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第270話:詩:自己嫌悪

どうでもいいことを
ふと思いついたりするもので、
この間
通勤の帰り道、
ほとんど信号にかからずに
スイスイと帰れたことがあった。

それで、ふと
通勤の道には
幾つ信号があるだろうと
考えてみたのだった。

片道25キロの自動車通勤。
混んでいなければ40分くらいだろうか。
混んでいれば1時間ちょっとかかる時もある。
途中、信号のないバイパス道路を走るので
そんなに信号が多いわけでもない。

そこで職場からの帰り道に
信号の数を数え始めてみた。

ところが
6個まで数えて
つい数えるのを忘れて
気がついたら家に着いていた。

翌日は
そんなことも忘れて
ただ家に帰ってきてしまった。

その翌日
意を決して数え始めたが
10個目まで数えたのに
その後
ふと何かに気を取られて
気がつくと
もう数カ所を通り越してしまっていた。

信号も等間隔にあればいいのだが
田舎道のことで
まばらに登場する。
どうしても信号と信号の間に
他のことを考える空白が生まれてしまう。

・・数日間は
自分がそんなことをしていたことさえ忘れて
過ぎていった。

ある日また
ふと思い出し
今日こそはと思いついて
数え始めた。

13個目まで数えて
次は14個目だと自分に言い聞かせながら
しかし
次の信号に差し掛かった瞬間に
それが14個目だったか
15個目だったかが
こんがらがってしまった。
これではまるで「時そば」のようではないか。

自分の愚かさに苛まれる・・。

そこで家に帰って
職場から家までの道筋を
頭の中でイメージしながら
そこにある信号を数えてみた。
ところが
どうしても途中で道がこんがらがる。
自分が毎日通っている道が
思い出せずにこんがらがるのだ。

かと言って
GoogleとかAIのお世話にはなりたくない
というみみっちいプライドはある。

何故だ、
明日こそと思ったりもするが、
でもまた、
そんなことを全く忘れたまま
数週間の時が過ぎる。

ある時
ふとまた思い出し、
今度は区切ってみようと考えた。

翌日
10まで信号を数えて、
この信号が10個目だと自分に記憶させた。
その翌日は
その次の信号を11として数え始め、
20までを確定させた。

これはなかなか素晴らしい方法だった。

そして今日、
家のかなり近くまで来て
29個まで信号を数えた。
やった!
あとこの先にあるのは多分2個だ
と思ったところで踏切に引っかかった。

電車が通り過ぎたあと
車を発進させると
あと2個だと思っていた信号が、
実際には3個あった。
あれっと、
それに気づいた瞬間に
踏切の手前にあった信号を
数えたかどうかの自信を失った。

そんなわけで、
家に帰ってきて
今、自己嫌悪に陥っている。
もうこんなことを2ヶ月ほどもやっているのに
結論を得られない。

勝手な思いつきで始めたことが
勝手に自己嫌悪を招いていく愚かさ。
自分で仕掛けた罠に
自分でかかってもがいているような。
人間てそんなものかもしれないと
「戦争」だってそんなものだろうと
自分の愚かさを「人間」に転嫁してみたりもする。

面倒だから
別に信号の数を知らなくてもいいんだから
もうやめちゃおうかと思いつつ、
生きるってなぜこんなに面倒なんだと
脈絡のないことを思いつつ、

自己嫌悪を肴にして
飲んだくれている今日の月夜であるのであった。


■土竜のひとりごと:第270話


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