伝説の一日の伝説の30分

語彙力があったらいいなといちばん感じる瞬間は小説を書くときじゃなく、なにかえげつないものを目の当たりにしたときなのかもしれません。一生目に焼き付けておきたい景色や記憶を文章に残そうとしたときなのかもしれません。

私にとっては、それすなわち今日のことなのです。新鮮な感情はその瞬間にしか発生しないけれど、また脳が興奮でぴりぴりと痺れているうちに、今日この目で見たもの聞いたもの感じたことを記しておかねばと思うのです。あの30分間の出来事を拙くとも文章に化けさせ、自分の中に冷凍保存しておかねばと思うのです。

私は月に2~3回、劇場と呼ばれる場所に行って生でお笑いを見ます。(配信で見るものも含めたらもう少し見てますが)
趣味というよりも必然。私が舞台上に立つ芸人さんを見て笑うことは生きていく上で必要で日常的なイベントなのです。

今日も私は、お笑いを見るために有楽町にある吉本の劇場に向かいました。ただ、今日の舞台を“イベント”として一括りにするにはあまりにも場違いなのかもしれません。

4/3。私が観に行ったのは、笑いの殿堂・なんばグランド花月でおこなわれている吉本興業110周年の舞台「伝説の一日」。吉本新喜劇や明石家さんまの駐在さんなど、企画もビッグで出演者もビッグ。


中でも開催された二日間の中でも全お笑いファンが注目していたのが、香盤表にある「ダウンタウン」の文字だったと思います。この香盤が発表された日から、ネットでも「ダウンタウンがNGKに立つ?!」と騒がれていたし、吉本の芸人さんも「もしかしたらあるんじゃないか」と噂していました。

私はいわゆるダウンタウン世代じゃないしごっつも知らないし2人がネタをしているのも見たことがないです。ただ、去年TBSで放送された「キングオブコントの会」でやっていた松本人志の書下ろしコントを見たときに、「ごっつってこんな感じだったのかなあ」と、ダウンタウンがお笑いの『演者として』生きていた時代を少しだけ、ほんの少しだけ感じることができたのです。バイきんぐ小峠さんとやっていたそのコントがめちゃくちゃ面白くてテレビの前で大笑いして、ああこの笑いをもっとリアルタイムで体感してみたかったなあという思いがずっと心のどこかにありました。
だからこの舞台のチケットが発売されたときは、迷わずぽちりと購入ボタンを押したのです。このご時世なので現地に行くのは憚れ(そもそもチケットは手に入らなかったと思います)、吉本の劇場の中でもダントツで椅子がフカフカな有楽町シアターでおこなわれるライブビューイングで鑑賞することに決めました。元映画館だけあるんです。


そして今日。私がいつも行くお笑いライブは観客の大半が若い女性なのですが、今日は家族連れや中年くらいの方たちが多くて「ダウンタウンすげえな」と思いました。小さい子供たちは親に連れてこられたのかなあなんて考えながら開場。劇場に来慣れていない人が多かったからか、けっこうわちゃわちゃしてました。観客はみんな、私含めどこかソワソワフワフワしているように思えました。

伝説の一日 千秋楽 参回目。
口上はやすとも姐さんと中田カウス師匠で、とても良いことを言ってたんだけど、霜降りANNリスナ―は口元に笑みを浮かべながら見てたと思います。あそこで笑っていた人がいたら同志です。

口上が終わると各出演者のネタが始まって、もちろん見たことあるものもあれば初めて見るものもありました。ビスブラさんのあのネタ、あれで笑わない人がいたら会ってみたいです。お腹ちぎれるくらい笑いました。今度は絶対に生で観たい。たくさん東京来てくれ~と思いました。

全部書くと書ききれないので、いちばん覚えておきたい、あの時間に私が感じたこととわずかに記憶している景色を残しておきます。

そのときが近づくにつれて、なんとなく客席にも緊張が走っていたように感じます。なんというか、色々な噂が飛び交っていたここ何週間かの期待値が、ボルテージが、静かに最高潮を迎えていたような気がします。

だけど、緞帳が開いていき、舞台にセンターマイクが立っていないことに気が付いて「まあまあまあそうだよな、ダウンタウンが漫才するなんてちょっとそれは期待をしすぎてたな」と、あれだけ楽しみにしていた二人のネタにすぐに諦めがついたというか、やっぱりなという感じで全くがっかりはしなかったです、不思議なことに。

あとダウンタウンが袖から出てきたとき、「ダウンタウンって袖から出てくるんだ」と思いました。私の中ではダウンタウンは完全にテレビの人なので、舞台の真ん中に向かって歩いてくる二人を見て「あ、本当に今NGKにダウンタウンが立っているんだな」と全身に興奮の波が広がりました。

いよいよダウンタウンが舞台の真ん中に来るぞというとき、下からセンターマイクがゆっくりと顔をのぞかせたのです。ここで私の興奮がK点越え。NGKの客席も一段と湧いているのがわかりました。有楽町シアターにいた観客も、みんなグっと前傾姿勢になったと思います、気持ちが。

そこからは、もうもうもう!という感じです。ネタに関しては配信もまだあるので詳しくは書きませんが、ちょっとでも興味ある人はネットニュースで見た気にならずに自分の目で見た方がいいと思います。ただ、あれ、ネタ合わせなしのほぼアドリブだったらしいです。凄すぎます震えます。20代前半の私が震えて興奮して明日仕事とか信じられないよって状態なので、世代の人はどう思ってなにを感じたのか、単純に気になります。

30分間漫才をやってたらしいけど、体感10分。集中してできるだけ瞬きをしないようにスクリーンにだけ集中して過ごしていたら10分でした、あれは。
ネタの中で浜田さんは「帰りたい」と言っていたし松本さんも「吉本にやらされてんねん」感を出していて、うわーダウンタウンだなと思いました。テレビでしか知らない若造がなにを言ってるんだという感じですが。

とにかく、あの30分を見られただけでもお笑いファン冥利に尽きるというか、生きててこんなすげえもん見られるんだと思いました。私の語彙力がないだけで本当に凄かったんだから。伝説だとか天才だとか、一日に何万という人が何万という機会に使っている言葉は私も簡単に口に出してしまうんだけど、今日はまさに、本当に伝説だった。今日が。

ただ、普段から劇場でお笑いを見ている私としては、この二日間でNGKに立てていない芸人さんのことがずっと頭のどこかにありました。

開場を待っているときに小学生の女の子が「やさしいズ出ないの~?」と嘆いていて、私は「本当にそれな!!!」と言いたくなりました。劇場にはまだまだ多くの人に知られていなかったり、賞レースに出ても10年に一度の大舞台に立てない人がたくさんいて、その人たちを思うと本当に全員NGKに立ってほしいと思います。本当におもしろい人がたくさんいるんだから。

伝説の一日、10年後は現地で観たいですね。そのときは私を毎日笑わせてくれている芸人さんが一人でも多くNGKに立てますように。そしてまた、この目で伝説を目撃したいです。

DOWN TOWN / EPO

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