【SH考察:002】アレクセイ ロマノヴィチ ズヴォリンスキーとその周辺人物
Sound Horizonの楽曲『人生は入れ子人形』に登場する人物、
【ロシア人富豪:Алэксэй Романович Зволинский】
アレクセイ・ロマノヴィチ・ズヴォリンスキー。
ロシア人のチャーミングな、そしてギリシアの遺跡を発掘したらしい男。
彼自身と周辺の人物関係を整理したい。
※一部隠しWebページの話に触れるため、念のためネタバレタグをつけておく。
対象曲
6th Story Moiraより『人生は入れ子人形 -Матрёшка-』
考察
彼の名
まず彼の名前に対する理解を深めよう。ロシア語のフルネームは、名・父称・姓の3つの要素で構成される。
名 :アレクセイ(Алэксэй)
いわゆるファーストネーム。
ただ、ロシア語での名前はバリエーションがあまり豊富ではないようで、愛称で呼ばれやすい。
余談だが、歌の中に「カチューシャ」と呼ばれる妹が出てくるが、これはエカチェリーナ(Екатерина)の愛称なので、おそらく家族がエカチェリーナを愛称でカチューシャと呼んでいる。
父称:ロマノヴィチ(Романович)
父親の名前に由来するが、末尾が本人の性別によって一定のルールで変化する。
ロマノヴィチの場合、「ロマン(Роман)」+男性を表す接尾辞の一種「ович」なので、父親の名前が「ロマン」だったと推定できる。
そして言わずもがな、「Роман」はフランス語で綴ると「Roman」だ。
姓 :ズヴォリンスキー(Зволинский)
いわゆるファミリーネーム。男性形と女性形での変化がある。もし彼の家族に女性がいる場合は「ズヴォリンスカヤ」になる。
これは特に由来はなく「ズヴォリン」という音の響きの面白さで決まっている気がする。
まとめると、彼の名前は、
「ズヴォリンスキー家のロマンさんの息子のアレクセイさん」
ということだ。
彼のモデル
アレクセイのモデルは明らかにシュリーマンだろう。
シュリーマンはドイツ出身だが、後にロシア国籍を取得しているため、ロシア人ともいえる。
ギリシャ人のソフィアという女性と結婚している。
そして何より彼の功績で有名なのは、トロイアの発掘だ。
古代ギリシャ語でイリオス、そのアッティカ地方の方言トロイア(英語でトロイ)のこと。
彼はホメロスの『イーリアス』という叙事詩に感動し発掘を志したと言われている。(後付けエピソードとも言われている)
彼の家族
家族の中で多少なりとも情報があるのは、彼の父親、母親、末妹、そして妻。
弟達と末妹以外にも妹達がいたようだが、情報がほぼない。
父親:ロマン・???・ズヴォリンスキー
アレクセイから見て祖父の名がわからないので、父称は不明。
だがアレクセイ自身の父称から、父親の名前が「ロマン」であることは推測可能。
家から遠い炭鉱で、岩が崩れて下敷きになり死亡。
母親:名前不明
ロマンの死亡後、娼婦として家計を支えようとしたが、無理がたたって死亡。
形見として叙事詩「Элэфсэйа」の本を遺した。
エレフセイアについても気になる点があるため後述する。
末妹:エカチェリーナ・ロマノヴナ・ズヴォリンスカヤ
「カチューシャ」がエカチェリーナの愛称であること、
また父称、姓は女性形に変化するため末尾がアレクセイと異なるが、アレクセイの名前からフルネームが推測可能。
「銀のお注射」を刺したものの体調は悪くなる一方だったようで、彼女の治療費で、貧しい家計にさらに影響が出ていた。
そして結局治療のかいなく(というか両親が先だったことによって治療費が賄えなくなった可能性が高く)彼女も死亡している。
妻 :エイレーネ
名前がロシア人っぽくなく、ギリシア人っぽい。
ギリシア神話にエイレーネという平和を司る女神がいる。
「エレフセイア」、ミシェルとロマンとクロニカと運命
エレフセイアは前述の通り、アレクセイの母が残した叙事詩。
これはロシア語に翻訳されたもので、本に著者と翻訳者の情報がある。
著者 :Μιλοζ
翻訳者:Хроника Романовиа Михайлова
出版社:СУДЬБА ИЗДАНИЕ
……翻訳者が気になりすぎるが、いったん著者から確認する。
著者ミロスは『遥か地平線の彼方へ -Οριζοντας-』に登場する、暗誦詩人:Μιλοςのこと。彼は以下のように言い残している。
そして叙事詩として書き残され、それが現代に残っているようだ。
気になるのは、ミロスが「暗誦」詩人と紹介されている点だ。
暗誦とは、文を暗記し、それを口に出して唱えることだ。
つまり書き留めていない。
それにもかかわらず、ミロスが「著者」として名を残している点には違和感を覚える。
だがそれ以上に気になるのは、やはり翻訳者だ。
クロニカ・ロマノヴナ・ミハイロヴァ。彼女の名前の意味も確認する。
名 :クロニカ(Хроника)
この名前は問答無用でChronicle 2ndを思い起こさせる。
父称:ロマノヴナ(Романовиа)
これは父親の名前が「ロマン」であることを表しており、つまり父親の名前がアレクセイの父親と同じだ。
ただ早くに亡くなった母親がこの本を遺しているので、この「ロマン」がアレクセイの父親(クロニカがアレクセイの姉妹)とは考えにくい。
もし父親が同一人物なら、アレクセイよりも年上の、翻訳者として出版に関われる姉妹が必要だが、アレクセイは「弟」「妹」しか言及しておらず、アレクセイより年上の兄姉がいたとは考えにくい。
姓 :ミハイロヴァ(Михайлова)
末尾が女性形になっているが、元の形は「ミハイル」。
これは大天使ミカエルに由来するスラヴ語系の名前なのだが、実は「ミシェル」と同義だ。
ミカエルをスラヴ語系にするとミカエルで、フランス語系にするとミシェルになる。
つまり、ミシェルを連想させる姓を持つ、ロマンから生まれたクロニカが、運命出版に関わった、ということだ。
彼女に対してめちゃくちゃ失礼な表現をすると、めちゃくちゃ不穏な名前というか、本当に人から生まれたのか?実在する?と問いただしたくなる名前なのだ。
英国人考古学者:Arthur Michel Renfrewとその妻
アーサー・ミシェル・レンフリュー。
誰かというと、Moiraに関するWeb隠しページにのみ登場する英国人(ブリタニア人?)である。
懇意にしていた露西亜人、つまりアレクセイより石板を譲り受けた男だ。
まず彼の名前の意味、というか由来を確認する。
彼の名前は実在の考古学者の名前をつぎはぎしたものに見える。
名 :アーサー(Arthur)
おそらくアーサー・エヴァンズ(Arthur Evans)が元ネタ。
彼はイギリス人考古学者で、ギリシャのクレタ島のクノッソス宮殿の発見者。
ミドルネーム:ミシェル(Michel)
これまた大天使ミカエルに由来する名前なのだが、綴りがフランス語だ。
英語だと一般的にはMichaelになる。
アーサー自身は英国人(しかも英語を結構愛している生粋の英国人)だが、ミドルネームがフランス語の綴りであるため、身内にフランス人がいる可能性がある。
ちなみに英語名「マイケル」として見ると、元ネタはイギリス人のマイケル・ヴェントリス(Michael Ventris)と推測。彼はクノッソス宮殿跡から見つかった粘土板に書かれた線文字Bの解読者。
姓 :レンフリュー(Renfrew)
イギリス人考古学者に同じ姓を持つコリン・レンフリューが実在する。
そして、アーサー・ミシェル・レンフリューの妻の名前がエリス(Elys)。
アーサーが「或る哀しい出来事」によって死亡してから6年後にメモを発見し、そのメモで石板の謎解きを進めることができる。
結論
アレクセイの周りには、クロニカ、ミシェル、エリスといった、サンホラの世界で重要な意味合いを持つ女性名が登場。
そして運命(Moira)だけではなくRomanも連想させる要素も多い。
彼自身は真面目に丁稚奉公した結果、富豪と呼ばれるまでに成りあがり、妻を愛し、子どもができたら妻と喜ぶという、素敵な人間だ。
しかしその周囲がきな臭く、またロシア関連の情報が出てきたら考察を続けたい。
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他にもSound Horizonの楽曲考察記事を書いています。
𝕏(旧twitter):@lizrhythmliz
更新履歴
2023/03/31
初稿
2023/08/06
「彼のモデル」追加
2024/04/11
一部加筆修正
2024/04/25
一部歌詞引用について「※ルビは書き起こしのため誤差がある可能性あり」の注釈追記
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