君は希望を作っている #14

 別の利用者たちは就職面接の練習をしていた。
「きりがいい時に、私も参加しようかな」
「どうぞどうぞ、それなら午後に空いています」
佐藤の笑顔はあいかわらずだ、YouTubeでわかったようなわからないような気分になったとぼやいていた沙羽は昼休みに弁当を忘れていたことに気が付いて、
「お昼買いに行ってきます」
と伝えてきぼうの外へ出かけた。
「あ、僕も」
来ていた海老原が言う、
するとそれを見ていた黒崎が言った。
「沙羽さん、嫌味なの?」
「はい?」
呼び止められて、沙羽は足を止める。
「ここら辺歩道がないでしょう、私車椅子なのよ?一人で行けると思う?あぁ、お腹空いたなぁ」
「はぁ」
確かにここら辺の歩道は狭く車道も近く、バリアフリーとは言い難い。
「じゃあ押してあげるよ、沙羽さん、黒崎さん、いいでしょ?」
「あ、はい」
「あら、催促したみたいで悪いけど、お願いね」
いつも黒崎についている優しそうな支援者に挨拶をして、三人で車に気を付けながらきぼうの近くの地元のスーパーへ。
 歩いていると気にならない小さな段差が、路肩にあるどぶを塞ぐコンクリートの不揃いが、なんて気無しに突き出した入口に続く階段が、黒崎に「もっと優しく押してよ!」と車椅子を押す海老原へ罵詈雑言を言わせる。
「あ、はい」
海老原はただ何が嬉しいのか笑ってその指示に従っていた、そしてけして長くはないきぼうからスーパーまでの距離をそれにしては時間をかけて歩ききって、黒崎は言った。
「ね、ここのスーパーさぁ、なんか味甘くない?どこか別なとこないかなぁ」
「え?ここから?」
「飽きた」
わがままな黒崎に、沙羽は困り果てて辺りを見渡す。
「じゃあ、駐車場にビッグがあるよ」
「ビッグかぁ、まぁいいわ」
よし、海老原が力を込めて黒崎の車椅子を押す。

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