【SH考察:106】ArkがなぜArkなのかさっぱりわからない
※2024/09/02更新
Sound Horizonで複数のアルバムに収録されている『Ark』。この単語は直訳すると箱舟という意味だが、曲中に全く箱舟が出てこず、全然箱舟らしくないものがArkと呼ばれている。
そのため、なぜ『Ark』という曲名なのかがさっぱりわからない。
今回はいつもとは異なり、ただただ私がいろいろ考えたものの煮詰まっているさまをお見せするだけになる。
もし他の方で何か知見をお持ちであれば、ぜひご教示いただきたい……。
対象
4th Story Elysion~楽園幻想物語組曲~より『Ark』
考察
一般的なArk
曲のタイトルにもなっているArkとは箱舟のことだ。
最も有名な箱舟は旧約聖書に登場するノアの箱舟だと思うが、四角っぽい形の舟(のような運搬機能のあるもの)であれば箱舟になる。
そのため、旧約聖書にはノアの箱舟(Noah's Ark)以外にも、契約の箱(Ark of the Covenant)や聖櫃(Holy Ark)と呼ばれるArkも登場する。
いずれにせよ、箱舟とは後世に残したいものを入れるための箱型の入れ物のことだ。
そのため現代では、世界中のあらゆる種子を保存しているノルウェーにあるスヴァールバル世界種子貯蔵庫が「現代版ノアの箱舟」と呼ばれていたりする。
舟でも箱でもないArk
しかし曲のほうに目を向けると、「Ark」はナイフまたは疾患名であるとされている。舟でも箱でもない。
さらに曲中の《Arkと呼ばれた物》は「我々を楽園へ導ける箱舟」らしい。
これもまたよくわからない。歴史や伝説に残るArkは楽園を目指した痕跡が見つからない。
ノアの箱舟は人間と動物が地上で生き残るためのシェルター的な役割で、どこかを目的地を目指したというよりかはとにかく洪水を耐え抜くためのものだった。
契約の箱は重要なものを入れる金庫のような役割だった。
この箱の持ち主の民族は定住の地を探して移動しており、その際に持ち運んでいた。
ただし定住の地は最初から決まっていたわけではなく、またその地を楽園と呼んでいた形跡もない。
ましてや箱舟はただの入れ物で、運搬するための道具にすぎないため「魂を大地から解き放つ」ような機能もない。
曲中のArkと呼ばれるものは総じて本来の意味でのArkらしくない。
信仰の対象になるArk
曲中のArkは何らかの宗教的視点で信仰されているように見える。
先ほど引用した「~救いを求める貴女にArkを与えよう」の部分の台詞は宗教勧誘に見えるし、少女(ソロル)は信仰に奔っていることもわかる。
前述の通り本来のArkはただの入れ物でしかないため、曲中のArkは何らか独自の解釈で歪めた設定が付与されているのだと思われる。
その設定が「楽園へ導いてくれる」という機能であり、「ナイフである」という形状なのだろう。
しかし、あまりにも本来のArkと乖離してしまうと、そもそもArkという言葉を使う必要がなくなる。
無理矢理付与した設定はツッコミどころができる分信仰を集めにくいだろうし、そこで無理くり辻褄を合わせるよりも、より近い設定を持つものを持ってくるか、独自の言葉を作ってしまった方が早い。
つまり、何らか本来のArkらしさが残っているはずだ。
Arkは助け船か?
舟関連の言葉と無理矢理ながらも関連づけるならば、少なくともナイフのほうは助け船と置き換えても意味が通る。
この歌詞の後半を「救いを求める貴女に助け船を与えよう」と言い換えても違和感はない。
ただし疾患名の方は助け船とは解釈しがたいため、依然として意味が通らない。
それに、そもそも本来の意味のArkは助け船と言えるか怪しい。
助け船とはもともと水上遭難者を助ける船舶のことで、それが転じて困っている人に力を貸すもののことを指すようになった。
箱舟を作ったノアは誰かを助けに行ったわけではなく、むしろ助けたい動物達を最初から舟に載せて、舟をシェルターとして堪えていた。
契約の箱にはマナと呼ばれる食糧らしきものが入っており、荒野で飢える人の助け舟になったらしいという話もあるにはあるのだが、この場合助け船は契約の箱というよりはその中のマナだ。
したがってArkを助け船と呼ぶことは一般的ではなく、この用法は無理があると思われる。
「ノアが作ったもの」の意味か?
あと残り考えられる可能性としては、「ノアが作ったもの」を箱舟でなくともArkと呼び変えている可能性だろうか。
確かに、サンホラにはノアと呼ばれる人物がいる。しかも彼は洪水が来ることを予期している。
ルキアの養父であるノアは、「とある予言書崇拝教団」に属する男だ。
現実において旧約聖書のノアが作った箱舟をNoah's Arkと呼ぶように、この養父ノアが作ったものを(実際に箱舟の形状をしていたかはともかくとして)Noah's Arkとみなしていたのではないか?という可能性だ。
ただこれも疑問の余地は残る。
『Ark』曲中の時代設定がかなり現代的である可能性があるからだ。
監視のために「モニター」を見ていることから、監視カメラがあるように読み取れる。
一説によると、監視カメラというか防犯カメラの普及は1960年代のことらしい。そのため『Ark』は直近60年間の間の出来事になる。
ただ監視「鏡」であるため、マジックミラーでもおかしくない。
マジックミラーはアメリカで1903年に特許が取得されているため、これならば20世紀初頭まで時代設定を古くできるが、それでもかなり現代寄りにはなる。
養父ノアが登場するChronicle 2ndの曲は、全体的に現代的な要素を感じない。つまりこのノアが直接『Ark』に関わっているとは考えにくい。
それに、少なくともリニューアル前、2ndになる前のChronicle時点では、ノアの箱舟はいわゆる箱舟、つまり人が入れるサイズの形状のものを想定していたように見える。
「洪水」や「箱舟」が何らかの比喩表現である可能性はあるものの、この箱舟がノアが入れる程度のサイズであることは確かだ。
いったん箱舟を一般的な箱舟と近い状態で認知した後に、ナイフや疾患とはあまりにもかけ離れたものを箱舟と呼ぶようになるだろうか?
妄想を繰り広げるならば、養父ノア曰くの洪水が実際に起こり、新世界になってもなお予言したノアの存在が語り継がれ宗教と化し、ノアが残したものもしくは影響を及ぼしたもの全般がArkと拡大解釈され受け継がれている……などといった話になる。ただやはりArkという語があまりにも広義になる点の違和感が拭えない。
結論
ここまで考えてみたが、結局のところなぜ『Ark』はこの曲名になったのか、なぜナイフや疾患名がArkと呼ばれているのか、さっぱりわからなかった。
曲名にする以上意味があると思うし、特にElysionは強いキリスト教感のある社会観・時代を背景にしていることから、旧約聖書に登場するArkを用いる点にはこだわりを感じる。
しかしその意図がどうしても読み取れない。これという決め手に欠ける。悔しい。
―――
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他にもSound Horizonの楽曲考察記事を書いています。
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更新履歴
2024/08/31
初稿
2024/09/02
Chronicleに関する記述追加