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【SH考察:081】『焔』と『壊れたマリオネット』に登場する雨の葬列は同一の出来事か?

Sound Horizonの楽曲のうち2曲で、雨の日に行われたと思しき葬列の描写がある。
天候まであえて触れて類似した舞台設定が描かれていることから、この葬列が同じものを指している可能性はないだろうか?という点について、今回は検証してみた。


対象

  • 2nd Story Thanatosより『壊れたマリオネット』

  • 5th Story Romanより『焔』

考察

雨の葬列の描写

追憶は雨の葬列 泣いてる少女は誰?
黄昏に芽生えた殺意 もうひとりの私
壊れたマリオネットは 同じ動きを繰り返す
唯...タナトスの衝動に突き動かされるまま・・・

Sound Horizon. (2002). 壊れたマリオネット [Song]. On Thanatos.

幾許いくばくかの平和と呼ばれる光 其の影には常に悲惨な争いが0101った
葬列に参列する者は 皆一様に口数も少なく
雨に濡れながらも 歩み続けるより他にはないのだ・・・・・・

Sound Horizon. (2006). 焔 [Song]. On Roman. KING RECORD.

このように、『壊れたマリオネット』と『焔』の両方で「」と「葬列」の描写がある。

このうち後者は、その詳細が比較的わかりやすい。
『焔』と、Neinでの改竄verである『涙では消せない焔』の情報を掛け合わせると、この葬列はフランス革命(を模したフランドルで起きた戦い)中か終戦直後に亡くなった子供のために執り行われたものだということが推測できる。

一方で前者『壊れたマリオネット』は、葬列の詳細情報が殆どない。というかこの葬列の描写自体、唐突に登場する上にこれしか言及がないため、周辺情報で補完できないのだ。

『壊れたマリオネット』自体への情報補足

いったん視点を少し広げて、『壊れたマリオネット』自体に注目してみよう。

この曲は「少女の幻想」で「眠れぬ夜の悪夢」だと歌われている。

壊れたマリオネット 銀色の馬車
輪廻の砂時計 珊瑚の城 タナトス
全ては少女の幻想 眠れぬ夜の悪夢
意識の深層で タナトスの囁く声を聴く

Sound Horizon. (2002). タナトスの幻想 [Song]. On Thanatos.

この少女は「死の衝動(精神病理学でタナトスと呼ぶ)」に苛まれており、それが悪夢を生み出している。その悪夢のうちの一つが『壊れたマリオネット』なのだろう。

そして、睡眠中に見る夢というものは、自身が見聞きした記憶を整理する過程で生まれるつぎはぎ映像のようなものらしい。
つまり「雨の葬列」「泣いている少女」「黄昏」「もう一人の私」というビジュアルは全て、かつて少女自身が見聞きした要素から生み出されたものだ。

ただし注意すべき点もあり、テレビや本で見聞きしたこと、いわば他人の経験も混ざり得るため、少女が実感を持って体験したことをもとに生まれた夢とは断定できない。

ミシェル自身の体験から生まれた追憶なのか

『壊れたマリオネット』の"私"はミシェル・マールブランシェであると考えている。

追憶は雨の葬列 泣いてる少女は誰?
黄昏に芽生えた殺意 もうひとりの

Sound Horizon. (2002). 壊れたマリオネット [Song]. On Thanatos.

そのように考える理由は別記事に細かく書いているが、簡単に言うと首筋を噛んで口を赤く染めている描写が、他の楽曲で登場するミシェルの描写と通ずるからだ。
サンホラで緋色は高確率で血の色の表現として使われている。

くちづけた首筋に あかい薔薇咲かせて
月が海に沈むまで その少女は眠らない

Sound Horizon. (2002). 壊れたマリオネット [Song]. On Thanatos.

となると、葬列はミシェル本人が参列していたか、もしくはそのような描写がある物語を見聞きしたということになる。
私は後者、つまりミシェル本人の体験ではなく他人の体験を見聞きした内容だと推測している。

理由は簡単で、もし『焔』の葬列と同じ葬列の話である場合、ミシェル本人の参列は不可能だからだ。

ミシェルは明らかに1870年代終盤~1880年代生まれだ。
彼女の犯罪史のうち1回目、1887年に少女だったことが判明している。

(初舞台「パパの幸せを描いてあげる。」 en 21 novembre 1887)
実父「Josephジョセフ Malebrancheマールブランシェ」の凄惨な変死事件
証拠不十分及び、年齢に対する
殺害遂行能力に疑問の声が上がる。

Sound Horizon. (2003). 檻の中の花 [Song]. On Pico Magic Reloaded.

それに対して、『焔』における葬列はフランス革命中か直後、つまり1790年代のはずだ。その80~90年後に生まれるミシェル自身は葬列に参列できない。

誰から葬列の話を聞いたのか

それではミシェルは誰・何から葬列の話を見聞きしたのだろうか。
すぐに思い浮かぶ可能性から潰していこう。

まず彼女の親(描写がない母親or実父ジョセフor養父アルマン)から聞いた可能性は低いだろう。親も時系列的に参列できないし、そもそもミシェルとの歪な関係性を考えると、雨の日の葬列を話題に出して会話するイメージがわかない。

次に絵本などで見た可能性も低そうだ。
彼女に与えられた玩具は絵の具のみ。絵本で暇をつぶしていたとは考えにくい。

ここで一点新たな可能性として、オルタンスおよび双児人形の存在を考えたい。

『壊れたマリオネット』の葬列の描写で「泣いている少女」がいる。
そして双児人形の片割れであるオルタンスは生死のうち生のほうをつかさどっており、死んだ子のために哀しみに濡れている、つまりおそらく泣いている

独りで寂しくないように 《双児ふたご人形la poupées/ラ プペ》を傍らに
小さな棺の揺り籠で 目覚めぬ君を送ろう…
歓びに揺れたのは《紫色の花Violet/ヴィオレット》 哀しみに濡れたのは《水色の花Hortense/オルタンス
誰かが綴った此のうたを 生まれぬ君に贈ろう・・・・・・

Sound Horizon. (2006). 焔 [Song]. On Roman. KING RECORD.
※ルビは書き起こしのため誤差がある可能性あり
ヴィオレット(左)とオルタンス(右)

このときの双児人形は親が供えたただの人形で、実際に泣いたわけではなかったかもしれないが、亡き子を見送る母親の心理描写と置き換えれば理解はできる。
そしてローランならばご存じの通り、双児人形は後に動き回って時空さえ超えてイヴェールのために物語をかき集める。
子の傍にいた時点では見かけ上ただの人形だったものの、死んだ子のために悲しいと思う感情自体は芽生えていたのかもしれない。

さらに双児人形はミシェルのことをマダムと呼ぶ描写があり、ミシェルと双児人形には主従関係らしきものが構築されていることがわかる。

Ouiウィ Madameマダム
「さぁ 産まれておいでなさい…イヴェール…!」

Sound Horizon. (2012). 屋根裏物語ロマン [Song]. On Chronology[2005-2010]. KING RECORD.
※書き起こしのため誤差がある可能性あり

これらのことから、ミシェルは双児人形から葬列の話を聞き、そこで登場した当時のオルタンスの様子をもとに夢の中でその描写を構築したのではないか?

結論

『焔』の雨の葬列はかつて起こった出来事で、それを双児人形がミシェルに伝えたことで、ミシェルの悪夢の中でその情景が再構築された。その再構築された内容が『壊れたマリオネット』である。

……という仮説を立ててみたが、いかがだろうか。

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マスコット画像:
「Sound Horizon」×「カラコレ」ミニフィギュア(筆者所有)

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他にもSound Horizonの楽曲考察記事を書いています。

更新履歴

2024/03/09
 初稿
2024/04/24
 一部歌詞引用について「※ルビは書き起こしのため誤差がある可能性あり」の注釈追記
2024/05/05
 マスコット画像追加

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