君は希望を作っている #35

 ある日きぼうで社長が沙羽に笑いながら言った。
「こないだは希望食べられなくって残念だね、所でさ、なんか最近プログラミングをしてるの見たことない気がするんだけど……どうしたの?もう希望作んないの?」
沙羽は少し俯いて言った。
「なかなか上達しなくって、数か月でフリーランスになったって話も聞くのに……」
社長は冷たく言い放った。
「で、ってことは、もうプログラミング嫌い?諦めちゃう?」
沙羽は反論する。
「嫌いとか好きとか、プログラミングのこと、まだよくわからないし。別に私は、小説で書いたからちょっと興味持って、この世界のこと書いている人も少ないし、料理や裁縫みたいに、作りたいものが作れればいいかなって思っただけで……」
「小説で仕事まで変えちゃうの?」
社長はかなり驚いたのか、大袈裟に仰け反った。
「だって私、純文学に勝手に貧乏と孤独のイメージ付けられてムカついて!嫌じゃない、『鈴木翔は性格悪い』ってみんなが信じていたら」
社長はいやぁ、性格は本当に……と呟いたけれど沙羽は譲らない。
「そうじゃないでしょ?だから私は、これから勉強をして、そこから見たもの、出会った人を書きたい」
おっ、やる気だ、社長は茶化す。
「そだね、料理も裁縫も、始めは上手くいかなかった、同じだ、ありがと」
素直にありがとうを言われて、社長はいやぁ、僕は何も、と少し照れながら去って行った。 

 お昼、もう杖は持っているだけの黒崎だが、もう弁当は作ってきてあると言うので、いつものように沙羽と海老原だけがスーパーへ行って、買い物袋をぶら下げてきた。
 みなで机を囲んで、こないだ希望通りへ行ったことになった。
「結局希望は食べられなかったね」
「あれ、もったいないよ、希望っていう名前にちなんだお菓子でもあればいいのに」
沙羽がぶーぶー言う。
「っていうかさ、希望って食べ物じゃないよね?」
黒崎が誰も言っていない、言ってはいけないことを言った。海老原はあぁ、とため息をついた。
「例えば葡萄が食べたくて、希望は葡萄、でも売ってないってことはある。でもいつも葡萄が食べたいわけじゃないでしょ?林檎が希望の時もあるでしょ?ねぇ、沙羽、もう探すの辞めなよ、のぞみって電車はあったような気がするけど、のぞみに乗るのが望みじゃなくて、それでどこへ向かうかでしょ?」
黒崎は少し沙羽を気遣ってか忠告した。
「こないだも倒れたんでしょ、まだ正社員は難しいわよ、普通に心配だもの。自分で作ってアプリを売るって話はどうなったの?やってないじゃない」
沙羽は少し俯いて言った。
「今は公募が……」
黒崎は強くはっきり言った。
「先輩たちみんな働きながら応募しているんでしょ?甘えるんじゃないわよ」
沙羽は少し涙ぐんで、わかっている、と言った。
「まったく、これじゃ私がいじめているみたいじゃない」

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