬ夜の悪夢
意識の深層で タナトスの囁く声を聴く
(中略)
不可逆なる時が 昼と夜を繰り返すように
意識の表層と深層は 鮮やかに配役を入れ換える
彼女の意識には、表層と深層という大まかに分けて2つの面があるようだ。
それの一方(深層)が少女のまま止まっており、表層が年齢相応なのかもしれない。
もしくは、曲中たびたび登場する「少女」「令嬢」「貴婦人」「老婆」の人格がそれぞれ別個でひとりの中に存在する、いわゆる多重人格のような状態とも考えられる。
そしてこの人格を配役とたとえている。
ミシェル自身、自分の中に少なくとも二人格があることを自覚している節がある。
黄昏に芽生えた殺意 もうひとりの私
(なお、『壊れたマリオネット』がミシェルの関連曲と言える理由の詳細は後述するが、簡単に言うと、首筋を噛んで口を赤く染めている描写がミシェルと通ずる)
05. ミシェルは妊娠することを望んでいた?
唐突に見えるかもしれないが、『壊れたマリオネット』から推測できる。
壊れたマリオネットは 同じ動きを繰り返す
唯...タナトスの衝動に突き動かされるまま・・・
(中略)
緋い月の雫は 抗えぬ衝動
夜の闇に囚われた その少女は眠れない
「緋い月の雫」という描写だが、緋色はサンホラでは高確率で血の意味で使われる(別記事参照)。
そして、血で月と関連するものとしてわかりやすいのは月経くらいだと思う。
つまり彼女は月経が来るたびに、抗えないようなタナトスの衝動(=死の衝動)に突き動かされているということになる。
(「タナトス」「死の衝動」はれっきとした精神分析学の用語)
女性にとって月経がくるということは、閉経しておらず妊娠は可能だが、その時点では妊娠していないということだ。
このことから、彼女は月経が来たことに対して落胆しており、即ち妊娠することを望んでいたのではないか?という推測に行きつく。
(もしくは月経が来るたびに自身の女性性を痛感させられて嫌になったという可能性も考えたが、その後娼婦のように振る舞い、女性としての性的特徴を活用した点と整合性がとれないため棄却した)
06. ミシェルは娼婦のように振る舞ってた
鮮朱から冷蒼へ移り変わる 舞台の上に女優を呼ぶ
街角の影手招くのは 闇を纏った貴婦人
(中略)
鮮朱から冷蒼へ移り変わる 舞台の上に女優を呼ぶ
街角の影佇むのは 闇を纏った令嬢
※ルビは書き起こしのため誤差がある可能性あり
ミシェルは夜になると街角に佇んでいた。
「鮮朱」つまり朱色は、サンホラでは夕陽・夕暮れを表す色だ。
そして「冷蒼」つまり蒼は様々な用途で使われるものの、そのひとつに月を表すことがあり、そこから日が沈んで夜になる頃という時間経過の描写と見て取れる。
(「移り変わる」も時間経過を表わす動詞として自然)
また、彼女は人格の入れ替えを「配役の入れ替え」ととらえており、「舞台の上に女優を呼ぶ」という表現との類似性もある。
夜に街に立っていたら娼婦というのは、偏見からくる短絡的な結論に思われるかもしれないが、可能性としては高いだろう。
性行為を思わせる歌詞がちりばめられていたり、何ならやたらとミシェルっぽさを醸し出している『西洋骨董屋根裏堂』にも「娼婦」が登場している。
《処女》から 娼婦へと 《衝動》は針を振り切り
老婆は《少年》へ 娘は《父親》へ 檻の隙間抜けるように――
※ルビは書き起こしのため誤差がある可能性あり
※「処女」を「ange」と発音しているように聞こえるが、「ange」の意味は「天使」
時代背景的にも街中に娼婦が佇んでいるというのは違和感がない。
参考までに、1800年代後半~1900年代前半には娼婦題材となった美術絵画もある。
これはミシェルの時代より少し前だが、娼婦が客引きしていたカフェで、アブサンというリキュールを飲んでいる様子が描かれた絵画だ。
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ドガはフランスの画家。
娼婦は街中に存在しており、中にはカフェで客引きをする人もいた。
出典:Edgar Degas, Public domain, via Wikimedia Commons
特にパリは産業革命の影響で建築ラッシュが起こり、工事に携わる労働者は仕事終わりに娼婦を求めたため、需要があったのだ。
もし前述の通り、ミシェルが妊娠することを望んでいた場合、その手段として手っ取り早かったのかもしれない。
なお、娼婦の中でも"高級"娼婦のことを、フランス語でcourtisaneという。
娼婦の中でも王侯貴族を相手にするような人物のことだ。
街角に立って客引きをしていたミシェルと、高級なイメージがイマイチ結びつかないのだが、『呪われし宝石』で登場する赤色金剛石の通称が『殺戮の女王』であること、そして持ち主の一人に「娼婦」がいることが気になる。
狡猾な少女 影と踊った老婆 幾つもの首を彩った
派手な娼婦 泥に塗れた王妃 幾つもの首を刈穫った
※ルビは書き起こしのため誤差がある可能性あり
単に不吉な歴史を持ってしまった美しい宝石と、犯罪史に名を残す不気味な女の名前を連想して名付けられただけかもしれないが、ミシェル自身がかつての持ち主の一人だった可能性はあるだろうか?
『呪われし宝石』に関しては下記記事で触れているため、今回は細かく触れないが、彼女が少年以外に誰を相手にしていたか定かでない以上、彼女が宝石の持ち主だった可能性は否定できない。
07. ミシェルは客の首筋に噛みつき血で唇を染めた
わかりやすい描写は『檻の中の花』だろうか。
街角の影手招くのは 闇を纏った貴婦人
素早く抱き寄せ 首筋に熱い接吻
少年の液体は仄甘く 血赤色の陶酔感を紡ぎ
永遠の夜に囚われた 花は咲き続ける・・・
※ルビは書き起こしのため誤差がある可能性あり
※「液体」を「sang」と発音しているように聞こえるが「sang」の意味は「血液」
表記上は「液体」と濁しているが、フランス語でハッキリ「sang(血液)」と発音している。
なお、この描写に類似した描写が『壊れたマリオネット』にもある。
くちづけた首筋に 緋い薔薇咲かせて
月が海に沈むまで その少女は眠らない
(中略)
屠る華を捜すように 夜空を舞う蝶は
綻びた瑕を抱いた タナトスの操り人形
※ルビは書き起こしのため誤差がある可能性あり
繰り返しになるが、緋色はサンホラの歌詞中では高確率で血の色のことなので、これも首筋からの出血とみて良いだろう。
この点から『壊れたマリオネット』もミシェルの関連曲と言える。
なお気になる点としては、『檻の中の花』では貴婦人とされていることに対して、『壊れたマリオネット』では少女とされているという違いがある。
この年齢の不整合性については、彼女の人格における年齢と実年齢の乖離がある点が理由になると思う。
ここでの「少女」は意識の深層のこと、つまりミシェルの中にある、ずっと少女のままの人格の方だろう。
08. ミシェルの養父は彼女を止めようとしていた?
一見、養父とミシェルは性的な、不適切な関係を持っていたように見える。
寂れた洋館 追い詰めた壁際 美しき獲物
軋む床 浮き上がる身体 月明かり差し込む窓辺・・・
(中略)
せめて愛し合った証が欲しい 永遠に消えない傷痕を・・・
このあたりなど、猟奇的な趣向の男が獲物となるミシェルを追い詰めて捕まえていたぶっているようだったり、「愛し合った証が欲しい」などの描写が性愛を連想させる。
だが、それだけとも言い切れない。
この当時ミシェルは確かに性的に奔放だったようだが、それは前述の通り娼婦として街角に立っていたからだ。
ミシェルは犯罪史から鑑みて少女・令嬢・貴婦人・老婆の四つの形態(?)が確認されており、養父とともに居た頃は令嬢のころだ。
実父が死んだとき少女だった1887年から養父が逮捕された1895年まで、間が8年しかない。4つのいずれかに当てはめるなら令嬢ということになる。
街角の影佇むのは 闇を纏った令嬢
激しく愛して 花弁が堕ちるまで
女の勘を甘くみないで 貴方が愛してるのは
しなやかな若い肢体 それは...『私』じゃない・・・
※ルビは書き起こしのため誤差がある可能性あり
そしてその頃の様子が、明らかに己の若さと身体を目的とした男への発言になっている。
自分の養父に対してならば、わざわざ街角で誘惑する必要がない。
ミシェルは街角で男(少年?)を誘い、首筋を噛んでその血で唇を赤く染めた。
薔薇を想わせる緋色の口紅 唇には嘘吐きな約束を
昇り詰めて崩れ堕ちた その夜に花束を・・・
※ルビは書き起こしのため誤差がある可能性あり
これまた繰り返しになるが、緋色はサンホラの歌詞中では高確率で血の色のこと。養父としては、養女が口元を血まみれにしていたらたいそう驚くだろう。
そして彼女の凶行を知り、止めるには殺すしかないと思い、彼女の首を絞めたものの、なぜか彼女は死なない。
そのような姿を目の当たりにすれば恐ろしいことこの上なく、やがて養父の方が発狂するのも無理はないかもしれない。
09. ミシェルは普通の人間のようには死ねない
普通の人間は、首を絞め続けられれば窒息などで死ぬ。
しかし、ミシェルは死ねなかったようだ。
養父は明らかに何度か彼女の絞殺を試みている。
細い頸に絡みついた 浅黒い指先が
食い込んでも離さないで 最期まで抱いていた・・・
(中略)
早くしなければ また夜が明けてしまう
もう一度この手で彼女を・・・
おそらく彼女は一度死んだように見えても、夜が明けると生き返るというのか、目を覚ますというのか、ともかく死なないのだ。
養父は何度目かわからないがミシェルを絞殺し、庭に埋めて遺棄しようとしたが、完遂する前に逮捕され、獄中で発狂した。
養父「Armand Ollivier」の手による絞殺・死体遺棄未遂事件
深夜、半狂乱で笑いながら庭に穴を掘っている所を、
近隣住民の通報によって駆けつけた警察官に拠り逮捕。
その後、「Ollivier」は獄中にて完全に発狂した・・・。
この辺でミシェルはもう既に十分人知を超えているというか、普通の人ではない。
謎の力を手に宿し、死を恐れていたら普通には死ねない身となっていた。
10. ミシェルは不死性を追い求めた
彼女が普通に死ねない身になっていたことは前述の通りだが、おそらく不老不死ではなかった。
刹那を生きられる程 私は強くもなく
永遠を生きられる程 私は鈍くもない
※ルビは書き起こしのため誤差がある可能性あり
刹那とは極めて短い時間という意味。
つまりこれは、短命であることに耐えられるほど強くもないが、永遠を生きられるほど鈍くもない、と受け取ることが出来る。
また、少女から令嬢、令嬢から貴婦人へと年齢を重ねている点からしても、やはり"普通には死ににくい"のであって、不老ではない。
また『檻の中の花』で最終的に彼女は遺体として見つかっている点からしても不死ではない。
彼女が追い求める生き方をする、即ち「檻を抜け出す」をするにあたり、生贄が必要になったとみられる。
(私は檻=人生や寿命という、一般的に人間すべてに課される命の制限だと思っている)
最終的に13人もの少年を手にかけた点からして、不老不死?を求めるにあたり、少年が何らかの形で必要だったようだ。
11. ミシェルは13人目の少年に嵌められた?
「嵌められた」という表現は暫定的だが、利用されたか、出し抜かれたのか、ともかくおそらく13人目でミシェルの予期していないことが起きたようだ。
「Michèle Malebranche」による青少年連続拉致殺害事件
「Rouen」郊外の廃屋にて多数の腐乱死体が発見される。
当時行方不明となっていた13人の少年達は、変わり果てた姿で
干乾びたような老婆「Michèle」の遺体に折り重なっていた・・・。
ミシェルの死体が発見されたのは1903年。
実父が死んだとき、即ち1887年に実年齢も少女だった人物は、たった16年で老婆になるはずがない。
実年齢としては「貴婦人」だったが、なぜか死に様は「老婆」だ。
死ぬ間際、13人の少年の生贄を伴う"何か"の影響で姿が変わってしまったのだろう。
ここまでのことを踏まえると、ミシェルは娼婦の姿で少年を誘惑し油断させ、性行為中に首筋を噛んで殺し、その後妊娠していなかったことに落胆し、また少年を探す……という負の連鎖を繰り返していたのではないだろうか。
(不死性の探求と妊娠がどう関連づいたのかがイマイチ釈然としないが)
街角に佇む情景と近い描写が『Mother』にも見られる。
月夜に唄う 少年の肩に
路地裏の蝶が 紗なり停まった
(中略)
月夜に躍る 少年の声に
誘われた蝶が 羽根をもがれた
「しゃなり」はしなやかに気取ってという意味。
「蝶」はミシェルのことで、つまり月夜にいた少年に、ミシェルの方から近づいて肩をたたくなり手を添えるなりしたのだろう。
(蝶に例える描写は『壊れたマリオネット』にもある)
だが、後半が不穏だ。ミシェルが「羽根をもがれた」。
これまではずっとミシェルの方が実父を殺したり養父の精神を壊したり13人の少年を殺したりなど、全体的にミシェルの方が他者を惑わせていた印象が強い。
しかし、『Mother』でその様子が変わってくる。
先ほどの歌詞の続きを見ると、明らかに少年の方がミシェルの思惑に気づきながらも敢えて乗ってあげている、というように、少年の方が優位に見える。
月夜に唄う 少年の肩に
路地裏の蝶が 紗なり停まった
猫撫で声の 誘惑も無駄だよ
だが敢えて其処は 乗った振りをする
そして後半。
ミシェルはおそらく、少年に嵌められた結果変死体となった。
月夜に躍る 少年の声に
誘われた蝶が 羽根をもがれた
変死の芸術 推測じゃ無駄だよ
状況証拠じゃ 此処へは至れない
※ルビは書き起こしのため誤差がある可能性あり
ミシェルは前述の通り、13人の少年の遺体が折り重なって、実年齢より大幅に老けた老婆の姿で死んでいるという、異様な変死体として発見された。
(それを芸術と呼ぶのは悪趣味が過ぎるが)
つまり、ミシェルとしてはあくまで生贄のひとりとして無作為に?選んだ少年だったが、少年側が普通の少年ではなく、結果としてミシェルが変死してしまったように見える。
(ミシェルは普通には死ねないはずだから、変死する過程も相当特殊だっただろう)
ミシェルの思惑が上手くいかなかったことは、自称天才犯罪心理学者M.Christophe Jean-Jacques Saint-Laurentが述べた彼女についての考察からもわかる。
「彼女がどんな魔法を駆使したのか、
それは私の識り及ぶ所ではないのだが、
殺害動機という観点でのみ論じるならば、
答えは明白である言わざるを得ない」
「彼女は、自らを閉じ込める狭い檻の中から
抜け出したかったのでしょうな・・・
それも極めて偏執的なまでに。
...しかし、残念ながら
その願望は生涯叶う事は無かった。
...そして、死後1世紀を経過した今でも、
彼女はその檻の中にいる・・・」
彼の考察が合っているならば、彼女の願望は叶っていないのだ。
13人もの犠牲を払っても、彼女の思い通りにはいかなかった。老婆の姿で死んだあの結果は、彼女の求めるものではなかったのだろう。
12. ミシェルは子を生し死んだ
ミシェルは能動的にイヴェールを生み出そうとしている。
少女が白いキャンバスに描いた幻想 屋根裏で紡がれし物語
折り合わさって死んだ 13人の少年達
嗚呼 その仄暗い檻の中を彼女の笑い声は支配する
「Oui Madame」
「さぁ 産まれておいでなさい…イヴェール…!」
※書き起こしのため誤差がある可能性あり
おそらく13人の犠牲を払ってまでやりたかったことが、イヴェールを生み出すこと。
死を恐れるミシェルが死なない(死ねない)存在を求めたというのは、理にかなっているような気もする。
そして妊娠し子を生すことを求めていたのであれば、イヴェールが産まれることもまた望んでいただろう。
ただし、ミシェルがそう望んだ理由は、自身の死(と加齢も?)の回避だ。
もしかすると、産んだ子に何らかの手段で乗り移る気だった(自分で自分の次の体を産む気だった)のか?
だがミシェルは死に、イヴェールは自分をイヴェールと言う存在として自覚している。彼自身がミシェルを認知している様子は見られない。
仮説に仮説を重ねているため、だいぶ確度の低い話になりつつあるが、あの13人目の少年のほうが優先されたのではないだろうか。
つまり、イヴェールの身体に宿っているのは父親である13人目の少年である、という説だ。
結論
ミシェルは現実と幻想が入り混じる歪んだ世界の中で、特殊な力と身体を持ちながら、死とおそらく加齢の忌避を望み、自分で自分を産もうとした。
しかし、13人目の少年にその立場を奪われ、結果的にミシェルが産んだイヴェールに宿った命は13人目の少年のモノだった。
即ち『Mother』における母親はミシェル、子であり父親はイヴェールである。
……という仮説だ。
全体的に歌詞の類似性を積み重ね、推測に推測を重ねているため、信じがたいと思う人もいるだろう。
私も正直まだ確信を持っているわけではなく、あくまで仮説のひとつという位置づけだ。
ミシェルの情報は今後も増えるような気がしているため、今後もミシェルについての考察は続けたいと思っている。
―――
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他にもSound Horizonの楽曲考察記事を書いています。
更新履歴
2023/11/23
初稿
2024/04/24
一部歌詞引用について「※ルビは書き起こしのため誤差がある可能性あり」の注釈追記