【SH考察:006】Moiraの地理
※2024/05/07更新
Sound Horizonの地平線の中でも、群を抜いて古い時代をテーマにしているMoira。
詳細な年代情報は少ないが、地理情報はある程度つかめるためまとめた。
対象
6th Story Moira
考察
ギリシャ各領域の位置関係
舞台は大まかに言うとギリシャだが、現実現代の地理や国と照らし合わせるとトルコなども含まれる。ざっくりエーゲ海の周辺ととらえるほうが良いだろう。
おおよその配置は現実の地理と、各曲の描写で判断できる。
『神話 -Μυθος-』でアナトリアから順に反時計回りに紹介されているため、以下もそのとおりアナトリアから反時計回りの順で整理する。
ちなみに神の「眷属(≒従属)」と「聖域」はほぼ同じ意味で使われているようで、一つの地域が複数の神の聖域にもなるようだ。
似た言葉でも「神域」は神殿がある場所のようで、かぶりはなさそう。
アナトリア【風神眷属の王国:Ανατολια】
黒海の南側、エーゲ海の東側の半島を現実でもアナトリア半島と呼ぶ。現実現在はトルコが位置するあたり。
作中では常に異民族からの侵略に悩まされており、東側の「鉄器の国」、北側の女傑アマゾンから攻め入られている。
そのため、難攻不落の城壁が必要で、都イリオンではその城壁を築くための奴隷が必要となっていた。
イリオンは現実ではトロイ、トロイアとも呼ばれる場所。
シュリーマンが遺跡を発掘したことで有名な場所である。
アナトリアを眷属とするのは風神アネモス。
アネモス(άνεμος)自体がギリシャ語で風の意味。
レスボス島
アナトリアのすぐ西にある島。現実でもレスボス島と呼ばれている、トルコに超近いがギリシャ国内の島。
作中ではイリオンから逃げたミーシャが遭難後に流れ着いた島で、女性詩人ソフィアが住む。
また、やたらといろんな神々の聖域と神域が重なっている。
ソフィア曰く海原女神サラサ、太陽神ヘリオス、美女神カーラの聖域。そして星女神アストラの神殿がある神域でもある。
アナトリアにかなり近いが風神アネモスの話が一切出てこないため、アナトリアの領域としては扱われていないようだ。
なお、現実でもレスボス島には女性詩人サッフォーがいたことで有名。
トラキア【戦女神眷属の王国:Θρακια】
黒海の西側、エーゲ海の北側に位置する。現実現在ではブルガリア、ギリシャ、トルコと三か国にまたがる地域。
作中ではミロスの口から危険な情勢であると言われている。これは北側からアマゾンが攻めてきている影響と推測できる。
トラキアを眷属とするのは戦女神のマッケイ。
ギリシャ語で戦のことは「μάχη」というそうなのだが、Google翻訳の発音では「まっひー」みたいな音だった。英語読みするとマッケイになるのかなぁ……。
マケドニア【火女神眷属の王国:Μακεδονια】
エーゲ海の北側、トラキアより西側にある地域。現実現在ではブルガリア、ギリシャ、北マケドニアの三か国にまたがる地域。
作中ではミロスの口から、トラキアとともに危険な情勢であると言われている。これもまた北側からくるアマゾンの影響と推測できる。
マケドニアを眷属とするのは火女神フォーティア。
フォーティア(Φωτιά)がギリシャ語で火の意味。
テッサリア【地女神眷属の王国:Θεσσαλια】
このあたりから西側に入る。マケドニアよりさらに西、やや南に位置する地域。現実ではギリシャ国内。
作中ではほぼ出てこない。
テッサリアを眷属とするのは地女神ゲー。
ゲー(γη)がギリシャ語で大地の意味。
ちなみに『神話』では神々の誕生を説明するときに「大地女神」が出てきて、国を紹介するときに「地女神」が出てくる。微妙に表記が違うが、どいちらも「ゲー」として紹介されているので、同一の神を指しているはず。
アイトリア【光神眷属の王国:Αιθρια】
テッサリアから南側の地域。現実ではギリシャ国内。
こちらも作中ではほぼ出てこない。
アイトリアを眷属とするのは光神フォス。
フォス(φως)がギリシャ語で光の意味。
ボイオティア【智女神眷属の王国:Βοιοτια】
位置の説明が難しい…地図見るのが早い。現実ではギリシャ国内。
こちらも作中ではほぼ出てこない。
ボイオティアを眷属とするのは智女神デュナミス。
デュナミスはアリストテレス哲学に出てくる用語だが、おおもとの語源は「強さ(δύναμη)」かな?
アルカディア(雷神眷属の王国?)
唯一『神話 -Μυθος-』で登場しない国。
作中ではレオンティウスが第一王子であり、エレフとミーシャが生まれた国。後の世に楽園と謳われる国である。
雷神ブロンディスが眷属としている様子。
ブロンディ(βροντή)がギリシャ語で雷の意味。
ラコニア【水神眷属の王国:Λακωνια】
アルカディアのすぐ南側にある地域。
現実ではギリシャ国内で、かつて都市国家スパルタがあったことで有名。
作中ではスコルピウスが掌握しており、アルカディアに攻め入っていたが、レオンティウス率いるアルカディア軍が強く苦戦していた。
ラコニアを眷属とするのは水神ヒュドラもしくはヒュドール。
他の神は、「火」や「光」などその事象自体を指す単語がそのまま神の名前としてあてがわれていたが、ヒュドラの場合はそうではない。
ヒュドラとは水蛇のこと。かつ、ギリシャ神話に出てくる怪物の名前でもある。この怪物はレルネーという湖?沼地?に住んでいるとされたが、レルネーはラコニアの中の地名。
ヒュドール(ὕδωρ)の場合はギリシャ語で水の意味。
小説や漫画ではヒュドールと呼んでいることが多いが、ヒュドラにも聞こえるし、どちらでもあまり違和感がない。
なぜ『神話 -Μυθος-』にアルカディアがない?
ちなみに、『神話 -Μυθος-』の曲中アルカディアのみ触れられておらず、聞くだけでは違和感があるのだが、物語として前後の曲とのつながりを考えると、この違和感が和らぐ。
歌詞カードでは以下のように記されている。
最後が「⇒」で、明らかに続きがあることがわかる。
そして歌詞カードを見れば一目瞭然なのだが、この矢印の先は、すぐ左のページにある『運命の双子 -Διδυμοι-』の冒頭に繋がっている。
「⇒」の先が、この「そして…」の一文になっている。
つまり、曲の切れ目を無視すると、ラコニアまでの羅列の直後に上記文章が入るため、最後にアルカディアを紹介していることになる。
ただそれでも、ラコニアまではギリシャ語表記なのにもかかわらず、アルカディアだけカタカナ表記という違和感は残るのだが……。
異民族
学生時代に世界史の授業で習った人もいると思うが、古代ギリシャにおいて、ギリシャ人を「ヘレネス」、ギリシャ人以外、異民族をまとめて「バルバロイ」と呼ぶ。
この二つの言葉は作中にも登場する。
バルバロイの中でも特に2つの勢力が目立って登場するため、ここでも取り扱っておく。
アマゾン
作中では女王アレクサンドラが率いる、北狄や女傑部隊と表現されている。
北狄とは北側にいる遊牧民族のこと。(中国的な表現ではあるが)
女傑、つまり知性や勇敢さを兼ね揃えた優れた女性の部隊なのは、そもそもアマゾンがギリシャ神話に登場する、女性だけの部族だからである。
アマゾンは黒海沿岸を住処としていたため、ギリシャ人から見ると北側、北東側になることから「北狄」の「女傑部隊」となる。
「東夷」「鉄器の国」
作中で部族名が明らかになっていないが、明らかに鉄を使う文明が発達していたことはわかる。これはおそらくヒッタイトのことだろう。
ヒッタイトとは紀元前1600~1100年頃に、アナトリア東側、ギリシャの東側にいた民族。
かつ実際の歴史上、鉄の製錬や加工技術を持っていたことで有名な民族だ。
そのため「東夷(東側にいる異民族)」で、「鉄器の国」つまり鉄で栄えていると称されるヒッタイトのことと推測できる。
ヒッタイトが滅びた後、製鉄技術が周辺に流出した結果、周囲と比べても特に鉄器が目立つ特徴といえる国は確認できない。
そのため、「鉄器の国」へ奔ったと言えるのはヒッタイトが滅びる前となる。
―――
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他にもSound Horizonの楽曲考察記事を書いています。
更新履歴
2023/04/10
初稿
2023/04/25
微修正、サムネイル変更
2023/04/28
ヒッタイトの地図追加
2023/05/03
ラコニアの水神にヒュドール説追加
2023/07/30
「なぜ『神話 -Μυθος-』にアルカディアがない?」追加
2024/04/26
「異民族」の「東夷」「鉄器の国」更新
2024/05/07
図:地理情報ざっくり図解更新
「異民族」の「東夷」「鉄器の国」更新
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