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誰にも言えなかったことが笑い話になった日

もうすでに学校は始まっているようだが
今までだったらもうすぐ夏休みが終わるから
ちょっと憂鬱になる頃。

夏休みは毎年ちょっと思い出す出来事がある。

中学3年生の頃だったと思う。
私は吹奏楽部とバレーボール部に所属していて
夏の間だけ水泳部にも入っていた。

夏休みは毎日
朝早くから吹奏楽部へ行って
その次には水泳部に行って
その後バレーボール部へ行くという
めちゃくちゃハードな日々を送っていた。
帰ってくるとヘトヘトだった。

まずは吹奏楽部へ行くのだが
私は水泳部の練習にスムーズに移行できるように
家からすでに水着を中に着て行っていた。

ある日の朝、いつものように
プールバッグを下駄箱の上にポイッと投げて
吹奏楽部へ向かった。

吹奏楽の練習が終わって
プールバッグをピックアップしに下駄箱へ行くと
近くに前田くんという男の子が立っていた。

ドアに右手をついて
左手は腰について
右足は曲げて左足にクロスさせて爪先だけついているような
なんだかとっても不自然なポーズをとっていた。
そしてやたらとこちらをチラチラと見ていた。

なんだろ…気持ち悪いな…
と思っていた。

プールバッグを急いで取りあげて
水泳部の練習に向かった。

練習が終わって着替える時
着替えのパンツがないことに気がついた。

探しても探してもない。
でも忘れてくるはずもなかった。
なぜなら私は忘れ物がないように
チェックリストまで作って
前日にプールの用意をしていたし
しかもその日は下ろしたてのパンツを入れていたからだ。
おニューのパンツをしっかり入れたので
忘れているはずがなかった。

すぐにハッとした。
絶対に前田くんだと思った。

すぐに先生に相談しようかと思ったが
みんなにパンツのことを知られるのが恥ずかしくて
誰にも言えないままでいた。


それから15年くらいたって
お盆休みで実家に帰省した時のことだ。
実家に帰るといつも
母と兄と私で夜中の2時くらいまで
おしゃべりするのがいつものパターンなのだが
いきなり母が
「そう言えば前田くん帰ってきてるらしいよー」と言ってきた。

前田くんとは学生時代だって一言も喋ったことがないのに
母はなぜその情報を提供してくれたのかわらないが
私はあのパンツ事件のことを思い出した。
そして私は15年越しであの出来事をはじめて家族に話した。

「恥ずかしくて今まで言えなかったんだー。」と言ったら
母は「そんなことがあったの…言ってくれればよかったのに。」と言ってくれた。
そして兄は
「新しいパンツだったなんて前田くんからしたらガッカリだね。」と言った。

まさかの前田くん目線での感想に
私とお母さんは大爆笑した。
今までちょっと引っかかってて言えなかった出来事が
笑い話になった瞬間だった。

「まぁ前田くんはおニューってこと知らないからいいのか。」
とまた兄がポツリと言った。

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