【SH考察:064】ハロウィンの子供達の仮装の意味
『朝までハロウィン』は、Sound Horizonの曲の中で、今のところ最も楽しげに聴こえる曲だと思う。
この中で10人の子供達が仮装をして、家々を回り、ハロウィンを満喫している。それぞれ何の仮装をしているかは明言されている子もいえばされていない子もいる。
そのため今回は、10人が何の仮装をしているのかをまとめた。
対象曲
Story Maxi ハロウィンと夜の物語より『朝までハロウィン』
考察
ハロウィンと仮装
ハロウィンで仮装をするという文化はご存じの通り。
アメリカでは現代でもよく浸透している風習で、カボチャを飾ったり、子供が仮装して近所でお菓子をもらったりする。
この風習はアイルランド移民によって定着したものだ。
ハロウィンと夜の物語ではシェイマスだかウィリアムだかは、ジャガイモ飢饉の影響で移民となっており、彼等によってハロウィンももたらされたということになる。
かつて10月31日は、世界の狭間が曖昧になり、良し悪し問わず霊が迷い込みやすいとされた。
そのため、人は悪魔や怪物の仮装をすることで、悪い霊に襲われないようにするというのが仮装する風習の起源らしい。
子供達の仮装
作中でハロウィンを楽しむ子供達は、ジョニーやレニーも含めて全員仮装している。
特設サイトの左から(列の先頭から)順にみていこう。
なお、シレっと列に混ざっているように見えて紛らわしいが、カボチャ頭の少年は生きた子供達ご一行ではない。
そのため、今回のピックアップから除く。
また、子供達の名前はジョニーとレニー以外、正式な表記がわかっていない。完全に聞き取ったものの書き起こしであるため、本来の名と異なる可能性がある。
ジョニー :狼男
列の先頭の少年。
モコモコの毛並みがしっかりした狼のヘッドセットを被り、しっぽもついている。結構しっかり作りこんでいる。
歌詞中でも「狼の毛皮少年」と呼ばれている。
彼はレニーを除くと唯一複数回ハッキリ名前を呼ばれている子供だ。
『おやすみレニー』でレニーやキャサリンからジョニーと呼ばれている少年ガ、ハロウィンの仮装を狼男にすると断言している。
クリス :悪魔
左から(列の先頭から)2番目の、比較的背が高い少年。
絵全体が夜の描写で暗いため、正確な色味は不明だが、赤っぽい角?耳?があるフードつきマントを着用し、同じく赤っぽい先が三又の棒を持っている。
彼の仮装が何かを表す語は曲中登場しないが、見た目からして悪魔(特定の名のない、一般的イメージの悪魔)で良いと思う。
あの三又の棒は、ピッチフォークという農具が由来と言われている。
かつてのヨーロッパで、戦いに臨むが高価な武器を持てない人々は、農具を武器として使用していた。
その影響で、怒る農民や暴徒が手にする代表的なアイテムとして、農具であるピッチフォークが描かれるようになった。
それがさらに、悪いことをする悪魔が持つものというイメージに繋がったと考えられている。
またトライデント(三叉層)という武器もあり、ギリシャ神話のポセイドンのようにこれを持つことが象徴になっている神もいる。
そういった人ではない者が持つ特殊な武器の形とも合わさって、悪魔が持つ武器という現代的なイメージが形成されているのだろう。
ちなみに彼は、暴言を吐かれて傷付いたオリヴィアに優しく声をかけている。
オリヴィア:バンシー
左から(列の先頭から)3番目の、明るめの茶髪?金髪?でフードを被った少女。
前にいるクリスのマントを握っている。
バンシーとはアイルランドやスコットランドの伝承にある妖精。叫び声で人の死を予告する。
緑の服に灰色のマントを着ているとされており、夜で暗いためわかりにくいが、オリヴィアの服は緑色っぽい。
コンサート衣装ではよりわかりやすく緑色の服を着ている。
ベン :レッドキャップ
左から(列の先頭から)4番目の、背が低めで、緑の肌色に歯が直腸的な仮面?を被った少年。
レッドキャップはイギリスの伝承にある、危険な妖精。名前の通り赤い帽子をかぶり、突き出た歯などの特徴がある。
ベンは口が悪い少年で、レニーに対して荒い口調で呼びかけている。
(コンサートでは呼びかけのたびに明らかに同じ仕草を繰り返すため、レッドキャップ=ベン=口が悪い少年であるとわかりやすい)
またそのことでジョニーにたしなめられている。
トム :デュラハン
左から(列の先頭から)5番目の、顔が描かれた袋を右手に持っている少年。
(衣装のせいで顔が見えないが)
デュラハンとはアイルランドに伝わる首無し騎士のこと。
ちなみに、なぜかいらすとやに該当するいらすとがあった。ニッチすぎる。
この仮装をしたトムは、あまり話さないのでわかりにくいが、時折「まぁいいんじゃない?」を繰り返している少年。
リリー :魔女
左から(列の先頭から)6番目の、箒を持ちとんがった帽子をかぶっている少女。
彼女は何の仮装かはっきりしている数少ないメンバーだ。
ウィル :猫
左から(列の先頭から)7番目の、黒猫のフードを被った少年。
日本では猫型の怪物を「化け猫」というが、こういった怪物は日本的なもので、ヨーロッパにはあまりないようだ。
(英語版Wikipediaで、化け猫はそのまま「Bakeneko」として、日本の怪物の一種として紹介されている)
そのため、ウィルは怪物ではなく、単に猫の仮装をしただけだと思う。
彼は猫が好きなようで、通りかかったらしい猫に反応している。
レニー :お化け
列の中でひとりだけ手前にいる、白い大きめのお化けの子供。
頭の大きなレニーが、シーツを被ってお化けの仮装をしている。
マックス :スケルトン
左から(列の先頭から)8番目の、白い骸骨のような布?で顔を覆った少年。
Skeletonという単語はただの骸骨の意味だが、その言葉そのままで、動く骸骨という怪物としての意味を表すことがある。
特定の場所での伝承というわけではなく、西洋では割と普遍的にみられる概念のようだ。
この仮装をしている少年マックスは、仮装状態では少しわかりにくいが、昼間の様子からわかるとおり、少しふくよかな少年だ。
食べることもしくはお菓子が好きなようで、もらったであろうお菓子を食べていると注意されている。
マギー :人魚
一番右(列の後ろ)の、赤い帽子をかぶり、尾ひれをひきずっている少女。
尾ひれがあることからわかる通り、下半身が魚、つまり人魚の衣装だ。
人魚は、今でこそアリエルのおかげで幻想的な美しい存在というイメージもあるが、洪水や嵐を呼び起こす恐ろしい存在として伝承される場合もある。
マギーは比較的しっかりしているのか、最後尾について遅れている子がいないように見守る役割になっている。
彼女たちの場合、特に体の弱いレニーが心配であるため、ジョニーはマギーに向かって列後方を確認する質問を投げかけている。
(コンサートではこのとき、彼女が手で大きな丸を作って返事していてわかりやすい。ただちなみに、欧米文化でOKを表す際にこの仕草はしないため、絵文字の🙆は何を表すかわからないらしい)
結論
古くから普遍的に怪物として知られるものの仮装が多いが、バンシーやデュラハンといった、アイルランド由来の怪物が含まれているあたりは時代背景を色濃く感じた。
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他にもSound Horizonの楽曲考察記事を書いています。
更新履歴
2023/10/26
初稿
2024/04/24
一部歌詞引用について「※ルビは書き起こしのため誤差がある可能性あり」の注釈追記
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