【SH考察:018】「檻」が意味するものは何か
Sound Horizonの世界でたびたび登場する「檻」。
だがこの「檻」は、本当の牢獄としての檻ではなく、明らかに何かの比喩表現として使われることが多い。
私はこの「檻」の比喩表現として、人間が生まれてから死ぬまで、すなわち寿命や人生という意味で使われることが多いのではないかと考えている。
以下でその理由を述べる。
対象
LostまたはPico Magic Reloadedより『檻の中の遊戯』
Pico Magic ReloadedまたはElysion-楽園への前奏曲-より『檻の中の花』
Neinより『檻の中の箱庭』『忘れな月夜』
考察
遊戯と花と箱庭
3曲に共通する要素である「檻」を検討するにあたり、まずはタイトル全体が指す意味への理解を深めたい。
タイトルから「檻の中の」を除外した「遊戯」「花」「箱庭」の意味をとらえよう。
「遊戯」
女性が首を絞められる様子や、スコップで土を掘る様子から、ミシェル・マールブランシェの「二度目の舞台」とされる、養父アルマン・オリヴィエによる絞殺・死体遺棄未遂事件の描写であるとわかる。
この出来事自体を「遊戯」と呼ぶのならば、「遊戯」は「事件」の比喩表現だろうか?
「花」
これは「女性」だろう。
というのも、他の曲でも比喩的表現や花に輪廻転生した?描写だったりで、女性のことを「花」と表現している箇所がある。例えば下記。
そのため花は女性のこと、『檻の中の花』に絞って言えばミシェルのことを指しているというのが妥当だろう。
「箱庭」
箱庭はおそらく、Neinの作中R.E.V.Oが見せた仮想空間のことを指していると思われる。
そもそも箱庭とは、もともとは実際に箱を用意して、その中にミニチュアを配置して好みの空間を模擬的に作ることだ。
またそこから転じて、町や会社、それに関わる人物などを運営・育成して眺めるゲームのことを箱庭ゲームと言うことがある。シムシティがまさにそれだ。
Neinは過去の地平線にあった曲を改変、改竄して結末を変えている。
そのことから、既に決まった曲の内容を「運命の檻」と言い、それをさらに「鎖された箱庭」と言い、「抜け出した」結果が改変、改竄である。
Neinは全体的に、人が死ななければOKと見なしているのか、死ぬはずだった人間を生かす、もしくはそもそも生まれないようにしている。
ただあくまで人間的な範疇に留まっており、極端に不老不死にするといったことは起きていない。
このことから、ある程度の縛り=檻の中で出来る話を箱庭と呼び、もともとあった箱庭=原曲の顛末を改竄して新たな箱庭=Nein的展開を見せていると解釈できる。
二度と戻れない檻
『Mother』の歌詞にもヒントがありそうだ。
檻がわざわざ【】つきで表現されているので、重要な意味をもっていそうだ。
ちなみに「彼岸」は向こう岸、対岸のこと。仏教的な意味ではいわゆるお彼岸の意味もあるが、曲調的にはたぶん関係ない。ここは対岸の意味で仮定して良いだろう。
文章構造的に「二度と戻れない檻」とも「二度と戻れない彼岸」とも受け取れるが、おそらく前者だろう。
戻りたいのに戻れない檻があって、その反対側で戻りたいから彷徨っている、というのが自然なニュアンスだ。だから戻れないのは「檻」のほうだろう。
価値観と檻
「檻」を明確に比喩表現として使った歌詞は、Neinの『忘れな月夜』にも見られる。
ここでの「檻」は価値観や同調圧力であるように読み取れる。
結論
まとめると、檻のヒントは下記だ。
檻の中では死があり得る
一度抜けると戻れない
時代固有の価値観や同調圧力を指す場合もある
ここから、私はこの「檻」は大雑把に常識や科学的限度、倫理観など、生きる上での「縛り」であり、人間においては生まれてから死ぬまで、すなわち寿命や人生ではないか?と推測している。
女性のミシェルは何故かそれを抜け出したがった。
不老不死になりたかったのか、それとも生まれ変わってまた生きたかったのか、はたまた男性になりたかったのか、家庭環境や価値観、時代背景に重圧があったのか、ともかく単に生まれた時代でそのまま死んでいくのを嫌がった。
しかし一度死んだらそれまで。
ミシェルは死んだあと、死後一世紀経ってもまだ「檻の中」にいる。
つまり、再び生まれることはできず、一回きりの人生の概念から逸脱することはできていない。
……ということでどうだろうか?
現時点で8th Story CD Rinneは発売されていない。
輪廻…つまり生まれ変わること、これはあり得るのだろうか?
―――
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他にもSound Horizonの楽曲考察記事を書いています。
更新履歴
2023/05/01
初稿
2023/05/02
歌詞引用元表記修正
2023/08/07
全体的に加筆修正
2024/04/24
一部歌詞引用について「※ルビは書き起こしのため誤差がある可能性あり」の注釈追記
2024/12/20
一部歌詞表記を修正