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第275話:私が先生をちゃんと死なせます
昨年の8月の人間ドックを受けました。血液検査、腹部エコー、胸部レントゲン、胃のX線検査、すべて異常はないとのことでした。
もう15年以上毎夜、酒を飲み、煙草は40年間、コンスタントに一箱を吸い、日々はほとんど疲れ切ったボロ雑巾のように生きているのに。丈夫な体をくれた親に感謝したいと思います。
ただ、今回のカウンセリングの先生は呼吸器系の専門の先生で、こうも言われました。
「レントゲンで見る限り特別の異常は見えない。でも僕らの目で見ると肺が汚いと思う。この白い部分にガンが潜んでいてもおかしくない。レントゲンでは本当の肺の状態はわからないのでその気があればCTをぜひ撮ることを勧める」と。
なので、
「今から控えれば大丈夫でしょうか」
と問うと、
「いや、喫煙の本数と年数で危険率はほぼ決まるから、本数を減らしても、辞めても基本的には手遅れ」
と言われてしまいました。
厳しい・・。
生徒には「煙草をやめたら」とよく言われるのですが、「煙草を辞めたら今日を生きていけないんだ」と言います。煙草を吸わなければ仕事から離れられずに、休憩するタイミングを作れない。どんな豪雨であっても外にタバコを吸いに行くのはそのためです。
って言うのは単なる詭弁なのかもしれませんが。
以前にも書きましたが、前の学校の部活の女子部員たちが年に一度忘年会に呼んでくれるのですが、その子たちは医学部に二人、看護学部に何人か進学。そうそう薬学部も数人いました。お母さんが師長さんだったり、お姉さんが検査技師をしている生徒もいて、そのほかにも経営だの法律、種々多々の学部に進学しているし、医療メーカーに勤めている卒業生もいるので、「みんなで病院を建てて、オレが病気になったら救え!」と言ってきかせていました。
彼女らは「はーい」と言いながら、「私たちが一人前になるまで生きているためには煙草をやめましょう」と言うので、「ストレスで明日死んじゃうかもしれないじゃないか」と言うと、「大丈夫、死なないから」などと僕の詭弁には乗る気はさらさらありません。
そんな会話をしていたのが7、8年前。
今回も昨年の暮れに忘年会でその子らと飲んだのですが、もう就職して立派な社会人になっていました。
看護師と薬剤師になって働いている卒業生に、その人間ドックで「手遅れ」と言われた話をしてみたところ、
そう先生、もうダメだと思う。多分、先生の肺は真っ黒でもう回復しません。でもね先生、ストレスを溜めないことが一番だからあんまり根を詰めないで仕事してくださいね。最近、私、病院にいて癌と向き合う人と一緒にいて、人の最期ってすごく大事だと思うようになりました。
癌になったら必ず連絡ください。私が先生をちゃんと死なせます。
ときっぱり言われました。
私が先生をちゃんと死なせます・・。
いや、もしかしたらもうちょっと穏やかな言い方だったかもしれませんが、僕にはそう聞こえました。
かつてのような甘い慰めを半ば期待していた僕はちょっと衝撃を感じないわけでもありませんでしたが、「大人になったなあ」と彼女らの成長を感じたりした次第です。
■土竜のひとりごと:第275話